『ソード・オブ・デスティニー』

『ソード・オブ・デスティニー』本篇映像より引用。
『ソード・オブ・デスティニー』本篇映像より引用。

原題:“Crouching Toger, Hidden Dragon : Sword of Destiny / 原題:“臥虎蔵龍 青冥宝剣” / 原作:ワン・ドウルー / 監督:ユエン・ウーピン / 脚本:ジョン・フスコ / 製作:チャーリー・ニューエン、ピーター・バーグ / 製作総指揮:ハーヴェイ・ワインスタイン、モルテン・ティルドゥム、ロン・バークル、テッド・サランドス、ポーリーン・フィッシャー、サラ・ボウエン、ジェイ・サン、ラ・ペイカン、ボブ・ワインスタイン、アンソニー・W・E・ウォン、デヴィッド・C・グラッサー、サラ・オーブリー、ラルフ・ウィンター、デヴィッド・スワイツ、ジェフ・ベタンコート / 撮影監督:ニュートン・トーマス・サイジェル / プロダクション・デザイナー:グラント・メイジャー / 視覚効果スーパーヴァイザー:マーク・ステットソン / 編集:ジェフ・ベタンコート / 衣装:ナイラ・ディクソン / 音楽:梅林茂 / ピアノ演奏:ランラン / 出演:ミシェル・ヨー、ドニー・イェン、ハリー・シャム・Jr.、ナターシャ・リュー・ボルディッゾ、ジェイソン・スコット・リー、ユージニア・ユアン、ロジャー・ユアン、ジュージュー・チャン、クリス・パン、ユーン・ヤング・パーク、ダリル・クォン、ヴェロニカ・グゥ / 配給:Netflix
2016年アメリカ作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:? / PG12
2016年2月26日全世界同時配信
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/80039717
Netflixにて初見(2020/05/16)


[粗筋]
 剣の達人リー・ムーバイが亡くなって18年が過ぎた。彼と愛し合いながらも亡き許嫁に操を捧げたユー・シューリン(ミシェル・ヨー)はそれ以来、孤独を貫いている。
 皇帝の兄弟でムーバイら武術の達人たちを手厚く保護していたティエ氏がこの世を去り、その弔いのためにシューリンは北京へと赴いた。その道中、謎の覆面の集団に襲われてしまう。突如として現れた救援もあって切り抜けたが、倒した襲撃者がヘイデス・ダイ(ジェイソン・スコット・リー)の手のものだと知り暗然とする。
 ヘイデス・ダイはウェスト・ロータスという寺院を拠点に、武術の世界を制圧しようという野望を抱いていた。彼はムーバイが携えていた伝説の名剣・碧名剣グリーン・デスティニーを手に入れることを望んでいたが、ムーバイの死以来行方の解らなかったその所在が、ティエ氏の屋敷にあることを知ると、女魔導士マンティス(ユージニア・ユアン)の宣託に従い、ウェイ・ファン(ハリー・シャム・Jr.)を送りこむ。
 シューリン襲撃に失敗して逃げ戻っていたウェイ・ファンは汚名返上のために奮起したが、シューリンと、思わぬ伏兵の力もあってあえなく捕らえられてしまう。
 ヘイデス・ダイが本気で剣を狙いに来たことを確信したシューリンは、いまティエ氏のもとにいる兵力では足りない、と考え、義勇兵を募った。呼びかけに応じて馳せ参じた、腕に覚えのある武術家は5名。そのひとり、サイレントウルフ(ドニー・イェン)を出会ったとき、シューリンは衝撃を受ける。彼はシューリンにとって、浅からぬ因縁のある人物だった――


[感想]
 アカデミー賞10部門ノミネート・4部門獲得という快挙を成し遂げた『グリーン・デスティニー』の正統的続篇――ではあるのだが、妙に手触りが異なる。制作時期としては16年もの隔たりがあるが、立て続けに鑑賞すると余計にその違和感が際立ってしまう。
 監督こそ前作でアクションを開発したユエン・ウーピンが手懸け、主演としてミシェル・ヨーが続投している。原作のクレジットも同一で、続篇としての体裁は整っているのだが、しかし手触りは妙に違う。
 恐らくその大きな原因は、本篇が物語としての舞台、世界観を中国に求めながら、英語で綴っている点にあるように思う。
 そうせざるを得なかった事情もあるのだろう。前作が国際的に評価されたことで、続篇にはハリウッドの資本が加わった。製作にはハリウッドの面々が連なり、脚本家もそれまで英語での作品を手懸けている人物であることから、シナリオ自体が英語で書かれた、と推測される。配信では中国語音声も選択出来るが、口の動きは明らかに英語音声とシンクロしているので、撮影自体も英語で行われたのだろう。恐らくそれゆえに、本篇で新たに登場したキャラクターはすべて英語の名前になっている。それぞれの響きからして、いずれも漢字での表記を持っていると思しいが、シューリンやムーバイがそのまま前作を引き継いでいるためにどうしても違和感がつきまとう。
 ストーリー的にも、前作の価値観、方向性を引き継いでいる点は評価出来るが、その枠内に納めようとするあまりに不格好になった感が強い。武侠に生きる者の野心や使命感が入り乱れ、そこにジェンダーの要素が絡む、という主題の扱いは前作を踏襲しているものの、いずれの点でも前作より振り幅が狭く、組み立てが歪でドラマとしての奥行きに欠いている。ウェイ・ファンとスノーヴァース(ナターシャ・リュー・ボルディッゾ)の関係性は本篇において最も際立った着想と言えるが、その立場、関係性故の葛藤が充分に描けていないので、深みにまで達していないのだ。そうして充分に練り上げられないまま物語がクライマックスに入ってしまうので、前作のような牽引力も情緒も醸成しきれずに終わってしまう。ストーリーにだけ着目すると、ハリウッドではありがちな、規模は大きくなったが内容的に萎んでしまった続篇の典型に近い。
 だが一方で、アクション描写の質は落ちていない。達人級のキャラクターが増え、終盤では乱戦の様相を帯びるので、量という意味でも充実しているが、質とアイディアの素晴らしさは前作に決して引けを取っていない。ここで貢献しているのは、ドニー・イェンの参加だろう。初めてしっかりと顔を見せた際の、座ったまま複数の敵をあしらう手業の鮮やかさも見事だが、特に素晴らしいのはクライマックス手前、凍った池の上で繰り広げるアクションだ。足許は氷、踏みしめれば割れ、力を受け流せば滑ってしまう。しかしそうした氷上だからこそのリスクを特異性として、風変わりなアクションが展開される。凍てついた空間ならではの静謐さと美しさは、前作の代名詞である竹林での戦いに匹敵する出来映えと言っていい。
 監督のユエン・ウーピンは、前作と同時期に『マトリックス』のアクションも手懸け、ワイヤーなどのギミックを駆使した香港流の手法を世界標準に押し上げた功労者だが、ブルース・リーの後釜扱いをされたが故に不本意な活動しか出来ずにいたジャッキー・チェンが自らのスタイルを確立させた『スネーキーモンキー/蛇拳』『ドランクモンキー 酔拳』を監督した人物でもある。そう知って鑑賞すると、弟子入りを願い出たスノーヴァースにシューリンが施す指導の様子にニヤリとさせられる。それが、『酔拳』のような男から男へ、ではなく女から女への伝承になっている点が、前作への敬意であり、前作の底に流れていたジェンダーへの眼差しを受け継いでいるとも読み取れる――だからこそ、全体を貫く掘り下げの甘さが惜しく思われてしまう。
 前作の独創的で流麗なアクションに魅力を感じていたひとには申し分はない。多少辻褄は合わなくても、波瀾万丈の展開を求めるようなひとも楽しめるだろう。ただ、そこから更に一歩先に到達していた前作を思うと物足りなさは禁じ得なかった。


関連作品:
グリーン・デスティニー
スネーキーモンキー/蛇拳』/『ドランクモンキー/酔拳』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアン・モンキー』/『マトリックス』/『イップ・マン 継承
バビロン A.D.』/『トリプルX:再起動』/『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2
ファイナル・ドラゴン』/『飛龍神拳』/『成龍拳』/『風雲 ストームライダーズ』/『風雲 ストームウォリアーズ』/『HERO 英雄』/『LOVERS』/『セブンソード』/『処刑剣 14 BLADES』/『捜査官X』/『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝

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