『天外者(てんがらもん)』

TOHOシネマズ上野、スクリーン7入口脇に掲示された『天外者(てんがらもん)』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン7入口脇に掲示された『天外者(てんがらもん)』チラシ。

監督:田中光敏 / 脚本:小松江里子 / プロデューサー:近藤哲 / 製作総指揮:廣田稔 / 撮影監督:山本浩太郎 / 美術:原田哲男 / 照明:香川一郎 / 編集:川島章正 / 衣裳:大塚満 / 録音:松本昇和 / 音楽:大谷幸 / 題字:紫舟 / 出演:三浦春馬、三浦翔平、西川貴教、森永悠希、森川葵、筒井真理子、蓮佛美沙子、生瀬勝久、内田朝陽、迫田孝也、六角慎司、丸山智己、徳重聡、かたせ梨乃、田上晃吉、榎木孝明、八木優希、ロバート・アンダーソン / 製作プロダクション:クリエイターズユニオン / 配給:ギグリーボックス
2020年日本作品 / 上映時間:1時間49分
2020年12月11日日本公開
公式サイト : https://tengaramon-movie.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2020/12/26)


[粗筋]
 薩摩藩士・五代才助(三浦春馬)は幼少時から知性に恵まれ、他人にない発想をかたちにする男だった。時の藩主・島津斉彬(榎木孝明)はその才を見込み、“才助”の名を与えると共に、長崎にある海軍伝習所に送り、海外から持ち込まれた最新の知見を学ばせる。
 その才能は長崎でも有名だったが、同時に才助は大言壮語も多く、武士の世を過去のものと断じる姿勢は周囲から忌み嫌われる傾向にあった。数少ない理解者である坂本龍馬(三浦翔平)、岩崎弥太郎(西川貴教)、伊藤利助(森永悠希)としばし囲炉裏を囲んで大望を語り、その一方で龍馬らと共に積極的に学び、新しい時代のための布石を欠かさなかった。
 ほどなく、本格的に迫りつつあった異国の脅威に備えるべく、薩摩藩では軍艦の導入を決意した。斉彬亡き後、家督を継いだ弟の久光(徳重聡)は、上海で船を買い上げ戦艦に改良するよう命じる。
 才助は船の調達には成功したが、軍備が整うよりも先に薩英戦争が勃発してしまった。才助は交渉役としてイギリスの艦隊に乗り込み、撤退させることに成功するが、同時に囚われの身となってしまう。
 かねてから才助が懇意にしていた遊女はる(森川葵)が上得意の外国人に口利きを願い出たことで才助は横浜にて解放されるが、おめおめと生き存えた彼を由としない藩士たちに付け狙われ、しばし逃亡の日々を送るのだった。
 ようやく長崎に辿り着いた才助は、自身を救った代償にはるが外国人に身請けされた事実を知る。既に父・秀堯(生瀬勝久)も他界しており、薩摩に残る利点がないことを悟った才助は、髷を切り、武士の世界との訣別を誓う。
 才助は武器商人トーマス・ブレーク・グラバー(ロバート・アンダーソン)らの援助を得、イギリスへの遊学を実現させた。技術の習得や、最新の兵器、工作機械の輸入を手引きしながら、才助は異国の地にはるの面影を探し求める……


[感想]
 五代才助、後年に友厚と改めた彼は、日本経済の要として大阪の再興を実現、渋沢栄一とも比較されるほどの功績を残した人物である。スキャンダラスな事件にも関与したと言われ、その評価は割れるが、確かなその才覚と志を伝えるべく、有志たちが7年がかりで完成させたのが本篇、ということらしい。
 その熱意と、強い畏敬の念ははっきりと感じられる。だが恐らくはそれ故に、かなりダイジェスト感も色濃い内容になってしまったように思う。
 見せ場は多い、というより、全篇ほぼ何らかの事件に絡んでいたり、五代友厚や彼と関わる人物像を際立たせるためのもので、無駄はない。ただ、それぞれの出来事のピークや断片を差し込んでいくような組み立てなので、物語としての全体像を観る側で構築しにくい。そのため、全体から受ける印象が散漫になってしまった。
 とはいえ、薩英戦争で捕虜となったことや、遊学にまつわる経緯、更には明治期に衰退した大阪経済立て直しのために尽力した件など、経済を軸としながらも多岐に亘った活動のごく一部だけに焦点を合わせては、五代友厚の既成概念や因襲に束縛されない柔軟さ、大胆さを描くのは難しかっただろう。それを映画の、2時間にも満たない尺のなかに詰めこもうとすれば、こんな風に思うさま見せ場を詰めこんだような作りになってしまうのも致し方ないのかも知れない。
 映画としてはだいぶまとまりを欠いてしまったが、しかし熱量は凄まじい。友厚と同時代を生き、それぞれの信念に従って日本を牽引していく坂本龍馬、岩崎弥太郎、伊藤博文の出会いを、狂騒的な追いかけっことしてまとめ、実際の史実に基づく出来事を挟みながら断続的に描いていく、力強い序盤。自らの能力を信じ、少しでも多くの知見を得、刻一刻と迫る変革の時に備えようとする我武者羅なさまは如何にも青いが、その躍動感、活力はこの上なく眩しい。物語は友厚の青年期から晩年まで、20年以上の長きに及ぶものだが、終始熱気を帯びた描写は青春映画の趣がある。
 爽やかさの強い三浦翔平の龍馬、商人気質を強調した西川貴教の弥太郎、序盤の頼りなさに愛嬌すらある森永悠希の利助=伊藤博文、いずれも意外でありながら納得のいく人物像を築いているが、何と言っても出色は三浦春馬による才助=友厚だろう。序盤に見せる躍動感と一種の尊大さ、それでいて子供たちや遊女はるに対して見せる無邪気な表情のコントラスト。立ち回りでは見事な貫禄を示し、言葉による駆け引きの場面での気迫も凄まじい。友厚という、他の志士たちよりは長く生きたが、しかし極めて密度と熱量の高い人生を見事なまでに体現している。もともと役者としての色気のある人物だ、と思っていたが、その資質を遺憾なく発揮した熱演ぶりだ。
 パンフレットに収録された年譜を参照すると、本篇の描写はだいぶ史実を脚色している。行動や功績は実際にあったとしても、同時期にはあり得ないことを編集し、圧縮して描いている場面が多い。伝記としては問題があるが、だが恐らく友厚が経験した歴史、その行動に表れた意志を、映画の限られた尺の中で理解してもらう、という意味で適切だろう。しかもそのまとめ方には友厚に対する敬意が感じられ、かつドラマとしての熱量を絶妙に高めている。大阪商人たちを前に熱弁を振るうくだりや、亡くなったあとのひと幕など、さすがに非現実的な印象も受けるのだが、そこまでに描かれた友厚像を思えば、この華々しさが欲しかった、というのも理解できる。そして、こうした彩りに相応しいくらい、本篇における三浦春馬は名演だった。
 あまりに荒々しい組み立てに、個人的には“傑作”と安易に呼ぶことは躊躇われるのだけど、その熱量には太鼓判を捺したい。観ると、活力が漲るような感覚のある力作である――そして、だからこそ、三浦春馬という俳優がもうこの世にいないことが惜しまれてて仕方ない。


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コメント

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