『トータル・リコール(1990・4Kデジタルリマスター・字幕)』

TOHOシネマズ新宿、スクリーン6入口脇に掲示された『トータル・リコール(1990・4Kデジタルリマスター)』チラシ。
TOHOシネマズ新宿、スクリーン6入口脇に掲示された『トータル・リコール(1990・4Kデジタルリマスター)』チラシ。

原題:“Total Recall” / 原作:フィリップ・K・ディック『記憶売ります』 / 監督:ポール・ヴァーホーヴェン / 原案:ロナルド・シュセット、ダン・オバノン、ジョン・ポーヴィル / 脚本:ロナルド・シュセット、ダン・オバノン、ゲイリー・ゴールドマン / 製作:バズ・フェイシャンズ、ロナルド・シュセット / 製作総指揮:マリオ・カサール、アンドリュー・G・ヴァイナ / 撮影監督:ヨスト・ヴァカーノ / プロダクション・デザイナー:ウィリアム・サンデル / 編集:カルロス・プエンテ、フランク・J・ウリオステ / 衣装:エリカ・エデル・フィリップス / キャスティング:マイク・フェントン、ヴァロリー・マサラス、ジュディ・テイラー / 音楽:ジェリー・ゴールドスミス / 出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、シャロン・ストーン、レイチェル・ティコティン、ロニー・コックス、マイケル・アイアンサイド、マーシャル・ベル、メル・ジョンソン・Jr.、ロイ・ブルックスミス、レイ・ベイカー、マイケル・チャンピオン、ローズマリー・ダンスモア、デヴィッド・ネル / オリジナル版配給:東宝東和 / 4Kデジタルリマスター版配給:REGENTS / 映像ソフト日本最新盤発売元:KADOKAWA
1990年アメリカ作品 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:? / R15+
1990年12月10日オリジナル版日本公開
2020年11月27日4Kデジタルリマスター版日本公開
2019年10月4日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
4Kデジタルリマスター版公式サイト : http://welcometorekall.jp/
劇場にてオリジナル版初見(1990年頃) TOHOシネマズ新宿にて4Kデジタルリマスター版初見(2020/12/1)


[粗筋]
 人類がその版図を土星にまで拡張した2084年。
 土木作業員として働くダグラス・クエイド(アーノルド・シュワルツェネッガー)は最近、悪夢に悩まされていた。ブルネットの美しい女と、火星の荒涼とした世界を歩いている途中、宇宙服が破損し、気圧で死にかかる、というものだった。妻のローリー(シャロン・ストーン)は気にしないほうがいい、と言うが、ダグラスはいまの仕事に対する違和感もあって、火星のことが心を離れなかった。
 そんなある日、ダグラスは通勤電車の広告で目にした、《リコール》というサーヴィスに関心を抱く。実際に旅行に出かける代わりに、その記憶を直接脳に植え付ける、というものだった。未だ多額の費用を要する宇宙旅行も意のままだという。
 同僚のハリー(ボビー・コスタンツォ)から危険性を指摘されたものの、衝動を抑えられず、ダグラスは《リコール》を受けてみた。当初はただの火星旅行の記憶をもらうつもりだったが、サービスの一覧にあった“秘密諜報員”という項目に惹かれ、そちらに切り替える。
 だが、脳に情報を書き込むよりも先にダグラスは突如暴れ出した。どうやら、何者かによって記憶を書き換えられたらしい、と察した《リコール》の従業員たちはダグラスの記憶を抹消、タクシーで送り返してしまう。
 職場まで送られた直後、ダグラスはハリーと仲間たちによって襲撃される。銃まで向けられたダグラスは反撃、瞬く間に全員を殺害してしまった。このとき初めて自らの戦闘能力の高さを知って、ダグラスは驚愕する。
 衝撃はそれだけに留まらなかった。這々の体で家に帰ったダグラスがローリーに事情を話すと、今度はローリーまでもが襲いかかってくる。
 果たしてダグラスとは何者なのか? やがて冒険の舞台は、火星にまで及んでいく――


[感想]
『プレードランナー』で知られるフィリップ・K・ディックの短篇小説を、肉体派アクション俳優アーノルド・シュワルツェネッガー主演で映画化した作品である。この当時、フィリップ・K・ディック作品で映像化されたものはまだ『ブレード・ランナー』くらいしかなかったが、本篇以降『スクリーマーズ』、『クローン』、『『マイノリティ・リポート』』、『ペイチェック 消された記憶』と次第に映画化の頻度が増していったことを思うと、ディック作品の価値を映画業界に見直させたきっかけ、と言えるのかも知れない。

 本篇の素晴らしさは、“自身のアイデンティティへの懐疑”という、ディックの小説に顕著な主題を保ちながら、そのサスペンス性を高め、かつ見事なプラスアルファを施して、魅力的なエンタテインメントとして昇華したことだろう。
 記憶を売る、というアイディア自体がいいのだが、その活かし方が実に巧い。自分の日常が虚構だった、と気づいたときから、味方だったものが次々にダグラスに牙を剥く。孤立無援となりながらも、過去にいる“本当の自分”が身につけたスキルを活かして、危機一髪の状況を辛うじていく。
 友人や妻と闘い、未知の何者かに追われる一方で、誰かが意図的にダグラスを手助けする。その“誰か”の設定が更なる謎と共にサスペンスを膨らませ、物語は終盤まで緊張と驚きが絶えない。初公開当時に鑑賞し、その後もテレビ放映などで何度も接している私は、間隔か空いたとは言い条、大枠は覚えていたのだが、それでも未だに楽しめるのだから凄い。
 その一方で、本篇のアクション、流血描写は思いのほかどぎつい。最初に襲撃した友人たちをあっさりと始末してしまうあたりもさることながら、駅での逃亡のシーンなど、どれほどの巻き添えが出たことか。過去の記憶を失っており死にもの狂いだった、という事情があるとは言え、たまたま犠牲になってしまったひとを楯代わりに銃弾を避ける辺りは、思わず眉をひそめてしまうほどだ。しかし、こうも派手にやっているにも拘わらず、観る側に許容させてしまう。本篇のオリジナル版が公開された当時、残虐な描写はむしろ苦手だった私が、本篇についてはほとんど気に留めてなかった、というのがいい証拠だろう……その後ホラー、スプラッタも普通に観るようになったことを思うと、はじめから耐性があった可能性も否定出来ないが。
 畳みかけるようなアクションと驚きの連続で観客を終始牽引しながらも、本篇はその随所に途切れなくユーモアを鏤め、ほどよい緩みを作っている。自動運転のタクシーに設置されたマペットの運転手の振る舞いや、火星の歓楽街に登場する《ミュータント》たちの姿など、少々どぎついが笑いを誘うようなガジェットがあちこちに仕掛けられ、画面のどこを観ていても興味深い。剣呑な場面であっても会話にはウイットがあり、擽りを怠らない。ストーリーとしての強度をこうした細かな工夫が補って、2時間足らずの尺に飽きるところが一切ない。
 本篇が製作された当時はまだまだ実写映画でのCG導入は進んでいない。それゆえに、ミニチュアやブルーバックを用いた合成で未来的なヴィジュアルを構築している。その見た目はかなり無骨だが、その泥臭さ、漲る生命感にはCGではなかなか醸し出せない魅力がある。薄汚れてどぎついヴィジョンは『ブレード・ランナー』や『マッドマックス』とも相通じるが、定着を決定づけたのは、本篇なのではなかろうか。
 今回の上映は、4Kデジタルリマスターを施したもの、ということだが、率直に言えば、“リマスター”という言葉に見合うほどクリアになった、という印象は受けなかった――『スター・ウォーズ』シリーズや『地獄の黙示録』など、継続的にその価値が認められ、権利者が時代に合わせて調整を繰り返してきたものと比較すると、やはりマスターの粗さを完全には払拭できなかったと感じる。しかし、30年を経てなおその面白さに曇りはなく、このリマスター版の公開が新しい観客に発見されるきっかけになればいいと思う。と言うか、観て欲しい。


関連作品:
トータル・リコール(2012)
クローン』/『マイノリティ・リポート』/『スキャナー・ダークリー』/『ペイチェック 消された記憶』/『NEXT ネクスト』/『アジャストメント
プレデター』/『キャットウーマン』/『マイ・ボディガード』/『マシニスト』/『スタンド・バイ・ミー』/『レインマン』/『ピンク・キャデラック』/『ドリームキャッチャー
カプリコン・1』/『ゴースト・オブ・マーズ』/『ジョン・カーター』/『ARIA the AVVENIRE』/『オデッセイ』/『アド・アストラ
マトリックス』/『バニラ・スカイ』/『トゥームレイダー』/『バイオハザード』/『カンパニー・マン』/『イエスマン “YES”は人生のパスワード』/『宇宙人ポール』/『50/50 フィフティ・フィフティ』/『グレイヴ・エンカウンターズ2』/『エリジウム

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