『ユージュアル・サスペクツ』

TOHOシネマズ日本橋、通路に掲示された『ユージュアル・サスペクツ』上映時の午前十時の映画祭11案内ポスター。
TOHOシネマズ日本橋、通路に掲示された『ユージュアル・サスペクツ』上映時の午前十時の映画祭11案内ポスター。

原題:“The Usual Suspects” / 監督:ブライアン・シンガー / 脚本:クリストファー・マックァリー / 製作:マイケル・マクドネル、ブライアン・シンガー / 製作総指揮:ハンス・ブロックマン、フランシス・デュプラ、アート・ホラン、ロバート・ジョーンズ / 共同製作&第2班監督:ケネス・コーキン / 撮影監督:ニュートン・トーマス・サイジェル / プロダクション・デザイナー:ハワード・カミングス / 衣装:ルイーズ・ミンゲンバック / キャスティング:フランシーン・メイスラー / 編集&音楽:ジョン・オットマン / 出演:スティーブン・ボールドウィン、ガブリエル・バーン、ベニチオ・デル・トロ、ケヴィン・ポラック、ケヴィン・スペイシー、チャズ・パルミンテリ、ピート・ポスルスウェイト、スージー・エイミス、ジャンカルロ・エスポジート、ダン・ヘダヤ、ポール・バーテル、カール・ブレスラー / パール・ストリート/バッド・ハット・ハリー製作 / 初公開時配給:Asmik Ace / 映像ソフト最新盤発売元:Paramunt Japan
1995年アメリカ作品 / 上映時間:1時間46分 / 日本語字幕:戸田奈津子
1996年4月13日日本公開
午前十時の映画祭11(2021/04/02~2022/03/31開催)上映作品
2019年4月24日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/1084379
初見時期不明(DVD Videoにて鑑賞) TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞(2021/11/04)


[粗筋]
 カリフォルニア州の港に停泊していたギャングの麻薬密輸船が爆発炎上し、船内から多数の屍体が発見された。生存していたのは僅か2名。ひとりは重度の火傷を負い病院の集中治療室へと担ぎ込まれたが、もうひとりの男、ヴァーバル・キント(ケヴィン・スペイシー)は無傷で確保された。ひとまずキントの身柄は銃器の不法所持により押さえられたが、司法取引により免罪とされ、釈放される運びとなる。
 関税局の捜査官デイヴ・クイヤンはニューヨークから飛行機で駆けつけ、釈放まで2時間の猶予を利用し、現地警察ジェフ・ラビン(ダン・ヘダヤ)のオフィスでキントの尋問を行う。
 クイヤンの狙いは、ディーン・キートン(ガブリエル・バーン)という男だった。元刑事だが、多数の疑惑により辞職、その後も詐欺、殺人など犯罪を重ねているが、いちど数年の禁錮刑を受けただけで決定的な尻尾を出さない。そのキートンが、この爆破事件の現場で目撃されていた、という連絡を受け、飛んで来たのである。
 クイヤンにとって唯一の手懸かりは、無事のまま確保されたキントだった。奇しくもキントは5週間前、廃棄予定の銃器を積載したトラックが襲撃された事件について、キートンと共に容疑者として一時拘留されており、その後行動を共にしていたという。
 当初はなにかに怯え、なかなか口を開かなかったキントだが、やがて事情を語りはじめた。5週間前、容疑者として面通しに連行されたのはキントとキートンの他、マイケル・マクナマス(スティーブン・ボールドウィン)、フレッド・フェンスター(ベニチオ・デル・トロ)、トッド・ホックニー(ケヴィン・ポラック)の五名で、彼らはいずれも銃犯罪のたびに疑惑の目を向けられる“いつもの容疑者”たちだった。同じ監房で夜を明かした際、マクナマスはある犯行計画を一同に持ちかけた。
 だが、この計画に当初、キートンは乗り気ではなかったという。キートンはイーディ・フィネラン(スージー・エイミス)という女性弁護士と恋仲になり、彼女の助力で堅気の道に進もうと躍起になっていた。トラック襲撃事件はイーディの尽力もあって立件されずに済んだが、キートンはキントに説得される格好で、犯行に荷担する。
 この計画自体は大成功だった。殺人を犯すこともなく、犯行の発覚に伴い50人にも上る汚職警官の摘発にも繋がる痛快な結果をもたらす。強奪した宝石類の現金化のため、一同はカリフォルニアに赴いたが、キント曰く、このときから事態は悪化の一途を辿っていった。
 キントが尋問を受けているその頃、全身に火傷を負った男の聴取が実施されていた。医師立ち会いのもと、ベッドに横たわったその男は狂ったように《カイザー・ソゼ》の名を連呼していた――


『ユージュアル・サスペクツ』予告篇映像より引用。
『ユージュアル・サスペクツ』予告篇映像より引用。


[感想]
 ミステリ愛好家のあいだでは未だ傑作として語り継がれており、その界隈の人であれば遠慮なく勝たれるのだが、しかしそれでも、未見の人のことを思うと、仕掛けに抵触するような説明は出来ない。が、そうすると切り口に非常に悩む作品である。
 ただ、恐らくこの作品の凄さは、1回観ただけで完全に理解することは出来ないはずだ。かく言う私自身、最初は仕掛けに“狡さ”を感じてしまい、必ずしも納得はしていなかった。
 しかし、いちど結末を見届けたあと、改めて最初から鑑賞すると、尋常でなく複雑な構成に感銘を受けるはずだ。最初の鑑賞で知った“真実”を前提として、物語を再構築しようとすると、迷宮に陥る。示された情報を書き出して整頓することで、その企みの複雑さに改めて思い至る。恐らく、そこまでしないと本篇の真の凄みは実感できない。出来ることなら、ガッツリと取り組んで吟味していただきたい。
 が、本篇の優秀さは、そこまで身構えずとも惹き込まれ、ラストには衝撃を味わえるよう、表面を魅力的に整えていることにある。謎めいて意外性に富んだ展開は、細部が把握出来ないままでも観る者を牽引し続ける。随所に挿入された犯行計画や、命のやり取りを繰り広げるシーンのスリリングな演出も見応えは充分だ。そして、クライマックスでの知性と感情をいちどに揺さぶられるようなくだりから、あまりに鮮やかな逆転。この、サスペンス・ミステリとしての醍醐味を詰めこんだ作りで、充分すぎるほどの満足感が味わえてしまう。
 そしてその表面の完成度そのものが、本篇の深い理解を、やもすると妨げてしまう傾向にもあるようだ。なまじ、初見の段階でインパクトの強いシーンが幾つもあり、最後に衝撃を印象づけているので、そこですべて理解した気分になってしまい、それ以上の追求を妨げがちになる。そんな半端な理解のままでいると、本篇は劇中に“矛盾”があるように錯覚してしまいがちな作り方でもあることは確かで、その結果、決していい心象が残っていないひともいるのではなかろうか。
 困ったことに、全体像がそういう評価のままでも、映画としての見応えは感じられるのだ。十二分にサスペンスを堪能出来る語り口もさることながら、本篇でオスカーに輝いたケヴィン・スペイシーを筆頭に、アクのある人物像、謎めいた振る舞いを絶妙に醸し出す演技を観ているだけでも味わい甲斐がある。中心となって描かれるガブリエル・バーンに、怪しい風情を称えた仲間たち、命のやり取りを眼前にしながら飄々として異様なインパクトを示すピート・ポスルスウェイト。それぞれに様々な思惑や、立場上の因縁を抱えることを覗かせながらも、輻輳する謎に挑む捜査官たちの姿に、刑事物ならではの醍醐味を見ることも出来る。
 だが、もしいちど観たあとで、そうした美点以外に引っかかりを覚えているようなら、クライマックスの衝撃を前提に改めて冒頭から鑑賞して欲しい。そうすれば、本篇の構成の複雑さと巧緻さに気づくはずだ。しかしそれでもまだ、細部に張り巡らされた工夫、罠としか言いようのない語り口を紐解ききることは出来ない。たぶん、本篇を鑑賞した同志と語り合うか、メモを取ってでも、きちんと構造を解き明かしたくなるひとも多いはずだ。
 アカデミー賞オリジナル脚本部門賞を獲得したのは伊達ではない。本篇は、初見では決して味わい尽くせないほど、大胆かつ精緻な傑作なのだ。面白かったけどモヤモヤした印象が残った、というひとはむろんのこと、初見でも充分に楽しめた、というひとも、是非とも再鑑賞して欲しい。その奥行きに気づけば、きっと何度でも観返したくなるはずだ。


関連作品:
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スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする』/『ザ・ファン』/『夏休みのレモネード』/『摩天楼を夢みて』/『ロミオ+ジュリエット』/『マルホランド・ドライブ
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