TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面の壁面に掲示された『ウォレスとグルミット』上映当時の午前十時の映画祭12案内ポスター。
[共通クレジット]
監督:ニック・パーク / 音楽:ジュリアン・ノット / 声の出演:ピーター・サリス(ウォレス) / 配給:東北新社
日本語字幕:杉田朋子
午前十時の映画祭12(2022/04/01~2023/03/30開催)上映作品
公式サイト : https://www.aardman-jp.com/W_G/
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2023/1/3)
《チーズ・ホリデー》
原題:“A Grand Day Out” / 脚本、撮影&美術:ニック・パーク / 製作&編集:ロブ・コープランド
1989年イギリス作品 / 上映時間:24分
1996年9月14日日本公開
[粗筋]
休日の旅行の計画を練っていた発明家のウォレスは、紅茶のお供に必要なチーズの在庫がなくなっていることに気づいた。そこで、ぜんぶがチーズで出来ている月へと旅立つ決意をする。相棒の聡明な犬・グルミットと共にお手製のロケットを完成させ月に降り立つが、そこには不思議な自動販売機らしき箱が残されていた――
《ペンギンに気をつけろ!》
原題:“The Wrong Trouser” / 脚本:ニック・パーク、ボブ・ベイカー / 製作:クリストファー・モール / 製作総指揮:ピーター・ロード、コリン・ローズ、ピーター・サルモン、デヴィッド・スポロクストン / 撮影監督:トリスタン・オリヴァー、デイヴ・アレックス・リデット / 美術監督:イヴォンヌ・フォックス / 編集:ヘレン・ガラード
1993年イギリス作品 / 上映時間:30分
1996年9月14日日本公開
[粗筋]
愛犬グルミットの誕生日プレゼントに高価なオートズボンを購入してしまい、貯金が底を突いたウォレスは、家の空き部屋を貸し出すことにした。すぐさま現れたのは1匹のペンギン。しかしこのペンギン、ボロボロの空き部屋ではなくグルミットの部屋に居座ってしまった。更にウォレスにおべっかを使って関心を惹く一方、深夜に騒音を立ててグルミットを屋外の犬小屋に追い出し、完全にグルミットの居場所を奪ってしまう。とうとう家出をしたグルミットは、思わぬ場所でペンギンの姿を見かけた――
《ウォレスとグルミット危機一髪!》
原題:“A Close Shave” / 監督:ニック・パーク / 脚本:ボブ・ベイカー、ニック・パーク / 製作:マイケル・ローズ、カーラ・シェリー / 製作総指揮:ピーター・ロード、コリン・ローズ、デヴィッド・スポロクストン / 撮影監督:デイヴ・アレックス・リデット / 美術監督:フィル・ルイス / 編集:ヘレン・ガラード / 声の出演:アン・リード
1995年イギリス作品 / 上映時間:30分
1997年8月2日日本公開
[粗筋]
収入のため、発明品を駆使した窓拭きの事業を始めたウォレスとグルミット。そんなふたりの家に、突然1匹の小さな羊が迷い込んできた。トラブルを引き起こす子羊にウォレスはショーンと名付けて受け入れるが、その登場は、グルミットを思わぬ窮地へと追い込んでいく――
[感想]
物体を少しずつ動かしながらひとコマずつ撮影し、繋げて動画にしていくものを《ストップモーションアニメーション》と呼び、中でもメインの被写体に粘土を用いたものを《クレイアニメーション》と呼ぶ。被写体に人形などを使う場合は、関節の動きやパーツの入れ換えで動作を表現することになるが、粘土であればパーツの制限なく、ほぼ自由自在にかたちを変えることが出来る。表情の変化のみならず、身体が伸びたりひしゃげたり、といった極端な描写も可能で、人形などの固形物を主体としたアニメーションよりも多彩な変化が楽しめるのが魅力だ。
本篇はまさに、そのクレイアニメならではの変幻自在の動きを活かした作品だ。
なにせ完全な固形ではないので、キャラクターも美術も自在に変化する。飛んで跳ねて、使用檄を受ければ大きくへしゃげ、普通なら潜り込めない場所にもすっぽりと収まる。現実ならあり得ない形状にもなり、その多彩な変化、動きを眺めているだけでも楽しい。
本篇の場合、素材と同様に物語の展開も自由奔放で、なかなか先読みが出来ない。紅茶に必要なチーズがない、となったときに、「月はチーズで出来てるから」と言い出して、お手製でロケットを製造して難なく地球を飛び立つのも凄いが、月に着いてからの展開も予想の斜め上を行っている。《ペンギンに気をつけろ!》はタイトルからは想像も出来ない導入、そして肝心のペンギンが出てくるとやっぱり想定外の展開を見せながら、ちゃんと伏線が機能しているのが憎い。唯一、《~危機一髪》こそ、謎めいたカットを含めたために背景がなんとなく読めるものの、しかし話の転がし方はやはり定石通りとは言い難いし、何より、あり得ない発明品や驚異的なバランス感覚で繰り出す、クレイアニメならではのアクションが映像としての昂揚感に溢れまくっている。
この奔放な物語と映像に、キャラクター設定も貢献しているのが巧妙だ。いちおう発明家で、とんでもないモノを生み出すがいまいち思慮の足りないウォレス、犬だがほぼ二足歩行、前肢を器用に使ってあらゆることをこなし、あれこれ足りない相棒を完璧に補うグルミット、基本的に物語にはこのふたり(でいいのか?)しかレギュラーが存在しない。しかし、ウォレスの発明家という設定ゆえにとんでもないガジェットがあれもこれも、と登場してくるし、いちおう犬扱いだけど、どうしても人間にしか見えないグルミットの頼もしさは尋常ではない。前者が情けないトラブルを起こしても、後者が何とかしてしまう、という構造は、この一見無軌道な物語に安心感をもたらしている。そして、平素の彼らも、トラブルに遭遇した彼らも、同様にユーモアに満ちている。ウォレスの喋る内容は随所に母国イギリスの文化の片鱗があって、充分に理解するにはあちらの知識が必要となりそうだが、他の部分はほとんど動きで表現されるため、ほぼ万国共通で楽しめる。《~危機一髪》には若干の例外はあるが、メインキャラクターのなかでちゃんと喋るのが基本ウォレスしかいない、という制約が、却って文化の壁を乗り越える面白さに貢献している。
変な教訓めいたものもなく、肩の凝らない楽しさに浸れる。その後シリーズ化したばかりか、《~危機一髪》に登場したひつじのショーンを主役にしたスピンオフも複数発表されているのも頷ける。もっとこのふたりのドタバタ騒ぎ、この世界に触れていたい、と思わせる、広がり豊かな魅力を備えた作品だ。
関連作品:
『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』/『オテサーネク』/『コララインとボタンの魔女 3D』/『フランケンウィニー』/『パラノーマン ブライス・ホローの謎』/『犬ヶ島』
『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』/『野性の呼び声(2020)』
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