TOHOシネマズ上野、スクリーン2入口脇に掲示された『映画 ゆるキャン△』チラシ。
原作:あfろ(芳文社・刊) / 監督:京極義昭 / 脚本:田中仁、伊藤睦美 / キャラクターデザイン:佐々木睦美 / プロップデザイン:井本美穂、堤谷典子 / メカデザイン:遠藤大輔、丸尾一 / 色彩設計:水野多恵子(スタジオ・ロード) / 美術監督:海野よしみ(プロダクション・アイ) / 撮影監督:田中博章(スタジオトゥインクル) / デジタルワーク:C-Station digital / CGワーク:平川典史(M.S.C) / 音響監督:高寺たけし / 音響制作:HALF H・P STUDIO / 音楽:立川秋航 / 音楽制作:MAGES. / オープニングテーマ:亜咲花『Sun Is Coming Up』 / エンディングテーマ:佐々木恵梨『ミモザ』 / 声の出演:花守ゆみり、東山奈央、原紗友里、豊崎愛生、高橋李依、黒沢ともよ、伊藤静、井上麻里奈、松田利冴、山本希望、大畑伸太郎、水橋かおり、櫻井孝宏、利根健太朗、依田菜津、上田燿司、平野俊隆、多田野曜平、朝日奈丸佳、古賀葵、内山茉莉、織江珠生、徳石勝大、後藤彩佐、本泉莉奈、酒巻光宏、大塚明夫 / アニメーション制作:C-Station / 配給:松竹
2022年日本作品 / 上映時間:2時間
2022年7月1日日本公開
公式サイト : https://yurucamp.jp/cinema/
TOHOシネマズ上野にて初見(2022/7/1)
[粗筋]
本栖高校の野外活動サークル、通称《野クル》を創設した大垣千明(原紗友里)と犬山あおい(豊崎愛生)、転校して加わった各務原なでしこ(花守ゆみり)、もともとソロキャンパーでいつの間にか巻き込まれていた志摩リン(東山奈央)と、その友人・斉藤恵那(高橋李依)も、気づけば社会人になっていた。リンは山梨を離れ名古屋のローカル誌を手懸ける出版社に就職、なでしこと千秋は東京に、恵那は横浜に仕事を見つけ、地元で教員になったあおいも忙しい。高校時代のように、キャンプを共にすることもすっかり少なくなってしまった。
営業から編集部に転属したものの、企画が通らずに悩んでいたリンのもとに、突然、千秋がやって来た。3年、顔を合わせずにいるあいだに、千秋は東京のイベント会社を退職して地元・山梨の観光振興事業に携わっていた。目下、5年前に閉鎖されたまま放置されている自然センターの活用法に頭を悩ませているらしい。写真を見せられたリンが、「そんなに広い土地があるなら、キャンプ場でも作ったら?」と軽い気持ちで口にすると、千秋は我が意を得たり、とばかりに行動を開始した。
たまたま帰省したところだったなでしこと、地元の小学校で教えているあおいを呼び寄せると、かつての野クル仲間でキャンプ場を作ろう、と提案する。予算は限られているが、アイディアを出し合って何とか出来ないか、と言うのだ。富士山を望む絶好の立地、サイトを分けやすい構造など、理想的な条件も整っており、リンもこの提案に魅力を感じた。
最初は合流できなかった恵那も加わると、5人は本格的にキャンプ場造りに着手した。目指すは、初心者もベテランも楽しめる、理想のキャンプ場――
[感想]
そもそも原作、テレビシリーズともに、“女子高生がゆる~くキャンプを楽しむ”というだけ、の話である。富士山を望む山梨県をご当地に、実在する場所をモデルにしたキャンプ場で焚き火をしてアウトドア料理に挑戦し、懐の許す範囲で周囲を観光する。恐らくは原作者の実体験や知見を活かしたであろう、リアリティと親近感のある描写と、初心者もベテランも適度に楽しむスタンスを貫いた心地好さが支持され、テレビシリーズは2期に加え、番外篇をもとにした『へやキャン△』も制作された。本篇も、テレビシリーズ第2期及び『へやキャン△』と同時に計画が発表されており、ファンにとっては待望の1本だった。
かく言う私も、アニメ1期放送後、と少々遅めだが夢中になり、逆行して原作をすべて読んでしまうほどにハマってしまった。それゆえに、アニメ第2期では、《野クル》全員による初めての連泊である伊豆キャンプ編を映画版に残しておくのではないか、と予測していたのだが、あっさりと第2期のなかで片付けてしまった。では映画ではどこのエピソードを扱うのか、と情報公開までずっと興味津々だったが、アニメ版では初めて、まったく原作にないオリジナルストーリーを扱う、というのはちょっと意外だった。
ただ、私もそうだったが、不安を感じたファンもいたのではなかろうか。なにせ、テレビシリーズは原作をいくぶん整理し、毒のある描写を落としたくらいで、ほぼ原作を踏襲していた。更に、ページ数の少ないオマケ漫画的な要素の強かった原作に筋をつけてシリーズ化した『へやキャン△』は、それゆえに原作の良さを削いでしまった嫌いもある。果たしてオリジナルストーリーで、どれだけ納得の出来る内容、仕上がりになるか? という心配を抱くのも無理からぬところだろう。
だが、どうやら杞憂に過ぎなかったらしい。たとえ“原作原理主義”くらいに厳しい立場を取っていたとしても、納得のいく内容と水準をクリアした作品だ、と私は評価する。
アニメシリーズとほぼ同一である本篇のスタッフは、それだけに原作へのリスペクトも高い。もし、テレビシリーズと同様に本栖高校在籍中のエピソードを独自に構築してしまうと、原作に悪影響を及ぼす可能性がある、と判断し、あえて時間をだいぶ置いて、大人になってからの出来事にした。
そしてそれが結果として、物語に自由度とともに、原作やテレビシリーズで描いたことを、意識的に反復してドラマの奥行きを生み出す、という利点をも生み出した。具体的に挙げてしまうと興を削ぐのではばかるが、本篇には随所に、テレビシリーズに接していたひとにはピンと来る描写がちりばめられている。高校から何年経過したか、は明示されていないが、少なくともそれぞれに社会人として立場を確立した時期であることは窺える。そこに、原作やテレビシリーズを観てきたひとには覚えのある描写、出来事が、リンやなでしこに柔らかに響いて、次の行動を促していくのがいちいちグッと来るのだ。
これも近年の潮流で、テレビシリーズの劇場版であっても、初見の観客がある程度は楽しめるよう、単品でも展開を把握しやすい作りになっている。本篇も、プロローグ部分で本栖高校時代、夏キャンプと思しきシーンを盛り込み、彼女たちの原点となる風景を見せたあとで本筋に入る構成を採っており、リンたちの関係性やバックボーンを推測しやすい。細かいモチーフの符合を察し味わうにはテレビシリーズや原作に接している必要があるが、本篇の中でも見聞したことが細かに影響し、リンやなでしこを動かしていくので、本篇から入ったとしても、『ゆるキャン△』の世界に馴染めるはずだ。むしろ、遡ってテレビシリーズに接し、ちりばめられたモチーフの意味を知るのも、また本篇の面白さ、魅力として成立している。
キャラクターがいい意味で変わっていないところも本篇の良さであり、絶妙なところだ。現実を考えれば、様々な事情で趣味はもちろん、生活スタイルも一変し、関係性も大きく変わっていることは珍しくない。しかし本篇は、大人になったことで生活圏は変化し、それぞれに仕事を持っているが、キャラクターの人間性、関係性は大きく変わらず、オリジナルから地続きになっている。リンは祖父からバイクを譲り受け更に行動半径が広がった要だが、相変わらずソロキャンパーとして鳴らしているし、なでしこはかつて妄想で語っていた未来像を踏襲するようにアウトドアショップに勤務、相変わらずの体力で自転車を乗り回している。千秋は社会人になってもいの一番に突拍子もない計画を提案し、恵那は愛犬・チクワ優先の発想が極まったか、トリマーという実にらしい職業に就いている。あおいの“ほら吹き”という個性があんまり発揮出来ていないのは寂しい気はしたが(それでも旧シリーズを観ていれば解る人物描写や、ちょっとしたお遊びに活かされている)、小学校教師という仕事はその性格に似合っているし、なでしこと共に料理上手のキャラクターはきちんとキャンプの場面で発揮される。
何より、キャンプの楽しさがしっかりと感じられる内容になっているのが素晴らしい。キャンパーそれぞれの経験やスタンスによって異なる楽しみ方を、大人になったがゆえの視野の広さによる“キャンプ場作り”というモチーフのなかで表現しながら、肝心のキャンプシーンではテレビシリーズと通じた楽しみ方を描いている。テストの名目で自作のキャンプ場を初めて利用するくだりはもちろんのこと、シリーズの原点であるリンのソロキャンプから、リンとなでしこの、以前よりも行動半径が広がっていればこそのふたりキャンプも織り込んでいるから実にそつがない。そして、テレビシリーズでは“飯テロ”と呼ばれた、キャンプならではの配慮とアイディアに富んだ料理も、観ていて羨ましくなるほど美味しそうだ。
原作へのリスペクトとファンを意識した細やかな仕掛け、それでいてシリーズ未体験の観客にも門戸を開いている。いわゆる日常系の作品は、どのタイミングからでも作品世界に入りやすいのが良さのひとつだが、その意味でも完璧と言っていい。『ゆるキャン△』らしさを損なうことなく、映画版としての風格も備えた作品である。
関連作品:
『ゆるキャン△ SEASON 2 ~磐田・浜松編~』
『トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』/『きんいろモザイク Thank you!!』/『
『映画 けいおん!』/『のんのんびより ばけーしょん』/『魔女見習いをさがして』/『ARIA the BENEDIZIONE』/『劇場版 からかい上手の高木さん』
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