『レッドクリフ Part II―未来への最終決戦―』

『レッドクリフ Part II―未来への最終決戦―』

原題:“赤壁” / 英題:“Red Cliff : part II” / 監督:ジョン・ウー / アクション監督:コリー・ユン / 水上戦場面監督:パトリック・レオン / 脚本:ジョン・ウー、カン・チャン、コー・ジェン、シン・ハーユ / 製作:テレンス・チャン、ジョン・ウー / 製作総指揮:ハン・サンピン、松浦勝人、ウー・ケボ、千葉龍平、デニス・ウー、ユ・ジョンフン、ジョン・ウー / 撮影監督:リュイ・ユエ、チャン・リー / 美術・衣裳デザイン:ティム・イップ / 編集:アンジー・ラム、ヤン・ホンユー、デヴィッド・ウー / VFX監督:クレイグ・ヘイズ / VFX:オーファネージ / 音楽:岩代太郎 / 主題歌:alan久遠の河』 / 出演:トニー・レオン金城武チャン・フォンイーチャン・チェンヴィッキー・チャオフー・ジュン中村獅童、リン・チーリン、ユウ・ヨン、ホウ・ヨン、トン・ダーウェイ、ソン・ジア、バーサンジャプ、ザン・ジンシェン、チャン・サン / 獅子山製作 / 配給:東宝東和×avex entertainment

2009年アメリカ、中国、日本、台湾、韓国合作 / 上映時間:2時間24分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / 翻訳:鈴木真理子 / 字幕監修:渡辺義浩(大東文化大学)

2009年4月10日日本公開

公式サイト : http://redcliff.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/04/10)



[粗筋]

 傑出した軍師・孔明(金城武)と知略に長けた智将・周瑜(トニー・レオン)の策によって、劉備(ユウ・ヨン)と孫権(チャン・チェン)の同盟軍は前哨戦を制した。だが依然として戦力差は大きく、状況は予断を許さない。

 対する曹操(チャン・フォンイー)の軍は、水上戦に長けた蔡瑁・張允を擁し、二千隻の船をもって孫権軍の要衝・赤壁へと肉迫、攻勢の機会を窺っていた。だが、予想を超えた長期戦に、慣れない生活を強いられた兵たちは疲弊し、曹操軍のなかに疫病が蔓延する。百人を超えた病死者たちを前に、だが曹操は起死回生の奇策を着想する。

 ほどなく、赤壁にある孫権軍の本拠に、曹操軍の兵士の屍体を乗せた船が大量に流れ着いた。兵士や住民が武器、金品を求めて群がるなか、屍体を検めた孔明は慌てて人々に警告するが、既に時遅く、曹操軍を襲った疫病が同盟軍をも蝕んでいった。

 戦端を交えずに兵が消耗していく事態に、とうとう劉備軍は後退を決意する。もともと赤壁孫権軍の拠点であり、彼らに止める権利はなかった――孫権たちは暗澹たる想いで、去りゆく劉備軍を見送った。

 いちど交わした約束は違えない、と孔明はひとり戦場に残ったが、そんな彼に難題が突きつけられる。立ち去るにあたって劉備軍は矢を持ち帰ってしまい、圧倒的戦力に対抗するにはあまりに心許なかった。糧食の蓄えが尽きるまでおよそ十日、そのあいだに矢を調達して欲しい、という言葉に、孔明は「三日で充分」と答える。

 他方、周瑜曹操軍攻略のためには、水上戦に慣れた将である蔡瑁と張允を排除する必要がある、と説いており、孔明は自分が準備するあいだにそれを成し遂げて欲しい、と請う。

 二人の天才は、如何にしてこの難題を解くのだろうか。そして同盟軍は、圧倒的戦力差を覆して曹操軍を退けることが出来るのだろうか……?

[感想]

 2008年に公開された海外映画の中で、最大のヒットとなった歴史アクション大作『レッドクリフ PartI』の続篇であり、完結篇である。

 もともと1本の作品として製作されていたが、尺が伸びすぎたために前後篇に分割された、という経緯があるだけに、雰囲気やテンションに差違はない。前篇を楽しめた人であれば、まず確実に満足を味わえる。

 しかし恐らく、仮に前篇を鑑賞していなかったとしても、本篇は問題なく堪能できるだろう。冒頭の勢力図、立ち位置は前篇で示されたものを踏まえているが、さほど複雑怪奇なものではないのですぐに理解できる。また提示される策略やエピソードが、前篇のものは前篇で処理し、本篇で新たに起こしているものがほとんどなので、意図や関係性が把握できずに戸惑うということもない。冗談でも何でもなく、本篇からいきなり鑑賞したとしても、作品世界にどっぷりと浸れるはずだ。

 前篇からして優秀な娯楽巨篇であったが、今回は更にレベルが向上している。勢力を磨り減らし、より危機感を募らせた状態で孔明周瑜が弄する策には謎解きものの興趣とサスペンスが滲み、前篇で存分に構築された人間関係が厚みのあるドラマをも形成する。

 前篇ではまだどこかお飾りのような印象のあった女性達だが、本篇では存在感を増し、彼女らの行動がクライマックスに彩りと共に情感を齎している。孫権の妹・尚香のドラマは戦争物のお約束めいた部分も色濃くあざとい印象は拭えないが、それでも戦争の悲劇をより強調することに成功しているし、赤壁の戦いにおいてファム・ファタール的な位置づけにあった周瑜の妻・小喬の行動は、武将の妻として固めた覚悟の気高さを滲ませ、同時にクライマックスの激戦に情緒を添えて実に効果的だ。

 そしてクライマックスの戦いの迫力たるや、“スペクタクル”という表現に恥じない凄まじさである。壮大なセットと大量のエキストラを投入した実写部分のインパクトをVFXで膨張させ、大作映画ならではの醍醐味をたっぶりと堪能させてくれる。死と隣り合わせの緊迫した場面を連ねるあいだにも、これまでに積み上げてきたドラマを締め括るエピソードを丁寧に織りこんでおり、大作映画にありがちな大味さも感じさせない。

 歴史スペクタクルとしてのカタルシスを構築する一方で、命のやり取りの虚しさをも描いているあたり、抜かりがない。普通の尺であれば盛り込みすぎと感じる危険もあるが、本篇だけでも2時間半近く、前後篇合わせると5時間近いヴォリュームがあるだけに、娯楽映画に求められる要素を可能な限り詰め込んだ作りは充実感に繋がっている。

 鳩やスローモーションを用いたアクション、男臭さの濃いドラマ作りなど、ジョン・ウーらしさも随所にちらつかせた本篇は、ジョン・ウー監督の集大成としても満足のいく仕上がりだ。

 ラストが少々あっさりしているきらいもあるが、過程が充実しているので、エンドロールを眺めているうちにじわじわと余韻が胸のうちに広がってくる。

 ほとんど文句のつけようがない、その名に恥じない“娯楽大作”である。既に前篇があれほど大ヒットしたあとなので今更の感は強いが、それでも改めて、心からお薦めできる1本だ。前篇に乗り遅れた、という方も、面倒なら本篇から観てしまって本当に構わないと思う。

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