『エレクション〜黒社会〜』

エレクション~黒社会~ [DVD]

原題:“黒社會” / 監督:ジョニー・トー / 脚本:ヤウ・ナイホイ、イップ・ティンシン / 製作:デニス・ロー、ジョニー・トー / 撮影監督:チェン・チュウキョン / 音楽:ルオ・ダー / 出演:サイモン・ヤム、レオン・カーフェイ、ルイス・クー、ニック・チョン、チョン・シウファイ、ラム・シュー、ラム・カートン、ウォン・ティンラム、タム・ビンマン、マギー・シュー、デヴィッド・チャン / 配給:東京テアトル×Twin / 映像ソフト発売元:Avex Entertainment

2005年香港作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:? / R-15

2007年1月20日日本公開

2007年7月18日DVD日本盤発売 [amazon]

DVDにて初見(2010/03/24)



[粗筋]

 香港に多数存在する結社のひとつ“和連勝会”で、2年に1度の選挙が始まった。

 今回の会長候補は、長老たちの信頼の厚いロク(サイモン・ヤム)と、熱意はあるが血気盛んなディー(レオン・カーフェイ)のふたり。ディーは露骨な賄賂のばらまきで票集めを画策するが、そんな彼の野心に危惧を抱いたタン(ウォン・ティンラム)らの説得により、新会長にはロクが選ばれることとなった。

 だがディーはその結果に憤り、賄賂を受け取りながらも手を施せなかったロング・ガンらを拉致して拷問、更には現会長であるチョイガイに、会長の座を証明する“竜頭棍”をロクに手渡さないよう脅迫する。チョイガイは直属の部下ミンに命じて“竜頭棍”を中国本土に隠させたが、ディーは早速その行方を探らせた。

 時を同じくして、香港警察は組織犯罪の一斉摘発を開始した。ロクやディー、主立った幹部がまとめて拘置所に収容される、という異常事態の中、警察はこれ以上の内紛を起こさせぬよう長老たちに忠告を行い、ディーは自らを裏切った者に対する報復を牢の中から部下たちに命じる。

 複雑に絡みあう思惑の中、各地で繰り返される緊迫した駆け引き。会長選の行方はもはや、誰にも解らなくなっていた……

[感想]

 本篇を手懸けたジョニー・トー監督は、一部では“香港の黒澤明”とまで呼ばれている。真偽はさておき、ヴァラエティに富んだ作品を矢継ぎ早に撮り、世界的に評価を受けているのは事実であり、いちど観ておきたい、と思っていた。劇場公開時に機会を逃しがちで長いこと縁がない状態が続いていたが、ようやくレンタルDVDにて初めて鑑賞することが出来た。

 なるほど、評価の高さも頷ける、非常に骨太の作りである。世界中のアクション映画に大きな影響を与えた香港映画では頻繁に暗黒街の住人たちが描かれてきたが、本篇のようにその組織の中で行われる会長選挙を題材とした作品はあまり聞いた覚えがない。あったとしてもそれはアクションや他のトラブルの契機であり、その駆け引き自体に着目した作品は恐らく本篇ぐらいのものだろう。その着想がまず非凡だ。

 そして、その駆け引きの推移も意表をついている。現代的な価値観を取り込み変容しながらも、未だに伝統が重んじられている、という複雑な価値観が、各所で思わぬ軋轢を生む。誰が何を企み、いったい誰の味方をしているのか、いささか判然としないまま繰り広げられる駆け引きの緊張感は、視点の明白なサスペンスとは異なる重みに加え、肌がヒリヒリとするような感覚さえもたらす。

 本篇をユニークなものにしているのは、暗黒街の住人でありながら、人死にを出すことを終始警戒していることだ――当たり前と言えば当たり前なのだが、こうしたテーマを扱うと普通に銃撃戦や過激な肉弾戦が描かれることがほとんどなので、大事になることを恐れる、という観点自体が珍しい。そして、その考え方がまた異様な緊張感に繋がると同時に、取り返しのつかない事態に陥った際のインパクトを増幅している。

 しかし、そうして緊張感に身を浸した挙句の結末については、戸惑いを覚える向きもあるだろう。この結末、どうやらもともと本篇を二部作として製作していたことによるらしい。続篇にあたる『エレクション〜死の報復〜』は、劇場公開こそ叶わなかったものの、2010年にDVDがリリースされている。どうしても腑に落ちない、という方は、続けてそちらを鑑賞し、この理不尽な結末の先を確かめていただきたい。

 だが個人的には、本篇の結末のままでもいいのではないか、と思う。全篇に漲る非情さの頂点には、こんな理不尽に感じるような最後も相応しい。

 いずれにせよ、従来の香港映画の型に嵌らず、しかし高い娯楽性と深い余韻を堪能させてくれる、極めて良質のノワールであることは確かだ。初めて触れるジョニー・トー作品であったが、これ1本でも実力は充分に実感できたと思う。

関連作品:

インファナル・アフェア

トゥームレイダー2

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