『顔のないスパイ』

『顔のないスパイ』

原題:“The Double” / 監督:マイケル・ブラント / 脚本:マイケル・ブラント、デレク・ハース / 製作:アショク・アムリトラジ、パトリック・アイエロ、デレク・ハース、アンドリュー・ディーン / 製作総指揮:モハメッド・アル・マズルーイ、エドワード・ボーガーディン / 撮影監督:ジェフリー・L・キンボール / プロダクション・デザイナー:ガイルズ・マスターズ / 編集:スティーヴン・ミルコヴィッチ / 音楽:ジョン・デブニー / 出演:リチャード・ギアトファー・グレイス、スティーヴン・モイヤー、オデット・ユーストマン、スタナ・カティック、クリス・マークエット、テイマー・ハッサン、マーティン・シーン / 配給:KLOCKWORX

2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:種市譲二

2012年2月25日日本公開

公式サイト : http://w-spy.net/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2012/03/23)



[粗筋]

 FBIが追い続けていた議員が、監視の目をかいくぐって暗殺された。喉を真一文字に切る鮮やかな手口は、CIAを現場に招き寄せる。それは、かつてソ連の暗殺者として、冷戦時代にアメリカの諜報員を震撼させた人物、カシアスの手口と酷似していた。

 CIA長官のトム・ハイランド(マーティン・シーン)はFBIとの合同捜査会議の席に、引退した工作員ポール・シェパードソン(リチャード・ギア)を呼び寄せる。彼こそ、誰よりも徹底的にカシアスを追い続けていた男だったからだ。

 だがポールは、「カシアスは既に死んだ」と言い張り、似通った手口も模倣に過ぎない、と断言する。ポールの仕事に心酔し、彼同様にカシアスを研究しているFBI捜査官のベン・ギアリー(トファー・グレイス)が提示した仮説にも耳を貸さず会議室を離れた。

 しかしポールは、ある人物に接触して情報を聞き出して欲しい、というトムの話に揺さぶられ、とうとう重い腰を上げる。その人物とは、通称ブルータス(スティーヴン・モイヤー)――かつてボールが職務中に殺したはずの男だった。引退するポールを慮り、生き延びて刑務所に収容された事実が伏せられていたという。

 ポールはベンと共に、刑務所へ赴く。そして、カシアスは不気味な暗躍を再開した――

[感想]

 冷戦の終結とともに、スパイは活躍の場を失った、と言われるが、少なくとも映画のなかでは何だかんだと暗躍を続けている。『ミッション・インポッシブル』や『007』は主に敵をテロ組織などに変えているが、冷戦時代の遺恨を題材としたようなものもときおり登場している。本篇はまさにそのパターンと言っていい。

 予算がさほど大きくないのか、ハリウッド産、しかもリチャード・ギアという大物俳優が起用されているにしては、この作品はあまり規模が大きくない。舞台は限られているし、アクションシーンも控えめだ。唯一、クライマックス手前のカーチェイスインパクトがあるくらいである。

 しかし、それを感じさせないほど本篇の語り口はテンポが良く、牽引力に富んでいる。実のところ、謎めかしている部分については察知することがさほど難しくないのだが、それでも事実を提示するタイミングがうまく、終盤ギリギリまで振り回される。

 他方、出来事がかなり入り組んでおり、全体像を掴みにくいきらいも否めない。よくよく検証すると、一連の事態のきっかけが解りにくいし、やり過ぎて無意味になっている箇所もある。また、中盤である事実を導き出すときの様子は、映像的なインパクトはあるものの、実はかなり非現実的だ。

 とはいえ、観ているあいだはさほど気にさせない力強さが本篇にはある。“カシアス”という人物をめぐる謎、いま何故暗躍を再開したのかという疑問、次に狙われるのは誰か、誰が倒れ誰が勝利を掴むのか、予断を許さない筋運びは、辻褄が合う合わないを超えた面白さだ。

 締め括りがスッキリしていない、という意見もありそうだが、個人的には充分にいい決着だと思う。ある程度のカタルシスを保証し、一見丸く収まったようだがどこか不穏さをたたえたラストシーンには、渋い余韻が伴っている。

 完璧さとも堅実さとも異なるが、アクション・サスペンスとしての愉しさを充分に味わわせてくれる、快い小品である。整理に甘さがあるものの、可能な範囲でやり尽くした感があるのがいい。

関連作品:

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HACHI 約束の犬

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