『成龍拳』

『成龍拳』 成龍拳 デジタル・リマスター版 [DVD]

原題:“剣・花・煙雨江南” / 英題:“To Kill with Intrigue” / 監督&製作:ロー・ウェイ / 脚本:古龍 / 製作総指揮:シュー・リーホァ / 撮影監督:チェン・チョンユァン / 美術:鄒志良 / 武術指導:陳信一、陳元龍(ジャッキー・チェン) / 出演:ジャッキー・チェン、シュー・フォン、ジュエ・リンロン、甲一龍 / 配給:東宝東和

1977年香港作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:宍戸正 / PG12

1984年5月12日日本公開

2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

大成龍祭2011上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/05/01)



[粗筋]

 中国・江南地方を束ねる奇峯一家の主・レイ総督の誕生祝いの宴が催されたその日、かつて総督が処罰した人面桃蜂党が15年振りに襲撃してきた。レイ総督のひとり息子シャオレイ(ジャッキー・チェン)が中心となって必死の抵抗を試みるが、総督と妻は殺害されてしまった。シャオレイは桃蜂党の女首領(シュー・フォン)の死闘を繰り広げ、どうにか追いつめるが、女首領の両親をレイ総督が殺した、という言葉に躊躇し、打ち倒されてしまう。

 ふたたび目醒めたとき、シャオレイは山の中に打ち棄てられていた。彼を見守っていた女首領は、彼を殺さず、生きたまま苦しめる、と言い放って解放する。失意の中、彼が向かったのは、つい最近友情を結んだばかりのジンチュン(甲一龍)という男の家であった。桃蜂党の襲撃を察知したシャオレイは、奇峯家の家来であり、恋人チェンチェン(ジュエ・リンロン)と、彼女のお腹の中にいる奇峯家の血筋の子を守るため、わざと嫌われることを言った上で、ジンチュンのもとへと託したのだ。

 しかしジンチュンの家には既に友人の姿も恋人の姿もない。忽然と現れた女首領は、ふたりとも既に経ったあとだ、と告げ、別の生き方を探すように忠告する。だが、失意から身動きならないシャオレイは、戻る者のないジンチュンの家に引き籠もった。

 だがそこへ、3人組の男が突如現れ、シャオレイを襲撃する。実はジンチュンはある理由から飛龍警備隊の面々に追われており、警備隊の首領・ロンスーの依頼を受けた血雨党の郎党が、シャオレイをジンチュンと勘違いして襲いかかったのだ――

[感想]

 ジャッキー・チェンと言えば、コメディの要素を採り入れた激しくも軽快なアクションがトレードマークだが、そのスタイルを確立させ、周囲に受け入れさせるまでには実に多くの紆余曲折があったらしい。いちど映画製作の現場から退いていたところ、ブルース・リーの後継者を探していたロー・ウェイ監督によって抜擢されたものの、二番煎じを嫌い独自色を模索していたジャッキーと、あくまでブルース・リーの衣鉢を継ぐスターを求めていたロー・ウェイ監督とは次第に確執を深めていったという。この対立はのちに事件にさえなるのだが、とりあえずこの感想には関係ないので省かせていただく。

 信頼関係を築けなかったが故になのか、それともロー・ウェイ監督の辿ろうとした路線に大きな間違いがあったのか、なかなか決定的なヒットに恵まれなかったこのコンビが、『少林寺木人拳』という正統派のカンフー映画に続いて挑んだのが、この“武侠もの”だった。近世より以前の時代を舞台に、義侠心や愛、そして復讐といったエモーショナルな要素を注ぎ込んだ、中国では定番の娯楽小説の1ジャンルであり、漫画やゲーム、当然映画でも頻繁に扱われている。最近で言えばチャン・イーモウ監督の『HERO』や『LOVERS』、アカデミー賞外国語映画賞などに輝いたアン・リー監督『グリーン・デスティニー』がこのジャンルに該当する。

 脚本を担当する古龍はこの武侠小説の大家であり、そういう人物を起用したことにロー・ウェイ監督の本気が窺われるが――しかし本篇は率直に言って、如何ともし難い失敗作になってしまっている。

 他の作品もそうだが、ロー・ウェイ監督は筋道の立った物語を構築するのが非常に苦手であるように見受けられる。場面場面のインパクトを優先し、強引にノリで押し切る力業が先行している感があるのだ。ブルース・リー主演の『ドラゴン 怒りの鉄拳』やジャッキーの『少林寺木人拳』のような、見せ場が有効に機能している作品であれば、その力強さの一点突破で好印象を与える作品になることもあるが、本篇のように、復讐を軸としつつも、愛情や友情、裏切りといった様々な要素が交錯する作品を、力業だけで押し切るのは難しい。どういった事情があるのかまでは解らないが、クライマックスはジャッキーと敵役に少数のキャスト、スタッフのみ、監督不在の中ジャッキー自らがメガフォンを取ってどうにか体裁を整えた、という話もあるようで、それでは尚更まとまるはずがない。

 ただ、どうも支離滅裂に陥ってしまった感は否めないが、複雑に絡む人間関係、その中で醸成されるユニークな恋愛模様はなかなかに惹かれるものがある。愛しているからこそ敢えて遠ざけたが、その結果苦境に立たせてしまった恋人を取り戻すために躍起になるシャオレイ、そうとは知らず、シャオレイへの想いを残したまま彼への怨みを募らせるチェンチェン、何よりも桃蜂党の女首領の物語は、彼女の立場になって考えると非常に切ない。

 元々のプロットの段階で細部の検討が甘かったのだろう、最終的にシャオレイが戦う相手の行動が複雑すぎてほとんど無意味になってしまっていることや、女首領の序盤での言動と終盤で彼女が語る背景とが明らかに矛盾を来している(解釈のしようはあるが、どう考えても説明が足りない)など、製作のどの段階で生じたのかは不明だが、描写にいちいちブレがあるのも気になる。娯楽小説などは書き継ぐあいだに設定が変わるのはわりとありがちなことで、脚本を担当した古龍という小説家にもともとそういう手癖があったのか、撮影中に話を書き換えたりアドリブを加えているうちに破綻を来したのかは不明だが、いずれにせよこういう矛盾を放置してしまうのは、大らかさで通用する場合もあるが、本篇ほど複雑に組み立ててしまっては完全に失策だ。

 ジャッキーが彼らしからぬいでたちと、刀を主体としたアクションを披露することや、ユニークな恋愛模様など、なかなか興味深い部分もあるにはあるが、それはジャッキー作品を通して鑑賞するつもりのある人や、フィクションの組み立てそのものに関心のある、どちらかと言えばニッチな見方をする人だからこそ愉しめるポイントだ。純粋に娯楽映画を望んでいる人に薦めるには、あまりに歪すぎる。

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コメント

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