『ドニー・イェン ラスト・コンフリクト』


『ラスト・コンフリクト』DVD Video(Amazon.co.jp商品ページにリンク)。

原題:“刑警本色” / 英題:“The Last Conflict” / 監督:レイモンド・リー / 脚本:ライ・マンチェク / 製作:タン・ウィンハン / 美術:チャン・チムミン / 衣装:チュウ・クォックサン / 武術指導:トニー・ブーン / 音楽:キャシーヌ・ウォン / 出演:ドニー・イェン、チャウ・シンチー、ラウ・ゴン、ナディア・チャン、フランシス・ン / 映像ソフト発売元:株式会社サンレックス/株式会社多智
1987年香港作品 / 上映時間:1時間54分 / 日本語字幕:?
日本劇場未公開
2011年9月23日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2021/3/2)


[粗筋]
 香港警察のボー・セイ刑事(ラウ・ゴン)は、常に自分の安否を気遣う娘エヴァ(ナディア・チャン)のために、長年勤めてきた職を辞する決意を固める。若い同僚のケン(チャウ・シンチー)はその能力を惜しむが、セイは職務の傍ら、身辺整理に勤しんだ。
 そんな矢先に、インターポールから偽造されたパスポートについての捜査依頼が舞い込む。どうやら、組織的な犯行であり、その拠点は香港にあるらしい。セイとケンは、インターポールから派遣された刑事ディクソン(ドニー・イェン)と組んで捜査に乗り出す。
 しばしばアメリカ流の荒っぽい手法を持ち出すディクソンと、そんな彼を老獪さで利用するセイは、最初こそ互いに反発したが、ケンも含めていつしか友情を育んでいく。
 やがて、ディクソンが追っているのは、彼と前々から因縁のあるハック(フランシス・ン)の組織であることが判明する。だが、ハックはなかなか尻尾を出さず、逮捕への決め手が得られない。そうこうするうちに、セイの退職のときが近づいてきた……


『ラスト・コンフリクト』本篇映像より引用。
『ラスト・コンフリクト』本篇映像より引用。


[感想]
 製作は1987年、このときは香港でTVドラマとして放映されたらしい。出演しているドニー・イェンの人気が日本でも高まっていった2011年になって、初めて映像ソフトとしてリリースされたようだ。
 そうやって発掘されたような作品だからなのだろう、率直に言って、映像のコンディション自体もそうだが、作品としての質も決して良くはない。恐らく、ドニー・イェンが脚光を浴びなければ、日本で紹介される機会もなかったのではなかろうか。
 映像の質はさておき、内容的にはまさに香港映画、それも1970年代にジャッキー・チェンが出演していた低予算の映画を彷彿とさせるような粗さがある。いちおう大まかな筋はあるが、肉付けが余計で全般に間延びしている。ある人物がどういう運命を辿るのか、早いうちに察しがつくのに、そこまで持っていくのにやたらと時間がかかっているので、折角の見せ場にも緊迫感が乏しい。しかも、映画としてはそこからが本番とも言えるのに、残された尺が少なく、展開が駆け足に過ぎて把握しづらい。どう考えても、飛躍しすぎている箇所があって、スピード感よりも戸惑いが勝ってしまう。
 のちに『少林サッカー』が国際的に人気を博すチャウ・シンチーは、本篇では重要な人物にも拘わらず強い印象を残していないが、他方でドニー・イェンは既に彼らしさが横溢しているのが興味深い。チャウもアクションに臨んではいるがどこか“やらされている”ぎこちなさが残る一方、ドニーは素速く鮮やかなアクションで画面を飾っている。敵方で強さを示す者が途中に現れないので、本篇のアクション映画としての魅力はほぼほぼドニーが担っている、と言っていい。しかもその上、やたらとキザで格好良く、我を押してくるようなキャラクターは、後年に彼が演じる様々な人物の雛形があるようにも映る。ドニー・イェンは評価が安定するまでにかなり時間を要した苦労人でもあるが、そのスタンスが初期から一貫していることを窺わせる人物像だ。
 また、テレビドラマという制約の都合もあるのだろう、それほど予算をかけて撮っていないことが画面からも伝わってくるが、それ故に、1980年代から2000年くらいまでの香港を舞台とした映画に登場するような場所が幾つも登場するのがなかなか楽しい。私が積極的に鑑賞している香港映画はジャッキー・チェンやジョニー・トー監督作くらいなのだが、それでも嬉しくなるような発見が随所にある。
 剽窃を警戒して脚本なしで撮影していた、と言われる往年の香港映画と比較すれば、最低限のプロットは見えるし、配分は問題があるが盛り上がりも仕込まれている。何より、若くても既にその個性が際立っているドニーや、イギリス統治下にあった香港の雑多だが活気に溢れた光景、といった要素に興奮を覚えるようなひとなら、ある程度楽しめるのは間違いない……言い換えると、そうした要素で喜べないひとだと、ただただ半端な作品に見えるはずだ。やはり、ドニー・イェンがその名を知らしめたからこそ、いま辛うじて観ることの出来る作品だったのだろう。


関連作品:
ドニー・イェン 邪神拳』/『SPL/狼よ静かに死ね』/『導火線 FLASH POINT』/『スペシャルID 特殊身分』/『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』/『男たちの挽歌』/『少林サッカー』/『ビースト・ストーカー/証人』/『ザ・ミッション/非情の掟
ポリス・ストーリー/香港国際警察』/『ドラゴンファイター』/『血戦 FATAL MOVE』/『ドラゴン・コップス -微笑捜査線-』/『ドラゴン×マッハ!

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