首のない鳥

首のない鳥 『首のない鳥』

倉阪鬼一郎

判型:新書判

レーベル:NON NOVEL

版元:祥伝社

発行:平成12年12月10日

isbn:4396207050

本体価格:857円

商品ページ:[bk1amazon]

[粗筋]

 八理という土地の坂の底に、光鳥出版の本社は存在した。創設百年を越え、未だ創始者の同族によって運営される古い体質の、大手出版社である。陰鬱な空気の漂う会社村の中にあるその佇まいは、古色蒼然としてかつての栄耀を懐かしんでいるようでもあった。

 辻堂怜子は本社屋内にオフィスのある子会社の職員だったが、緊急の要請から超部外秘の仕事を任されることになった。窓のない部屋の中で来る日も来る日も不可解な図版や文章の誤植脱字を点検する、神経を磨り減らす作業。ある日、外部から派遣されていた山添という男が突然職を辞したため、急遽別のヘルパーが入ることとなる。時を同じくして、怜子は特別な職務に就いているから、という理由で他のものとは違う社章を手渡された。辞めた山添が怜子と彼女の友人に残した奇妙な手紙、後任として配属された城野という軽薄な男が看破した、怜子の職場に存在する異界の者の気配。最近よく見る不気味な悪夢、奔放な友人・有佳里の失踪、そして俄に怜子を包囲し始める何者かの存在。一体、怜子の周囲で、そして光鳥出版という会社の中で何が起きつつあるのか。怜子を守ると言ってのけた城野は、2000年10月13日こそがその山場だと告げるが……

 虚と実、正常と狂気が入り乱れ、その果てに怜子を待ち受けているものは一体なんなのか――?

[感想]

 良くも悪くも倉阪ワールド、と感じさせられるのが倉阪作品不変の特徴なのかも知れない、と思った。それを首尾一貫した創作姿勢と取るか否かで、極端に評価が変わってくるのが倉阪鬼一郎という作家なのだろう。

 今までに私が読んだ作品の中では、一番確立されたキャラクターが登場し、作品世界も妙に現実味を帯びている。城野というヒロインを助けるキャラクターがアクの強さを発揮しているのに対して、肝心のヒロイン怜子が「目立たない女性」という等身大像になっているため、物語に違和感なく入り込める代わりに、次第に浮き彫りになる怪異が妙に落ち着かない印象がある。特にクライマックス、急激に事態が進展するのだが、どうにも唐突の感が否めないのだ。伏線はきっちりと張り巡らせられていて、思い返すと納得は出来るのだが。

 反面、物語の底に秘められた事実にあまり意外性がなく、そこからの脅威があまり感じられないのも傷となっている。怜子は理解できなくとも読み手にはかなり早い段階で察せられるし、ラスト数十ページの展開は予想外の彷徨に向かうのだが、そこに「恐怖」という要素もカタルシスという感懐も乏しい。

 だが、他の諸作のようにクトゥルーなどマニアックな知識を要するガジェットなどを用いず、身近な素材や実感のある舞台設定を採用したことで、読みやすさや理解しやすさが向上し、物語への没頭を妨げる要素が減っている分、あまり深みに填っていない読者層にもアピールする要素が増えているのが、本作の意義と言える。自身のスタイルを保持しながらも、倉阪氏が決定的な怪奇小説をやがて著してくれるかも知れない、という期待を持たせる一篇。倉阪氏の諸作の入門編として読むことも可能ではなかろうか。――本書に全く性に合う点を感じなかったなら、恐らく倉阪作品の大半が合わないと思う。

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