UMAハンター馬子[完全版]1

UMAハンター馬子[完全版]1 『UMAハンター馬子[完全版]1』

田中啓文

判型:文庫判

レーベル:ハヤカワ文庫JA

版元:早川書房

発行:2005年1月31日

isbn:4150307806

本体価格:780円

商品ページ:[bk1amazon]

 伝統芸能“おんびき祭文”の継承者であるがそれ以前に傍若無人・我が儘放題に加えてどスケベという女傑・蘇我家馬子は、その一方で不老不死の根拠を求めて敢えてドサ回りの道を選んでいるらしい。彼女の芸に魅せられて弟子入りした少女イルカは、その身勝手な言動に振り回されたり部分的に深い伝説・俗説への造詣に感心しつつ、行く先々で何故か怪物や未確認生物絡みの事件に巻き込まれるのだった……二冊刊行されるも中絶、幻と化していた“珍”伝奇シリーズを、書き下ろしの第七話と最終話を追加の上再編した完全版の第一巻。湖に現れる“恐竜”を扱った第一話、ツチノコの棲む禁域を巡る第二話、人に化ける生き物の物語である第三話、そして山に現れる巨大な猿人について考察する第四話の第一部までを収録する。

 SF、ミステリ、ホラー、ダジャレ(?)と多岐に亘って活躍する著者だが、本編はその著者の個性をふんだんに盛り込んでいる。例によって豊富な神話や伝説への造詣を惜しみもなく注ぎ込んで構築された“怪物”やそれを巡る土地の因縁は伝奇物の文法を踏みながら極めてSF的であり、怪物の登場する段や先駆ける予兆の描写は著者がその名を知らしめるきっかけとなった『水霊 ミズチ』のようなホラーを想起させる。そうした超現実的な要素に支えられているとは言え、密やかに張り巡らされた伏線を考察していくことによって謎が解きほぐされていくさまはミステリを彷彿とさせるし、その解明にひょっこりダジャレが顔を覗かせるのもこの著者ならではだ。

 特に本書の場合、蘇我家馬子という異様なまでにキャラの立った主人公がそのリーダビリティを押し上げていることがいちばんのポイントだろう。こってこての化粧と派手な服装のために年齢不詳、身勝手な論理を振り翳してたったひとりの弟子であるイルカをさんざ翻弄して、行く先々で興味の惹かれる人間がいれば、相手が男だろうと女だろうと老若問わず食ってしまう。はっきり言って人でなしだし身近にいたら絶対厭だが、お話として触れる分にはこんなに魅力的なキャラもそうそういない。いわゆる“大阪のおばちゃん”のイメージを極端にしたような感じで、SFやミステリの世界ではいそうでいてあまり見かけない、まして主役格で登場することなど考えられなかったキャラクターをメインに据えることで独自の世界を形作っている。

 未確認生物に関する蘊蓄がふんだんに盛り込まれ、丁寧な伏線の挙句の解決は必ずしも科学的とは言い難いが、少なくとも作中の描写は公平なのでその気になれば読者でも先んじて辿り着きうる。ただ、当初の執筆時点でよほど急かされていたのか、ところどころ文意が掴みにくい、その場にいるどのキャラクターが喋っているか解りにくい箇所があるのが残念だった。とりわけ、p346から数ページの描写はそのままでは直前の出来事と矛盾を来たし、読者のほうで想像して補うにしても不自然なところが多い。この辺は完全版として復活させる前にちょっと手を入れるべきではなかったかと思う――もしかしたら手を入れた結果、変な矛盾が生まれてしまったのかも知れないが。

 ともあれ、古今東西の怪物好き、グロテスクな世界観を愛好する方、更にはちょっとひねくれたミステリを欲している方にはたいそうお薦めの一冊。但し、読まれる場合は予め続刊にして完結編の『UMAハンター馬子[完全版]2』も同時に購入されますように。何故なら、本書に収録された第四話は二分割されて、後半はそちらに収録されているから。かくいう私も甚だ欲求不満状態に陥ってしまったので、当初続いてディクスン・カーを読む予定を変更してすぐさま二巻に取りかかってるぐらいですから。

 はてさて、馬子は不老不死の謎の先に何を求めているのか、そして彼らの旅の決着はいかなる具合となりますやら。

コメント

  1. 冬野@狐さん、わはー より:

    おお ふかがわ よ よみおわらないとはなにごとだ!

    とならないよう、ゆめゆめ注意なさることです(´ー`)

  2. tuckf より:

    せめて『螢』ぐらいは読み終えるように片付けていくつもりでっす。
    ……でも、いざ読んでも肝心の読書会に参加しなかったり出来なかったり、ということもあり得る。というか、既に参加内定の企画と時間被ってるような……

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