ブラバン

ブラバン ブラバン

津原泰水

判型:四六判ハード

版元:basilico

発行:2006年8月5日

isbn:4862380271

本体価格:1600円

商品ページ:[bk1amazon]

 1980年、県立典則高校に入学した僕――他片等は吹奏楽部に入った。様々な想い出と苦い経験とを積み重ねた当時の吹奏楽部のメンバーを、再結成しようという提案が、四半世紀を経てにわかに持ちかけられる。求めに応じてかつてのメンバーに接触したり、機材の調達に奔走しながら、僕の脳裏には当時の記憶が順繰りに蘇っていくのだった……。

 少女小説を離れてのち、しばらくはホラー・幻想小説を中心に活動していた著者だが、近年は『ルピナス探偵団』シリーズや、純然たる恋愛小説『赤い竪琴』、キム・ギドク監督の問題作をノヴェライズした『悪い男』など幅を拡げつつある。本書はどこの学校にも存在する吹奏楽部を舞台に、群像劇としての青春物語を描いている。

 本書に登場する人々は、基本的に天才や、吹奏楽部に所属していた頃から気を吐いていたような、いわゆるヒーローではない。ごく平均的な常識と、悩みとを抱えた人々ばかりだ。それぞれに個性は際立ち、紛れることはないというのに、しかしそこに漂う感覚は誰にでもある、或いは身近にあったと思わされるものであるというのが、著者のただならぬ筆力を証明している。当時の凜とした雰囲気から一転して落魄していく同級生、超然としていたはずがいつの間にかまったく違った印象になっていた教師、生活は変わっても本質はそのままであった友人たち。そうした実像のリアリティが、違う土地に青春を送っていた読者にも親近感を齎す。

 作中、様々なトラブルが発生するが、概ね解決はしない。すべてが放り投げられたまま25年後まで持ち越される。現在の出来事についても同様だ。みな様々な事情を抱えているため思うようにメンバーは集まらず、再結成の計画自体が思わぬ顛末を迎えることになる。だが、その流れがごく自然で生々しく、御都合主義という印象をまったく齎さない。そして、カタルシスに至る要素をほとんど用意していないのに、終章においてそれらがじんわりと沁みてくるのは、人物造型も話の流れも一切手抜きをしていないからだろう。

 まったく派手さはないが、しかし一読、記憶に留まること請け合いの傑作。

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