『UMAハンター馬子[完全版]2』
判型:文庫判 レーベル:ハヤカワ文庫JA 版元:早川書房 発行:2005年2月28日 isbn:4150307849 本体価格:900円 |
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伝統芸能“おんびき祭文”の演者にして下品を鍋で三日三晩煮詰めたぐらい重度な“大阪のおばはん”蘇我家馬子と、何の因果か彼女の弟子になった薄幸の少女イルカ。ふたりの旅するところ常に見え隠れするのは不老不死の伝承と、生態不明のUMAの数々。宛ても知れぬ旅の果てに師弟が迎えた結末とは……? 学習研究社にて判型を変えながら二巻まで刊行されながらも中絶していたシリーズが、書き下ろしの第七話と最終話を追加して待望の復活&完結。リニューアル版第一巻の承前である第四話「恐怖の超猿人」、海岸に漂着する謎の生物の死骸“グロブスター”を扱う第五話「水中からの挑戦」、奈良を跳梁する吸血生物の正体を探る第六話「闇に光る眼」、船を襲う巨大生物と対決する第七話「ダークゾーン」、そして遂に馬子の正体と彼女を巡る因縁に決着がつけられる最終話「史上最大の侵略」の五話を収録する。
前巻があまりに面白かったのに加えて第四話がいいところで切られてしまっていたので、堪らず立て続けに読んでしまいました。馬子の身近にいたらヤだけどお話として触れる分にはこの上なく魅力的なキャラクターと弟子・イルカとの掛け合い、随所に盛り込まれるUMA及び古典文献に関する知識、駄洒落を交えつつもかなりの説得力のある謎解きなどなど、いちど嵌ってしまうと結末を見届けるまで抜け出せない。 ただ、前巻のエピソードと比較するとちょっと雑な印象を受けたことも告白しておきたい。ネタは相変わらず作り込まれているのだが、前巻からの続きである第四話や書き下ろしの二篇は特に、話運びがいささか乱れている印象を受けた。馬子のやっていることが無茶苦茶なのはいいとしても、彼女と同時に不老不死を捜し求めているらしい山野千太郎ら一味の行動までが無軌道に映るのはどうだろう。その報いは最終話で受けることになるのだが。 とか何とか言いながらも、そのハチャメチャ具合が楽しいのも事実だ。こと、最終話以外のエピソードでのイルカの薄幸ぶりは、同情を誘いながらも笑いを堪えられない(最終話でも悲惨な目に遭っているが、ここはさすがに笑うどころの話ではないだろう)。駄洒落やギャグに走りながらも、単独で検証するとそれなりに説得力のあるUMAの絵解きも前巻同様に興味深い。 本書でいちばん感心したのは、チュパカブラの正体である。UMAの正体については前巻でもなるほどと唸らせられる解答があったが、そちらから通してもこの吸血生物の正体はいちばん納得した――無論、根本的な疑問は残るのだけど、それを言い出したら本書の怪物はみんな極端すぎるわけで。 雑さやいい加減さをやや窺わせながらも前巻同様に引きずられるような面白さのある一冊である――が、正直なところ、締め括り方はこの作品としてはどうか、と首を捻ったことも言い添えておきたい。ここまでUMAに拘りながら、最後の最後でああいう方向に決着させてしまったのは勿体ないように思うのだ。 尤も、そこでもきちんと駄洒落を盛り込むあたり、非常に田中啓文作品らしいのだけど。 |
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