百物語 第四夜 実録怪談集

百物語 第四夜 実録怪談集 『百物語 第四夜 実録怪談集』

平谷美樹

判型:文庫判

レーベル:ハルキ・ホラー文庫

版元:角川春樹事務所

発行:2005年7月18日

isbn:475843185X

本体価格:580円

商品ページ:[bk1amazon]

 自身も様々な怪異体験の持ち主である著者が、周囲の人々から聞いたエピソードを綴り百話に纏めた怪談本、第四巻。

 このシリーズに対しては毎年買ってはひたすら辛い評価ばかり下してきた私だが、残念ながら今回もあまり手応えは芳しくない。基本的な欠陥は旧作の感想でも述べたものがそのまま残っており、文章技術に反比例して怪談としての質はかなり低い。

 本巻において著者は「「体験者が何に恐怖したか」に注目してきた」と言っているが、しかしその意思表明に反して、大半のエピソードは怖がっていないように見えるし、どうしてそれを恐れたのかをうまく説明できておらず違和感ばかりを残す結果に終わっているのがいちばんいけない。何気ない現象まで含めて“怪異”として、体験者の主観抜きに集めたというならこの書き方でも正しいと言えるが――それでも奇妙な感触がどこから生じているかも表現しきれていないので、やはり及第点に届いていないのだけれど――冒頭の主張と食い違っている時点で本書は完全に失敗している。

 ましてやこのシリーズは第二巻から巻末に大迫純一氏らとの対談を収録しているが、そこで語っている“論理的な姿勢”と本編で綴られているエピソードに対する解釈の浅さがおもいっきり矛盾しているのはどうだろう。そもそも、「体験者が何に恐怖したか」という観点から綴るのであれば解釈などどうでもいいはずで、そうして纏められた本の巻末にまるで体験者そのものを嘲笑うかのような内容の座談会を掲載する無神経さが不思議でしょうがない。私などがこのシリーズを腐しているのは多分にもっと丁寧に、或いは執着的に怪談を追っている人々の書籍を読み漁りある意味で歪んでいるせいもあるはずで、本書の内容でも充分に望む“恐怖”を味わうことの出来る素直な読者も少なくないだろうに、そのあとでこんな座談会を読まされては艶消しもいいところだ。

 評価したい点もあるのだ。幾つか際立ったエピソードはあるし、体験者ごとに分けて綴る形式を中心にしたことも怪談本では却って珍しく興味深い。だが、後者についてはその方法が活きていないことも指摘せねばならない。体験者ごとに振り分けたことで何か浮かび上がってくる要素があるわけではなく、却ってどうでもいい内容なのにわざわざ話を分けたり水増ししている、という印象を強めてしまっており、折角の手法も無駄になっている。研究書的な読み方をしようにも掘り下げが浅すぎて話にならない。だいいち、研究書として評価するなら尚更に座談会で示した方針に従って“霊能者”*1の体験それぞれについて丁寧な検証を行う、或いはきちんとその傾向などを窺わせるような纏め方をするべきであり、それを踏まえるなら“怪異”を“怪異”のままとして共に戯れる『百物語』という様式に則る必要などどこにもない、というより避けるべきだ。

 百物語としてはおろか、怪談本としても及第点に程遠いのは旧刊と同じであった。いっそ四年間待って、いいエピソードだけ収録するべきだったと思う。そこまでして、ようやく題名である『百物語』に相応しい、純粋な怪談集に仕上がっただろうに――著者は本巻を最後に自らこのシリーズを手懸けることを止め、別の方が受け持つのであれば協力は惜しまない、といった趣旨の発言をされているが、もしその新しい方の姿勢が著者と変わらないのであれば、悪いことは言わない、最低でも『百物語』という看板は降ろしたほうがいい。

*1:そもそも巻末の主張からすれば、この定義の曖昧な呼称を安易に用いていること自体が大きな間違いだろう。いわゆる怪奇体験に何らかの科学的説明がつく可能性は認めるが、その多用な解釈を一括りにするのにこういう表現を用いる無神経さは読んでいて苛立ちを覚える。

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