『怪談の学校』
判型:B6判ソフト レーベル:怪談双書 発行:2006年2月17日 isbn:4840114978 本体価格:1200円 |
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独自のスタイルで妖怪や怪異を剔出する碩学の小説家・京極夏彦氏に『新耳袋』シリーズで斯界の第一人者となった木原浩勝&中山市朗両氏、そして『幻想文学』から『幽』の編集長に就任し怪談文芸の普及に貢献著しい東雅夫氏という四人が、“怪を蒐め、怪を語り、怪を著す”ために結成した“怪談之怪”2冊目の共著。『ダ・ヴィンチ』誌上に連載された、一般の好事家から寄せられた実話・創作怪談に講評や添削を加え、より優れた怪談の創作法を教授するシリーズに、怪談の定義を明確化しようと試みた対談を併録する。
開校の辞で京極氏が記しているように、これは怪談本ではない。『新耳袋』や『「超」怖い話』に接するような感覚で本を開くと困惑するし、何の楽しみも得られないだろう。最高の書き手である木原・中山両氏と、やや迂遠なスタンスから怪談へのアプローチを行っている京極氏、そして読み巧者である東氏という四人が怪談の定義とその恐怖のポイントについて語り論考を重ねる対談などは、怪談をその描き方から読み解こうとする愛好家でもないと楽しみようがないだろうし、一般から寄せられた作品を読み解き、どこが怪談としてのツボであり、どこを工夫すればよりよい作品になるかを丁寧に解いた講評や書き方指南の項など、拙いながらもそれぞれに怪談としての読みどころのある作品から興趣を奪ってさえおり、怪談本として読んでしまったらまったく面白みがない。 だが、“怪談”というものの面白さの所以について興味を抱いている向きや、自らも取材をして作品を著したい、恐怖のポイントを理解して創作怪談を執筆したい、と考えている方にはこれ以上ないほど参考となる一冊である。実話怪談ブームによって、多くの書籍が発売されるようになっているが、怪談とホラーを分けるものは何か、執筆するにあたってのポイントは何なのかについて深く語り合い、実作を例に採りあげて書き方を熟考した文章はさほど前に出て来ていない。当代きっての書き手と読み手とが誠心誠意を尽くして怪談と向き合う本書は、優れた参考書となるはずだ。 一方で、当然ではあるが四者それぞれに微妙に異なる“怪談観”を窺うことが出来る点でも本書は興味深い。そして、寄せられた作品を評価したうえで、よりよくするための手解きをするその方法がまた四者四様である点もなかなかに面白い。木原浩勝氏は内容を精査したうえで木原氏流に調理し直したものを末尾に掲げてお手本としているし、中山氏は参考となる落語作品を紹介したり、かつて運営していた携帯電話対応の怪談サイト製作の裏話を関係者の対談というかたちで披露したり、と毎回手を換え品を換え実作の方法を説いているし、京極氏は如何にも本格ミステリを手懸ける作家らしく作品を解体した上で、構成や狙い目から理路整然と書き方を考察している。東氏はアンソロジストの名に相応しく、投稿作品に近いテーマを用いた名作やアンソロジーを掲げて創作の一助となるよう試みている。 実作を収録してはいるが、怪談本として読むのは困難である。だが、怪談というものに向き合う上での姿勢や、実作に臨む際の技術を学び練り上げていくためには極めて有益な一冊と言えよう。これほど題名に忠実である書籍というのも珍しい。 |
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