飼育する男

飼育する男 『飼育する男』

大石圭

判型:文庫判

レーベル:角川ホラー文庫

版元:角川書店

発行:平成18年7月10日

isbn:404357214X

本体価格:590円

商品ページ:[bk1amazon]

 幼い頃の歪な憧れは、潤沢な資産と相俟って、男に“女性を蒐集する”という趣味を齎した。外界から隔絶された豪邸の地下に作られた密室に閉じこめられる6人の女たち。やがて訪れる破滅の日を想像しながら、男は夜毎に女たちを陵辱し、躾け、飼い慣らしていく……そんな彼の新たな犠牲者の名は、水乃玲奈。

 歪んだ情念と容赦のない書き込みは凄まじい。機械のように規則的で、しかし人間離れした情欲で女たちを犯す男。そんな彼に最初は反抗しながら、ある者は死を選び、ある者は許容することを選び、しかしいずれにしても抵抗する意欲を失っていく女たちの姿が、実に生々しく描き出されている。良心的な人なら眉を顰めるだけでは足らず、放り出してしまうに違いない。

 良心的ではなく自らの屈折した部分にも自覚的である私は色々な意味で楽しんだ本書だが、他方これといった筋も仕掛けもない構成には首を傾げる。加害者である男や犠牲者となる女たちそれぞれの視点から状況を綴って物語に厚みを齎す描き方はいいとしても、そうすることで最終的にひとくさりの物語が構成されるわけでも、何か逆転劇が描かれるでもないのは引っかかる。

 当初からそうした方向性が示されていれば抵抗はなかったのだろうが、本書では序盤、敢えて固有名詞を用いない描き方をした部分があって、それが終盤にかけて何らかの効果を上げるのでは、と期待させておきながら、実質的に何ら大きな役を果たすでもなく終わってしまっているため、どうも首尾の一貫しない印象を齎すのだ。ここに何らかの仕掛けがあったのならきちんと完遂するか、この妙な叙述上の工夫は排除して、ひたすら状況をストレートに描くことに腐心して欲しかった。

 いちいち「ああっ」という感嘆詞を使用する点や女性の言葉遣いなど、文章面で引っかかる点も多々あり、完成度はあまり高くない。だが、その執着的でありながら何処か渇いた文章で綴られる凶器や情念には、独特の魅力が存在する。善意ばかりの話にはどうも馴染めないという向きや、小説に必ずしもカタルシスを欲しない、ひたすら絶望を積み重ねるような作品を望んでいた読者にはお薦めしたい。

 ――但し、あまり電車の中など、野外に持ち歩いて読まないほうがいい。なかなか居たたまれない気分になるし、万一横合いから覗きこまれたとき、良識を疑われる可能性大である。

コメント

  1. プルプル より:

    出だしは良いんじゃない。今から
    楽しみに読みます。

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