『メイド 判型:文庫判 レーベル:GA文庫 発行:2006年7月31日 isbn:4797336692 本体価格:590円 |
|
警察庁長官・海堂俊昭の使用人にして、彼の命を受けて豪邸に潜入、そこに蔓延る悪の根をむしり取る警察官でもある若槻葵、通称“メイド刑事”の活躍を描くシリーズ第2巻。彼女に託された新たな任務は――何と、お見合い。海堂の友人・大道寺忠宏のもとに縁づくはずであった女性が立て続けに不可解な死を遂げる、という事件が発生、その原因を探るために海堂は葵に、旧家の出を装って忠宏とのあいだに縁談を結ぶ、という作戦を任せるのであった。メイドとしての身嗜みは得ていても、元を正せば数千人を率いた不良であった葵に全うできるのか?(第5話)ほか、映画ファンド詐欺の内実を探るために元アイドルの女性の邸宅に潜入する第4話、葵の過去を垣間見せる第6話の全3話を収録する。
少女戦闘ものの基礎『スケバン刑事』の様式美に準え、メイドという要素を採り入れた著者快心のシリーズ第2巻。現時点で第3巻が刊行され、既に第5巻まで予定されているというあたりで、その評判の良さは窺える。先行作に敬意を払いつつ、現代流行のモチーフや風俗を盛り込んで自分なりに消化し反映していく姿勢は娯楽小説、というよりフィクションの良心を感じさせる。 ただ、それでも今巻については少々苦言を呈したい。あくまで敬意を表するだけならまだしも、本編で描かれる葵の活躍は『メイド刑事』というよりも『スケバン刑事』のそれに感じられてしまうのだ。冒頭の、映画ファンドを利用した詐欺事件を描いた話だけはまだしもメイドとしての矜持が色濃く窺えるが、続く第5話、第6話の狙う面白さは、どうしても「メイドがお嬢様や成金を装う」面白さよりも、「もと不良の娘が柄に合わない行動をさせられている」面白さのほうが強い。無論こうした冒険の経緯は葵が元不良で現在メイド、必要に応じて内偵と成敗を行う刑事でもある、という肉付けあってこそなのだが、しかし本編が『スケバン刑事・メイド編』ではなく『メイド刑事』である以上、あまりに元不良という要素が強調される事件は大勢を占めて欲しくない、というのが率直な想いなのである。なまじ、先行作をよく研究していることが窺えるだけに、却ってもう一歩踏み込んだ配慮と工夫が欲しく思えるのだ。 事件の肉付けや、30分ちょっと程度のドラマ枠に収まる尺を意識したシンプルな語り口のために、犯人当ての要素も含んだ第5話がどうしても軽々しく感じられること、映像を意識しすぎた見せ場のために、簡潔な文章が迫力を表現しきれていない第6話の問題点など、第1巻と比べると細かく引っかかるポイントが多かった。 意欲に優れ、丹念な研究の痕跡が解るだけに、色々と細かなところが目についてしまう。著者自身があとがきで触れていることだが、もう一歩弾けきれていないため、そうした些末な点を意識させないほどの牽引力を欠いているのもまた事実だ。熱意が伝わるからこそ、タイトルに相応しい個性と存在感を発揮することを願わずにいられない。 読みながらそういう穿った見方をさせられてしまうために、終始のめり込めなかったのが残念である――要は、こういう真剣な姿勢が理解できて、しかも自分なりに色々と思うところのある主題が絡んでいるせいで、かなりおかしな角度から読んでしまっている私がいけないのだが。前巻が楽しめた人であれば、基本的に問題はない。 |
コメント