『Dr.コトー診療所2006』第11話

 彩佳(柴咲コウ)に執刀するためはるばる東京へと赴いたコトー(吉岡秀隆)に、彩佳の担当医・鳴海(堺雅人)は医者が親しい人間に重大な手術を施す、ということの重みを、自らの体験を以て問う。それでも自らメスを執る道を選んだコトーだったが、予想外の出血に動揺し、しばし我を見失ってしまう。鳴海の叱咤でどうにか自分を取り戻し、手術を成功させたコトーは、しかし鳴海の「医者は患者と家族になどなれない」という言葉に、混乱を来すのだった……

 紆余曲折の末、島を遥か離れた場所で医者としての自分を再確認することを迫られるコトー。原親子の話やミナの夫のことも、脱線ではなくここに至るための伏線だったわけです。ああやっぱりいいですよこのシリーズは。これまで非人間的な口振りが際立っていた鳴海の背景を実にシンプルに語り、今回の鍵となる彼の揺さぶりにも説得力を齎す。実のところ、医者というより人間として恵まれた(と鳴海には映る)コトーの境遇に嫉妬して、自分と同じ道に連れ戻そうとしたきらいのある鳴海ですが、結果的にコトーの本来あるべき姿を思い出させることになった。

 原作においては、実は鳴海と深い因縁のある三上(山崎樹範)も、このドラマでは彼と切り離されたところで最後にちゃんと存在感を発揮してくれました。しかし彼がコトーと同じ離島医療の道を選んだことは、確か唯一DVD化されていない特別編のエピソードでしか語られていないはずなので、前シリーズとのあいだにあるそこを見逃した人は戸惑っているよーな気も。

 最後は決して派手な事件を起こすことなく、ようやくあるべき場所に落ち着いた人々の姿を、遠く離れた地にいるふたりの目線で描く。普通なら冗漫に感じそうなところですが、そこにしみじみとした情感を齎してしまうのも、これまで慎重に行ってきた筆運びあってのことです。前作では初めてコトーが島に帰りを喜ばれる姿で締めくくっていたのと反対に、遠い人達を待つ立場になった彼の姿で結びとする構成まで含めて、今回も見事な出来でした。満足。

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