『少林少女』

監督:本広克行 / アクション監督:野口彰宏 / 脚本:十川誠志、十川梨香 / 製作:亀山千広 / 製作総指揮:チャウ・シンチー / 撮影監督:佐光朗,J.S.C. / 美術:相馬直樹 / 編集:田口拓也 / 衣装:加藤美紀 / 視覚効果監督:石井教雄 / 音楽:菅野祐悟 / 主題歌:mihimaruGT『ギリギリHERO』(Universal J) / 出演:柴咲コウ仲村トオル、キティ・チャン、ティン・カイマン、ラム・ジーチョン、岡村隆史江口洋介 / 配給:東宝

2008年日本作品 / 上映時間:1時間47分

2008年04月26日日本公開

公式サイト : http://www.shaolingirl.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2008/04/30)



[粗筋]

 あらゆる武術の原点に位置する少林拳。その総本山たる少林拳武術学校における三千日の修行を終えて、故郷である日本の修善寺に舞い戻ったのは、桜沢凜(柴咲コウ)。道場を営む祖父によって幼少の頃から少林拳を教え込まれていた彼女は、日本中に少林拳を広める、という夢を抱いていた。

 だが帰還した彼女を待っていたのは、祖父の死後に放置され、荒廃した道場と、町の人々の無関心だった。かつて道場に通っていた人々も既に武術から遠ざかり、果てには凜が“先生”と慕う岩井拳児(江口洋介)もすっかり現役を退いて、中華料理店の店長に収まっていた。岩井は少林拳普及に燃える凜を、「世の中に乱暴者が増えるだけだ」と諭す。

 失意に暮れる凜だったが、岩井の店で働く劉除ナ除ナ(キティ・チャン)がそんな彼女の運動能力に興味を持って接近してきた。国際星館大学で学び、学校側で普及を推進しているラクロス部に所属する除ナ除ナは、凜に参加を促す。さっそく除ナ除ナと共に大学に赴いた凜は、自分の少林拳の技術が応用できることを察して参加を快諾するが、代わりに一緒に少林拳を学ぼう、という提案に、仲間たちの反応は芳しくなかった。

 教務部で働き、岩井の中華料理店の常連客でもある田村(岡村隆史)の計らいで速やかに編入が叶いラクロス部に加わった凜だったが、なんとそんな彼女を追いかけるように、岩井がコーチという立場で部活に参加する。

 練習初日から「お前は足手まといだ」と言い放ち、自分を遠ざける岩井に対して、凜は不満を募らせていった。ただひとり、彼女の道場に通い少林拳を学んでその情熱に接した除ナ除ナは凜を参加させるよう岩井にもチームメイトにも進言し続ける。そして初めての練習試合の場で、ようやく凜は参加を認められるが、結果として彼女は、自分に欠けていたものを初めて思い知ることとなる……

[感想]

 製作総指揮としてチャウ・シンチーが参加していることからも察せられる通り、本篇の世界観は彼の世界的大ヒット作『少林サッカー』に基づいている。少林拳を学んだ少女がその普及を志すという主題に、序盤は手当たり次第に声をかけまくるというシチュエーション、そして幾ら才能があるとは言い条、人間離れした技を見せるあたりなど、もろにそのスタイルを踏襲している。チャウ・シンチーの名前がなければパクリと判断されても仕方ないくらいだ。

 だが、そこから破天荒な話運びを期待していると、かなり肩透かしを食らう。能力は人間離れしていても、基本的な価値観や展開は地に足が着いている。例えば、冒頭で帰郷した凜を出迎え、道場に何が起きたのかを話す人々は、ことごとく武術の心得があることを細かな動作で仄めかし、実際にやってきたうえで、生活のためなどを理由に辞めたことを窺わせる。除ナ除ナに対して解く少林拳の基本動作とラクロスの基本動作を一貫させる手管、更には岩井が凜をラクロスの練習から遠ざけていた理由など、いずれも納得のいくものばかりだ。凛たちの運動能力は非現実的なレベルにあるが、しかしそれに対する周囲の反応などまで非現実的にする必要はないわけで、如何にも日本人的ながら、だからこそわざわざ移植した甲斐を感じさせる書き換えが行われている。

 しかしそうは言っても、もっと振り切れた部分が欲しかった、と感じてしまうのはどうしようもない。こと『少林サッカー』や『カンフーハッスル』を見知っている目には、本篇の筋運びはあまりに穏当に思えてしまうのだ。筋運びは穏当でも、部分部分は突き抜けたものであっても構わないはずで、該当するのが最終決戦とその直前のひと幕、そしてエンドロールのおまけぐらいしかないのはどうにももったいない。

 他方で、折角終盤に用意された超人対決が、他に大きく振り切れた部分が乏しいせいで、全体から浮いてしまっているのも残念だ。如何にも武術の達人同士の戦いを思わせる異様なシチュエーションが咄嗟に理解しづらく、戦い方もその締め括りにも唐突のきらいがある。いちおう、本篇中の描写を踏まえて構築されたクライマックスではあるのだが、もう少し序盤から細かく補強すべきだっただろう。

 アクション映画を愛好する者としては、アクション部分での緊迫感が全般に乏しかった点についても言及せねばならない。主人公の能力がどれほど突出していようと、対決する人物やシチュエーションを工夫すれば危機感を煽ることは可能なのだが、本篇はその工夫が全体に不慣れで、見せ場やインパクトに欠いてしまった。その意味での工夫がいちばん活きていたのが、最大の敵ではなくそのひとつ手前であったのはもったいない。

 しかしそれでも、本篇はアクションに依存せずに少林拳の魅力を語り、ドラマの格としてきちんと仕上げていることは評価に値する。締め括り方にやや疑問を残してしまっているが、好意的に解釈することも可能なので、大きなマイナスとは言い難い。

 何よりも、ヒロイン・凜をはじめ、躍動する女性達が美しく可愛いのが出色だ。タイトルバックで型を演じる姿からして凛々しいのだが、作中で基本の型を演じるスタイルの良さと佇まい、そして凜に影響されて少林拳を学び、それをラクロスに還元していく彼女たちのなんと格好良く美しいことか。そんな彼女たちの活躍を直接描いていないことも若干不満に繋がるが、そのあたりはそもそも『少林サッカー』と同じものになってしまう危険を孕んでいるし、その分エンドロールで充分に解消してくれるのだから、ツボはわきまえている。

 そして、タイトルに対して誠実な内容であるのもいい。もし少女たちの美しさに拘るあまりラクロスを描きすぎてしまえば『少林ラクロス』になってしまうが、そこで“少林拳を修める”という点に拘っている点こそが本篇の美点である。

 瑕は多く、いささか振り切れていないところが惜しまれるものの、ちゃんと芯の通った、観ていて充分に爽快感の味わえる娯楽作品に仕上がっている。

コメント

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