病院で発生した立てこもり事件で人質になり、吉敷竹史らが救った森岡輝子という女性が、事件から4ヶ月後、伊勢から救いを求めてきた。「もうひとりの自分が人を殺してしまった」というのである。不可解な供述をする輝子を嘘つきだと断じ、ろくに取り合わない現地の警察に対し、吉敷はあまりに筋の通らない証言が逆に気に懸かり、地元で疎んじられながらも捜査を開始する。やがて、輝子に先行してあちこちで存在を強調する“もうひとりの輝子”の存在が浮かび上がってきた――それは幽体離脱した輝子なのか……?
前回の『北の夕鶴3/4の殺人』が、あの大トリックを正しく描いていたせいで一般のドラマ視聴者からは不評だったので、もう次はないかなーと諦めていたらいきなり新作登場です。そろそろ『出雲伝説』あたりが来るかと思いきや、『灰の迷宮』に続いて分数シリーズ終了後の作品でした。
大昔に読んだ原作を再読する暇もなく鑑賞したのですが――こんな話だっけ? と思いながら観ていて、やがて気づきました。個人的に印象に残っていたのが、事件そのものではなく、関係者の誰かが小さい頃に経験したという幽体離脱と、その解決ばかりだったかららしい。そこはすっぱり省かれていたので、よけいに思い出せなかったようです。
『灰の迷宮』もそうですが、当時はそういう本筋以外のところが記憶に残ってしまったらしく、本筋の込み入った構造を充分に理解していなかったのかも。幾つかの偶然が複雑化していった事件の様相が思いの外魅力的です。この時期も、ちゃんと主張していた通りの複雑怪奇な謎解きをやっていたんだな、と。
なるべく勘所を押さえて映像化しているこのシリーズ、今回もメインの複雑さを留めているのでいいのですが、中村警部を登場させるのはちょっと無理矢理だったかも。原作シリーズの定番だった上司との確執も、むしろ根っこでは理解しているような感じになっているのが物足りなくは思ったのですが、ドラマ版としてはこのくらいで充分でしょう。ギリギリまで現地の警察が反感を抱いているのも良し。
背景がけっこう込み入っているぶん、最後の犯人の告白が重いのが見応えがありました。ここにきてまるっきり通子の出番がなくなりましたが、無理矢理出しても仕方ないので、このくらいさらっとした扱いのほうがいいでしょう。相変わらず、マイルドにしてはいても行きすぎていない脚色が程よい、いいドラマ化でした。
……なんか、もしかしたら分数シリーズとそれ以外の作品を交互にリリースしているような印象なんですが、もしかして次あたりが『出雲伝説』なのか? まあ、前回から8ヶ月と比較的早めに登場しているので、また次もあるだろうと期待してます。
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