TOHOシネマズ錦糸町 オリナス、スクリーン8入口脇に掲示された『エスター ファースト・キル』チラシ。
原題:“Orphan : First Kill” / 監督:ウィリアム・ブレント・ベル / 脚本:デヴィッド・コッジシャル / 原案:デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック、アレックス・メイス / 製作:イーサン・アーウィン、アレックス・メイス、ハル・サドフ、ジェームズ・トムリンソン / 製作総指揮:デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック、クロエ・カッツ、ダリル・カッツ、ジョシー・ラング、ポール・マーカッチオ、ヴィクター・モイヤーズ / アソシエイト・プロデューサー:イザベル・ファーマン / 撮影監督:カリム・ハッセン / プロダクション・デザイナー:マシュー・デイヴィーズ / 編集:ジョシュ・エサー / キャスティング:ゲイル・ゴールドバーグ、ローナ・ジョンソン、カルメン・コシック / 音楽:ブレット・デター / 出演:イザベル・ファーマン、ジュリア・スタイルズ、ロッシフ・サザーランド、マシュー・アーロン・フィンラン、ヒロ・カナガワ、サマンサ・ウォークス、デヴィッド・ローレンス・ブラウン、ローレン・コクラン、グウェンドリン・コリンズ / ゴースト・キャッスル・エンタテインメント/イーワン製作 / 配給:Happinet-Phantom Studios
2022年アメリカ、カナダ合作 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:小寺陽子 / R15+
2023年3月31日日本公開
公式サイト : https://happinet-phantom.com/esther/
TOHOシネマズ錦糸町 オリナスにて初見(2023/4/4)
[粗筋]
2007年のある日、オルブライト家に、エスター(イザベル・ファーマン)が見つかった、という連絡が届いた。
エスターはアラン(ロッシフ・サザーランド)とトリシア(ジュリア・スタイルズ)のオルブライト夫妻のあいだに生まれた娘である。4年前に失踪して以来発見されず、画家だったアランは半ば断筆状態に陥るほど憔悴していた。
トリシアは単身、エスターが保護されたロシアのモスクワへと赴き、アメリカへと連れ帰った。アランは歓喜するが、トリシアとエスターの兄・ガナー(マシュー・アーロン・フィンラン)は困惑を隠せなかった。
アランはこれで、家族が平穏を取り戻せると信じていた。だが、このときからオルブライト家は、加速度的に歪みが生じていった――
[感想]
……とりあえず、何とかこのかたちに粗筋をまとめた私をちょっと褒めてほしい。なんでそんなに得意がっているのだ、と訝っている方は、先行する『エスター』を観てくるか、確認し直してきてください。本篇のあらすじを、前作のネタばらしなしで書くことがどれほどしんどいか!
ただ、もし本篇を心置きなく楽しみたい、というのであれば、前作の鑑賞は必須、と言わざるを得ない。なにせ、粗筋では触れなかった要素の多くが前作のネタばらしそのものなのである。前作の驚き、凄さを存分に味わいたいなら、間違っても本篇から観てはいけない。
言い換えれば、前作を観る気がない、或いはネタばらしをされても気にしない、というひとなら本篇から鑑賞しても問題はない――が、果たして本篇単体にそこまで価値があるか、は正直、疑問である。やはり、スリラーとして極めて優秀だった前作と比較すると大いに見劣りする、と言わざるを得ないのだ。
前作の価値を大いに高めるほどのはまり役だったイザベル・ファーマンを再度起用し、その売りでもあった“驚き”もきちんと採り入れた本篇のスタンスは評価出来る。監督は代わったが、自身が前作のファンであった、というだけあって、その世界観や発想のベースはきちんと維持しており、続篇としての違和感はない。
しかし如何せん、すべてが小振りになってしまった、という感は否めない。
前作のテイストを留めながらも違う種類の衝撃を用意しているが、仕掛けが甘く、かつそのあとの広げ方も不充分で、サプライズとしての効果を損なってしまっている。
また、スリラーならではの緊迫したシチュエーションが様々盛り込まれているものの、こちらも全般に拍子抜けの感が否めない。お膳立てが不充分だったり、安易だったりして、恐怖や緊張が持続せず、失笑に流れてしまいがちだ。意識してブラックユーモア的な表現に寄せているとも考えられるが、だとしたら振り切り方がもうひとつ弱い。
本篇で間違いなく評価出来るのは、エスターというキャラクターをほぼ完全に甦らせ、そのキャラクターを掘り下げた、という点に尽きる。子役であった時分に見事にこの役柄をこなしたイザベル・ファーマンをふたたび起用、当時より成長してしまった身体を様々な工夫で幼く見せ、当時よりも説得力を増した演技で、ある意味では前作よりも完璧に仕上げた。このエスターというキャラクター再生のための努力と工夫そのものが映画ならではのもので、そういう意味では極めて見応えがある。
前述したとおり、前作を観ていないと前作の美点を削ぎかねないし、だが律儀に前作を観てから臨むと、こぢんまりとした印象を抱く。全体のクオリティだけを考えれば、撮るべきではなかった、と冷淡に言い切ってしまうひともいるだろう。しかし、あえてその困難に挑んだ心意気と、前作の魅力の核だけは見失わず、“エスター”という特筆すべきキャラクターをスクリーンに再登場させたことは評価されていい、と思う。
関連作品:
『エスター』
『デビル・インサイド』
『世界にひとつのプレイブック』/『ミッドウェイ(2019)』
『死霊館』/『インシディアス[序章]』/『トールマン』/『プリズナーズ』
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