監督:堤幸彦 / 脚本:蒔田光治 / 製作:上松道夫、島谷能成 / 撮影:斑目重友 / 美術:稲垣尚夫 / VFX:野崎宏二 / 照明:川里一幸 / 編集:大野昌寛 / 音楽:辻陽 / 主題歌:熊谷育美『月恋歌』(テイチクエンタテインメント/タクミノート) / 出演:仲間由紀恵、阿部寛、生瀬勝久、野際陽子、松平健、佐藤健、夏帆、戸田恵子、藤木直人、片瀬那奈、平泉成、三浦理恵子、きたろう、島崎俊郎、増本庄一郎、山寺宏一、河本準一、大島蓉子、アベディーン・モハメッド、なすび、田所二葉、ガッツ石松 / 配給:東宝
2010年日本作品 / 上映時間:1時間59分
2010年5月8日日本公開
公式サイト : http://www.yamada-ueda.com/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2010/05/08)
[粗筋]
日本科学技術大学に所属する、巨根でヘタレ、自己顕示欲だけ優れている教授・上田次郎(阿部寛)のもとを、中森翔平(佐藤健)という青年が訪ねてきた。
翔平青年の暮らす“万練村”では長年にわたって、“カミハエーリ”と呼ばれる霊能力者が支配権を握っていた。先ごろ、先代の“カミハエーリ”が亡くなり、100日以内に後継者を決めないと村に災いが降りかかる、という言い伝えに従って、村では日本全国から霊能力者を募っての選考会が催されることになったという。
先代の“カミハエーリ”は翔平の祖母だったのだが、実は祖母はいずれ翔平に自らの地位を継がせるべく、奇跡を演出して人目を欺く術――とどのつまりは手品を教え込んでいたのだ。村人はそのため、翔平にも霊能力があると信じこんでおり、コンテストにも参加を命じられているのだという。そこで翔平は、上田に村まで来てもらい、コンテストに参加する霊能力者たちのインチキを暴いて、そんな力など存在しないことを証明して欲しい、と頼みに来たのだ。その際に、自分もこれまでの嘘を告白し、こんな馬鹿馬鹿しい風習を終わりにしたい、というのである。
同じ頃、上田と因縁の深い、貧乳の貧乏マジシャン山田奈緒子(仲間由紀恵)は、毎度のことながら窮地に立たされていた。仕事先をクビになり、暮らしているアパートの大家(大島蓉子)からは家賃を払わないと部屋の扉を開ける暗証番号を教えない、と通告される。彼女を解雇した興行主(河本準一)はそんな彼女に、“万練村”で開催される“カミハエーリ”選考会の存在を教える。毎年村民から一定量の貢ぎ物があるうえ、財宝が隠されている、という噂もある、と聞かされ、強欲な奈緒子はあっさりとなびいてしまった。
斯くして、別々の道から“万練村”を目指した奈緒子と上田。そこでふたりを待ち受けていたのは――壮絶な、霊能力者同士の殺し合いであった……。
[感想]
テレビ朝日系列で放送された連続ドラマの三度目となる映画化作品であり、放送開始10周年を記念した新作でもある。
基本は毎回別の事件を扱っているので、話の大筋だけなら本篇からいきなり観たとしても理解は出来るだろう。ただやはり、この作品は最初から追って行った方が面白いはずだ。奈緒子の文字通り十年一日の如き貧乏マジシャンぶりに、どんどん膨らみつつ小者っぽさも増している上田の身辺、あさってに成長している奈緒子のアパートの様子に神出鬼没の奈緒子の母、などなど、ネタの成長ぶりを知っていてこそ楽しい描写を満載している。
また、詳述は出来ないが、本篇は思わぬところで旧作とリンクしており、ずっと追いかけて観ていた者ならは「あっ!」と言わされる場面が幾つかある。この衝撃を楽しむためには、やはりシリーズをちゃんと予習復習するべきだろう。
ただ、これまでのシリーズが楽しめなかった人、随所に存在した謎解きの不整合性がどうしても許せなかった、という人は避けて通った方がいい。その辺りの弱さは相変わらず存在している。例えば、どうしてここまでする必要があったのか、とか、反対にどうしてここで当然のフォローを怠ってしまったのか、といった粗は、シリーズの味と捉えるにしてもいささか行き過ぎている。
そして、初見であるなしに拘わらず、趣味の範囲や年齢によっては解りにくい小ネタが多いことも、人によっては楽しめない、酷いと苛立ちに繋がる危険もある。序盤、夢の場面で奈緒子の母親が書いた単語の意味であるとか、藤木直人が口走る台詞の面白さとか、通用する世代がまるで違うので、本来ごちゃ混ぜに使うべきではない、と考える人もいるかも知れない。
だが、このシリーズの良さは、そういう緩さ、混沌とした空気にこそある。謎解きがあるために芯は通してあるが、その周辺、謎と直接関わらないもの、のみならず場合によっては謎解きの鍵になる部分でまで危険な遊びを仕掛けるのがこのシリーズの突き抜けたところであり、魅力なのである。そういう意味でも、本篇は非常にらしい作品、と言える。
もうひとつ、私が本篇を高く買うのは、クライマックスで明かされる真実とドラマとが、作中の“仕掛け”とうまく噛み合っていることだ。こういう事実があってこその仕掛けであり、こういう仕掛けを用いてしまったからこそ漂う虚無感。過去のシリーズ作品では大がかりすぎて話から浮いてしまっているものもあったが、その辺りへの反省か或いは熟練故か、見事な一体感を築いているのに感心する。
初見で味わい尽くすには予習復習が肝要だが、仮に初めて、或いはすっかり忘れていたとしても、自分とシリーズとの相性を確かめることの可能な、好個の一篇であろう。入門篇としても、10周年を記念するものとしても、最良の仕事だったと思う。
ちなみに、この作品の劇場公開に合わせて、関連した新作ドラマがテレビで放映された。山田&上田に匹敵する重要なキャラクターである刑事・矢部謙三を主役に抜擢した全6回の連続ドラマ『警部補 矢部謙三』と、劇場版とほぼ同時に撮影されていた2時間弱の特番『新作スペシャル2』である。前者はオリジナル・シリーズの味わいを踏襲し、内容をリンクさせつつも、オリジナルでは扱えないタイプの事件や雰囲気に合った新しい登場人物を加えて、ファンの期待に応えているし、後者は、ネタ的には既存のものだが、仕掛けを活かし謎解きドラマらしい雰囲気を構築しているという意味では劇場版以上の完成度とも言える。もう放送が終わっているので、もし観のがした方、ここを読んで興味が湧いた、という方(あとのほうはいるかどうか怪しいもんだと思いますが)は、映像ソフト版の発売を待って堪能していただきたい。
……どうも製作者サイドにはやる気があると窺えても、更なる新作が作られるのかまだ怪しい現状からすると、まだ新作を観る楽しみがある、というのが羨ましくて仕方ないのだが。
関連作品:
『魍魎の匣』
『私は貝になりたい』
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