『孤島の王』

孤島の王 [DVD]

原題:“Kongen av Bastoy” / 監督:マリウス・ホルスト / 脚本:デニス・マグヌッソン / 製作:カーリン・ユルスルード / 撮影監督:ヨン・アンドレアス・アナスン / プロダクション・デザイナー:ヤヌス・ソスノウスキ / 編集:ミカエル・レズチロフスキ / 衣装:カーチャ・ワトキンス / 音楽:ヨハン・セーデルクヴィスト / 出演:ステラン・スカルスガルド、クリストッフェル・ヨーネル、ベンヤミン・ヘールスター、トロン・ニルセン、エレン・ドリト・ピーターセン、マグヌス・ラングレーテ、モルテン・ルーヴスタッド / 配給:alcine terran / 映像ソフト発売元:角川映画

2010年ノルウェー、フランス、スウェーデンポーランド合作 / 上映時間:1時間57分 / 日本語字幕:?

2012年4月28日日本公開

2012年10月5日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://www.alcine-terran.com/kotou/

DVD Videoにて初見(2013/04/16)



[粗筋]

 1915年、ノルウェー。当時、沖合の孤島・バストイ島に、罪を犯した少年たちが収容される矯正施設が存在した。

 その日、この孤島に送りこまれた少年はふたり。不安に怯えるイーヴァル(マグヌス・ラングレーテ)に対して、エーリング(ベンヤミン・ヘールスター)はふてぶてしかった。内地でも危ない場所だ、という評判が立つような施設に送りこまれたにも拘わらず、反抗的な態度を崩さない。

 だが、バストイ島はエーリングの度胸を上回る、理不尽な世界だった。院長(ステラン・スカルスガルド)が絶対的王者として君臨し、その部下の大人達は少年たちの衛生状態にまで目を光らせ、一切の自由を認めない。

 キリスト教の信仰を背景とした清廉な人格の育成を旨としながら、しかしその実、施設には差別、虐待が蔓延っている。エーリングとイーヴァルが所属するC寮の寮長ブローテン(クリストッフェル・ヨーネル)は、少年たちばかりか使用人に対しても横柄な物云いをし、華奢で顔立ちの美しいイーヴァルを誘い出し、ふしだらな行為に及ぶようになった。

 少年たちが萎縮し、長い収容期間を終えるまで息を潜めて過ごすなか、ただひとり、エーリングだけは反抗的な態度を貫いていた。あと6週間で、6年に及ぶ矯正教育を終え、島を出られる予定のC寮の“優等生”オーラヴ(トロン・ニルセン)は、自分が出るまで大人しくしてくれ、と頼むが、エーリングはお構いなしに、周到な計画のうえで脱出を試み、見事に海を渡りきった。

 エーリングの不遜な態度に反感を抱く少年たちも多かったが、この数年来、いちども成功しなかった脱走を成し遂げたことに、少年たちは密かに感銘を受ける。だが、その爽快感はつかの間だった――間もなくエーリングは捕まり、島に連れ戻されてしまう……

[感想]

 ノルウェーの国民でもあまり知らなかった事件に取材し、強い衝撃をもたらした作品であるという。

 確かに驚くべき出来事ではあるのだが、しかし率直に言えば、意外性はさほど感じない。こういうひととしての権利を侵され、抑圧された環境下において、何らかのきっかけで暴動に発展するケースはどこにも存在する。それが、孤島の矯正施設に送りこまれた少年たちによって為された、というのは特異な例であろうが、成り行きとしては明快だ。

 本篇はそれを、ドキュメンタリーを装ったナレーションやテロップで説明しすぎず、その中に身を置く少年たちの視点から、起きたことだけを綴る、というかたちで淡々と描く。なまじ語らないからこその臨場感が、施設という舞台に漲る緊張を観る者に疑似体験させる。

 如何せん、情報が少ないので、果たしてどの程度まで事実を克明に再現しているのかは解らない――推測するに、ノルウェーの国民にさえも浸透していなかったようだから、情報もさほど残っていなかったと思われるので、蜂起に至る過程はほぼフィクションではなかろうか。しかし、頂点に至る流れは極めて自然に、納得のいく道筋を辿っている。劣悪な環境、院長や寮長、職員たちによる束縛に暴力、理不尽な扱いを受けても反発することなど決して許されない立場。時代とお国柄とに限らず、犯罪に走った少年のなかには、止むに止まれず、抵抗することも出来ずにそうした境遇に追い込まれた者も少なくなかったはずだ。とりわけ作中、“優等生”として6年を費やしようやく退所を認められるオーラヴの性格や振る舞いには善良さのほうが色濃く窺え、それ故に鬱積するものがあるだろう、と察せられる。その先に、あの“爆発”がある、と頷けるのだ。
 近年、北欧で作られた、寒冷地を舞台にした映画がしばしば日本に届くようになったが、共通して言えるのは、過酷な環境が、物語の備える緊張感や密度を高め、それと同時に、やもすると薄汚くなる世界に清澄な美しさをもたらしていることだ。面白いことに、かなりグロテスクな造形のモンスターを登場させる『トロール・ハンター』でさえ同様の傾向にあり、劣悪な境遇に置かれた少年たちを中心として描かれる本篇も例外ではない。

 むしろ、寒々とした光景が、終盤で繰り広げられるドラマの熱気をいっそう沸騰させているようにも思える。あの環境が、クライマックスに至る蓄積を圧縮し、怒濤の如き暴発を誘導する。凍てつく孤島で繰り広げられる暴動には剣呑さもつきまとうが、そこにカタルシスさえ感じるのも、少年たちの置かれていた境遇と自然が生み出す冷たさとがシンクロするからだろう。

 結末は決して痛快でも、華々しくもない。むしろ、あの出来事のあとでああした行動に及ぶことも含め、締めつけるような痛みを観る側にも与える。だが、その痛み、苦みが本篇を忘れがたいものに昇華している。優れた心理サスペンス、人間ドラマであるが、この心に染みを残すような体験は、むしろ上質の青春ドラマであるが故なのかも知れない。

関連作品:

スタンド・バイ・ミー

大脱走

パピヨン

麦の穂をゆらす風

ジャンゴ 繋がれざる者

トロール・ハンター

アベンジャーズ

ドラゴン・タトゥーの女

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