原題:“鼠膽龍威” / 監督&脚本:バリー・ウォン / アクション監督:コーリー・ユン / 製作:ヤン・テンクェイ、キャスリーン・クワン / 撮影監督:ラウ・ムントン / 編集:アンジー・ラム / 音楽:リチャード・ユエン、ジュシー・テーゲルマン / 出演:リー・リンチェイ(ジェット・リー)、ジャッキー・チュン、チンミー・ヤウ、チャーリー・ヤン、ケルヴィン・ウォン、ヴァレリー・チョウ、ビリー・チョウ、マー・ウー、チャーリー・チョウ / 映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment
1995年香港作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:?
2009年10月7日DVD日本最新盤発売 [amazon]
DVDにて初見(2010/08/31)
[粗筋]
爆発物の専門家であったキット・リー中尉(リー・リンチェイ)は、ある事件で妻子を失って以来、行方をくらます。
2年後、彼の姿はアクション俳優フランキー・ローン(ジャッキー・チュン)の傍らにあった。フランキーのボディガードとして雇われたリー中尉は、往年の度胸を失い酒色に溺れたフランキーに替わって危険なスタントを務めることが多く、ダイダン=大胆の通称で呼ばれている。
テレビ局のレポーターであるヘレン(チンミー・ヤウ)は、フランキー取材の中で、何者かが代役を務めている事実を撮影し、特ダネとして採り上げるためにフランキーへの密着取材を試みる。ダイダンに軽くあしらわれながらも、ヘレンは諦めるつもりはなかった。
折しも、超高級ホテルのオープニング企画として、宝石展が催されることになった。香港の美女目当てに参加を決意したフランキーを追って、ヘレンもまた同僚と共に隠しカメラを携え、ホテルに潜入する。
だが、その宝石展を、通称“ドクター”(ケルヴィン・ウォン)率いる武装集団が狙っていた。フランキーや関係者をホテルに送り届けたあとで、偶然からその計画を察知したダイダンは、急遽ホテルへと舞い戻る。気懸かりはフランキーの安全ばかりではなかった。首謀者“ドクター”は他でもない、彼の妻子の命を奪った、憎むべき仇だったのだ……
[感想]
主演はジェット・リーということになっているが、真の主役はジャッキー・チュンのほうだ、と断言してしまっても、恐らくジェット本人も反論は出来ないのではないか。そのくらい、ジャッキー・チェンの存在感が秀でている。
彼が本篇で演じているのは、まるでブルース・リーとジャッキー・チェンの中間に位置するようなアクション・スターである。全体にコメディタッチの言動はジャッキーを彷彿とさせるが、断片的に登場する出演作の雰囲気はシリアス寄りだし、そもそもトレードマークとして着ているのは、あのお馴染みの黄色いツナギだ。意識していない、と言われたら殴ってしまいたくなるくらいそのまんまである。
ただこれは、あくまで“身体を張って稼いできたアクション・スター”という類型を解りやすく描き出すための方便だろう。こうした要素がなければ、ほとんどの場面でチュンが披露する、あまりにも情けない裏の顔ばかりが際立って、アクション・スターとしての栄光が想像しづらいが、衣裳や容姿からそのスタイルが、映画を多少なりとも知っている者なら容易に思い浮かぶようになっている。だからこそ、彼が終盤で見せる活躍に納得がいくし、カタルシスも味わえるのだ。
このジャッキー・チュン演じる俳優のキャラクターもそうだが、本篇はカタルシスを演出するための細工に優れている。全篇無口でシリアスに振る舞っているせいでワリを食った印象のあるジェット・リーだが、その行動にきちんと後半の物語に対する伏線が鏤められているため、決して存在感は減じていない。アクション・スターが不甲斐ない分、随所で披露するマーシャル・アーツの迫力に加え、伏線を活かしたハッタリの格好良さは秀逸だ。とりわけ結末の趣向には思わず膝を打つに違いない。
しかし、率直に言えば、決して洗練された作品とは言い難い。ところどころ場面の連携が不自然に感じられるし、香港映画の悪い癖である過剰なユーモアが随所で鼻につく。また、伏線の張り方は非常に丁寧なのに、そこからはみ出した部分のリアリティはほとんど軽視しているのも、人によっては引っ掛かるだろう。主人公であるダイダンの行動に、常識的に見て看過しづらいほどに傍若無人な部分が見受けられるのも気になる――ただまあ、こうした欠陥はハリウッド産のアクション大作でも往々にして認められるもので、そこに目くじらを立てるようであれば、そもそもアクション映画自体向いていないのかも知れないが。
洗練はされていないが、その分荒削りな迫力が漲り、しかも結末のカタルシスにも優れている。痛快なアクション映画、という表現の相応しい1本である――こういうものこそ映画館で観て愉しいものだと思うのだが、どうして劇場未公開に終わってしまったのやら。
関連作品:
『少林サッカー』
コメント