『シン・ウルトラマン』

TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『シン・ウルトラマン』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『シン・ウルトラマン』チラシ。

監督:樋口真嗣 / 総監修&脚本:庵野秀明 / 製作:塚越隆行、市川南、庵野秀明 / 企画:塚越隆行、庵野秀明 / 准監督:尾上克郎 / 副監督:驫木一騎 / 監督補:摩砂雪 / 撮影:市川修、鈴木啓造 / 照明:吉角荘介 / 美術:林田裕至、佐久嶋依里 / デザイン:前田真宏、山下いくと / 編集:栗原洋平、庵野秀明 / VFXスーパーヴァイザー佐藤敦紀 / ポストプロダクションスーパーヴァイザー:上田倫人 / CGアニメーションスーパーヴァイザー:熊本周平 / 録音:田中博信 / 整音:山田陽 / 音響効果:野口透 / 音楽:宮内國郎、鷺巣詩郎 / 主題歌:米津玄師『M八七』 / 出演:斎藤工、長澤まさみ、西島秀俊、早見あかり、有岡大貴(Hey! Say! JUMP)、田中哲司、嶋田久作、岩松了、堀内正美、山崎一、益岡徹、小林勝也、利重剛、長塚圭史、和田聰宏 / 声の出演:高橋一生、山寺宏一、津田健次郎 / 制作プロダクション:TOHOスタジオ、シネバザール / 配給:東宝
2022年日本作品 / 上映時間:1時間52分
2022年5月13日日本公開
公式サイト : https://shin-ultraman.jp/
TOHOシネマズ上野にて初見(2022/5/14)


[粗筋]
 ある日を境に、日本列島は巨大生物の脅威に晒された。
 最初に現れたのは通称《ゴメス》。自衛隊が死力を尽くして駆除に成功するも、ほどなく新たな巨大生物が出没した。何故か日本のみに現れるそれを、政府は公式に《禍威獣》と名付け、防災庁に専門の部署を設ける。《禍威獣特別対策室》、略して《禍特対》の誕生であった。
 室長・宗像龍彦(田中哲司)以下、班長に田村君男(西島秀俊)、作戦立案担当官の神永新二(斎藤工)、汎用生物学者の船縁由美(早見あかり)、非粒子物理学者の滝晃久(有岡大貴)という5名のスペシャリストで構成された《禍特対》は、未知の脅威を相手に、着実に実績を上げてきた。
 新たに、公安調査庁から派遣された分析官・浅見弘子(長澤まさみ)を迎えた禍特対は、早速通算7体目となる《禍威獣》と対峙することとなった。出没したのは首都圏郊外の山中。作戦行動中に《ネロンガ》という呼称の決定した禍威獣は、光学迷彩で透明化しながら集落を破壊し、変電所で脚を止めた。電力を吸収したネロンガは可視化したが、禍特対の指示で放たれた誘導弾を蓄積した電流で迎撃、ふたたび透明になってしまう。
 闇雲な攻撃は却って被害を拡大させる、と判断した禍特対は、自衛隊と共に情報収集と分析に努める。だが、避難指示の出た地区に小さな子供の存在を確認し、神永が救助に向かった直後、天から巨大な飛翔体が、現場の山中に墜落した。舞いあがる粉塵の中からにわかに立ち上がってきたのは銀色の、人型をした巨大生物。果たしてそれが新たな脅威なのか、禍特対が対処を判断出来ないあいだに、ネロンガは銀色の巨人に電流攻撃をしかける。しかし、銀色の巨人はそれをすべて受け止めると、逆に凄まじい光線を放って、ネロンガを粉砕した。巨人は伸びの態勢で飛行すると、瞬く間に姿を消した。
 これまでの禍威獣とは明らかに異なる性質の“巨大生物”出現の情報に、日本政府はもちろん、《禍威獣》をめぐって駆け引きを繰り返す国際社会も騒然とした。一方、現場で至近距離にて巨人と対峙した禍特対の面々は、巨人が見せた行動に知性を感じ、意思疎通の可能性を見出していた。浅見は報告書の中で銀色の巨人を《ウルトラマン》と仮称、ほどなくそれが公称となった。
 もともと単独行動の多かった神永は、ネロンガの件以降、席を空けることが増えた。バディを組んで行動に当たるよう指示されていた浅見は不審がるが、神永は謝罪しても真意を語ろうとしない。
 そしてまた新たな禍威獣が現れた。地下を掘りながら突き進む第8の禍威獣《ガボラ》は、その痕跡に多量の放射性物質を発していた。かつて対応に苦慮した第6の禍威獣《パゴス》と同じ性質、近しい外観に、禍特対は戦慄する。だがそのとき、ふたたびウルトラマンが現れた。今回は天空ではなく、地上から立ち上がる姿に、禍特対メンバーが訝るなか、ウルトラマンは《ガボラ》と激闘を繰り広げた。
 明らかに、《ガボラ》の放射性物質が及ぼす影響に配慮したその戦いぶりに、禍特対は“彼”が人類の見方であることを確信する。だが、ウルトラマンが行動を以て示した事実は、禍特対、ひいては日本人を、更に複雑な状況に陥れていく――


[感想]
 1960年代あたりから1970年代に生まれた男の子の心には、かなりの率で“特撮”に夢中になった経験があるはずだ。そしてその源泉はほぼほぼ、『ウルトラマン』シリーズによって培われた、と言っていい。歳を取って、特撮に対する熱意などとうの昔に失っていたとしても、そのときめきを完全に失くすことはたぶん、ない。
 本篇は、そういう燠火を留めた大人のハートを、見事なまでに燃え上がらせる快作だ。
 スタンスは、近しいスタッフによって製作された『シン・ゴジラ』を踏襲している。科学知識や政治、危機管理の描写を現代のリアルに寄せて、オリジナルの精神や面白さを再現するかたちだ。
 たとえば、禍威獣が襲撃する現場にいながら、作戦立案に携わる《禍特対》と自衛隊がテントの中でひたすらにコンピューターに向かっている、という描写は昔の特撮やパニックものにはなかったものだ。最初は禍威獣に近い“懸念材料”としてウルトラマンを捉え、その能力や価値が判明するに従って、政治が大いに介入してくるのも『シン・ゴジラ』と同様のスタンスと言える。
 だが、本篇の軸にいるウルトラマンはゴジラと異なり、意思の疎通が可能な知的生命体だ。そして、ウルトラマンがそうなら、外宇宙には同様の存在が他にもある、というのも当然になる。相手が知的生命体ならば、地球に接触するには何らかの思惑がある。安易なイメージに従っていきなり暴力的に蹂躙するのではなく、地上の為政者に笑顔ですり寄って、仕掛けた罠に陥れようとする者もあるだろう。本篇において、その立ち位置で登場する外宇宙人はいずれもオリジナル版に登場し、近い方法論で人類を欺こうとするが、その手段、発想も確実に現代に合わせて調整が施されている。外宇宙人たちの策略自体が興味深いので、オリジナルを知らなくとも見応えはあるが、オリジナルのイメージが残っていると比較する楽しみがいや増すはずだ。
 しばしば解釈や表現に混ぜ込まれるユーモアや、フェティッシュな趣向も面白い。特に、ウルトラマンの出現から3つ目の“脅威”で浅見が受ける災難の描写は見所だ。観客なら誰しも、「あの目線から見たらどうなる?」という疑問に、そのあとの描写で実に現代的なかたちで答を提示している。詳しくは語らないが、これからご覧になる方は“センシティブ”という単語を記憶に留めておいていただきたい。挙句、反撃の段階でもちょっとした辱めを受けるので、このひと幕は浅見を演じた長澤まさみの、ある意味で独壇場である。
 山本耕史の姿を借りて登場し、非常にいい存在感を発揮するメフィラス星人のエピソードを挟んで、人類は最大の危機に瀕する。そこまでも危機とユーモアの起伏豊かな語り口で魅せる本篇だが、やはり真骨頂はこのクライマックスだ。それまでの危機で明らかになった事実、そして人類とウルトラマンとのあいだで形成された共通認識や理解が、見事なドラマへと結実する。意地の悪い見方をすれば、綺麗に結びつきすぎ、という批判も出来うるだろうが、そこは本篇が広告で用いる“空想特撮映画”という惹句を思えば、観客の関心を惹き興奮を煽るかたちで伏線が昇華されるのは必定だ。素直にのめり込めなければ冷めた気分になるのも仕方ないが、ここまでの描写に魅せられた人ならば、すべてが華麗に集約されていくクライマックスに胸が震えるはずである。
 あまりに意図しすぎたノスタルジーや、たとえ辻褄合わせをしたところで拭いきれない設定の強引さに、今では馴染めない、と感じるひとも少なからずいるのは確かだろう。だが、往年の男の子たちの想い出を裏切ることなく、現代の価値観や方法論と絶妙なすり合わせを行って作り上げた本篇は、オリジナルの精神を現代に蘇らせるための、理想解のひとつと断言できる。
 物語の世界観や科学考証に話が偏ってしまったが、本篇は“空想特撮映画”と銘打つだけあって、意識的に往年の特撮テイストを再現しながら、こちらも現代的にレベルアップさせた映像もまた見所だ。子供たちの憧れ《スペシウム光線》を初めて披露するときの絶妙な“タメ”や、禍威獣のドリル越しのカメラアングルなど、ウルトラマンや禍威獣の派手で奇想天外なアクションを過去よりも洗練させた技法で魅せる一方、ミニチュアめいた手触りを留めた背景や、オリジナル版に接した者には馴染み深いカットをあえてそのまま再利用したくだりなど、往年の“特撮”の味わいを意識的に採り入れている。当時を知る者には懐かしいが、昨今の高度に洗練されたCGしか知らないひとにはいっそ新鮮に映る絵作りは、本篇に強い個性をもたらしている。
 オリジナル版に関わった人々の協力も随所に仰いでおり、リスペクトに満ちあふれている。だからこそこんなにも爽快感のある仕上がりになっているのだろう。


関連作品:
シン・ゴジラ
王立宇宙軍 オネアミスの翼
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シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』/『トランスフォーマー/ロストエイジ』/『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』/『パシフィック・リム』/『ゴジラvsコング』/『地球が静止する日』/『プロメテウス

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