『アンデッド』

アンデッド [DVD]

原題:“Undead” / 監督、製作、脚本、編集&視覚効果スーパーヴァイザー:ピーター&マイケル・スピエリッグ / 撮影監督:アンドリュー・ストレイホーン / プロダクション・デザイナー:マシュー・プットランド / 衣装&特殊メイク:チンタマーニ・エイクド / キャスティング:リン・キッド、ベン・パーキンソン / 音楽:クリフ・ブラッドリー / 出演:フェリシティ・メーソン、ムンゴ・マッケイ、ロブ・ジェンキンス、リサ・カニンガム、ダーク・ハンター、エマ・ランドール / 配給&映像ソフト発売元:Art Port

2003年オーストラリア作品 / 上映時間:1時間45分 / 日本語字幕:? / R-15

2004年3月20日日本公開

2004年8月27日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVDにて初見(2010/12/04)



[粗筋]

 オーストラリアの田舎町バークレーに降り注いだ、大量の隕石。それが、想像を絶する災厄の始まりだった。

 もっとも、隕石が降らなくとも、レネ・チャップリン(フェリシティ・メーソン)にとっては最悪の日に違いなかった。両親が亡くなり、彼らが背負っていた膨大な借金までも相続したレネは、とうとう大切な農場を手放さねばならなくなった。借金返済のためにミス・バークレーにまでなったレネだが、今となっては嘲笑の対象でしかない。

 そうして帰る場所を失ったレネは、祖母のもとに身を寄せるための道中、事故車に行く手を塞がれた。隕石の落下により起きた事故かと思われたが、突如現れた、不気味な咆哮を上げる男に襲われて、尋常でない事態が起きていることを悟る。

 レネを送るため車を運転していた男もまた襲われ、理性を失い彼女を襲撃しようとしたが、そこへ忽然と現れた男が、レネを救った。何の説明もなく立ち去っていった彼――バークレーの街で“変人”として知られるマリオン(ムンゴ・マッケイ)を追い、彼の経営する銃器店に逃げこむ。

 だがそこもまた、レネにとっての安息の地とはなり得なかった――まだ、悪夢は始まったばかりだったのだから。

[感想]

デイブレイカー』はヴァンパイアという素材に対する造詣と愛情、そして創意工夫に満ちた、極めて刺激的な傑作だった。あまりに痺れる仕上がりに、日本での公開時に観逃してしまっていた本篇にどうしても触れたくなり、珍しくほとんど間を置かずに鑑賞してしまった。

 恐ろしいことに、創意工夫のアグレッシヴさ、という点においては、『デイブレイカー』さえ本篇に較べれば生易しい。ほとんど情熱の塊のような怪作であった。

 どうやら本篇は、メガフォンを取ったスピエリッグ兄弟が、ゾンビを題材とした短篇映画で注目を集めたのち、製作費を獲得して作った初めての長篇映画、ということらしい。しかし必ずしも資金は潤沢ではなく、『デイブレイカー』のパンフレットによれば、車を売却するなど、私財をなげうって新たな資金を調達し、どうにか完成に漕ぎつけたそうだ。

 そのいっぱいいっぱいの製作背景は、作品の出来自体にも窺える。俳優陣はすべて無名、演技の面で充実している、とはお世辞にも言い難い。特殊メイクや視覚効果も用意できる水準ギリギリなのだろう、ゾンビや不気味な雲のモチーフなど、全般に動きがぎこちない。クラシカルな曲調をシンセサイザーで再現した音楽も含め、全般に安っぽさが滲み出ている。近年のハリウッドによる、技術の粋を凝らしたSF映画、ホラー映画に慣れた眼には、かなり稚拙に映ってしまう。

 だが、本篇はそうした安っぽさをものともしないほど、アイディアと情熱とが漲っている。

 基本的な描写はオーソドックスなゾンビ映画を意識的に踏襲している。長い沈黙を破ってゾンビが出没するくだりや、撃たれても、胴体が半分に引きちぎられてもまだ動き続ける姿の衝撃など、多くはゾンビ映画でお馴染みのシチュエーションであり、本来それだけならあまり新味はない。

 しかし鑑賞していると、ところどころで妙な違和感を覚えるはずだ。感染速度の異様な速さに対し、陸続と出現する奇怪なモチーフ。オーソドックスなゾンビの要素のあちこちに、見慣れない要素が紛れ込んでくる。それらが同種の映画と異なる結末を暗示しているのは察せられるし、実は的を射た描写ばかりなので多少目敏い人なら狙いは掴めるはずだが、ただただ振り回される人も少なくないだろう。

 仮に読み解けたとしても、終盤の幻想的でシュールな映像、そしてラストシーンには驚かされるはずだ。盛り込んだアイディアを極限まで膨らませ、持てる技術力で可能な限り再現された映像は、ゾンビ映画の定石から大幅に逸脱しているものの、だがそのルールを敷衍すれば想像しうる出来事なのだ。やはり映像の完成度という意味ではもうひとつなのだが、ここまで発展させてしまったことに恐れ入る。

 そして出色なのがラストシーンだ。直前までならば想像はつく、だがこの結末は予測しづらい――だがそれと同時に、非常に明白な伏線が用意されている。最後の台詞の意味が解らない、という人はもういちど、最初から観直してみるといい。悪趣味なユーモアではあるが、製作者ははじめからこの結末を想定して話を組み立てていたことが解るはずだ。

 モチーフや描写は低予算、B級の魂に満ちあふれているが、しかしその屋台骨は計算の行き届いた、堅牢な作りになっている。ゾンビ映画に対する愛と造詣を色濃く感じさせながらも、完成した作品の全体像は決して従来のゾンビ映画の枠組に収まらない、意欲的な仕上がりとなっているのだ。

 まだ長篇はこの2作品しか撮っていないスピエリッグ兄弟だが、しかし間違いなく注目に値する才能だろう。新作『デイブレイカー』は本篇にあった創意工夫を踏襲しながら、映像的にも演出的にも大幅に洗練され完成度を高めていた。もしこのジャンル映画に対する敬意や愛情が損なわれないのなら、恐らく今後も彼らはマニアの心をくすぐる作品を、スローペースでも発表しつづけてくれるだろう。それどころかいずれ、ごく穏当な嗜好しか持ち合わせない一般的な観客をも慄然とさせるような、大傑作を完成させてしまうのでは、という予感すら覚えている。

 ――というのはさすがに大袈裟にしても、端倪すべからざる才能であることは確かだろう。彼らの次なる“挑発”を、心して待ちたい。

関連作品:

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ゾンビ [米国劇場公開版]

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コメント

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