『燃えよドラゴン』

楽天地シネマズ錦糸町、シネマ4前に掲示された作品案内ポスター。 燃えよドラゴン [Blu-ray]

原題:“Enter the Dragon/龍争虎闘” / 監督:ロバート・クルーズ / 脚本:マイケル・オーリン / 製作:フレッド・ワイントローブ、ポール・ヘラー、レイモンド・チョウ、ブルース・リー / 撮影監督:ギルバート・ハッブス / 編集:カート・ハーシュラー、ジョージ・ワッターズ,A.C.E. / 衣装:ルイス・シェン / 武術指導:ブルース・リー、ラム・チェンイン / 音楽:ラロ・シフリン / 出演:ブルース・リージョン・サクソンジム・ケリー、アーナ・カプリ、アンジェラ・マオイン、シー・キエン、ロバート・ウォール、ベティ・チュン、ヤン・スエ、ジェフリー・ウィークス、ピーター・アーチャー、ロイ・チャオサモ・ハン・キンポージャッキー・チェン / ワーナー・ブラザース/コンコルド・プロダクションズ製作 / 配給:Warner Bros.

1973年香港、アメリカ合作 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:高瀬鎮夫

1973年12月22日日本公開

2010年12月7日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

第1回新・午前十時の映画祭(2013/04/06〜2014/03/21開催)上映作品

Blu-ray Discにて初見(2011/02/06)



[粗筋]

 少林寺で修行を積んでいるリー(ブルース・リー)は、イギリスの秘密情報局から、湖東で独裁国家めいた共同体を築きつつあるハン(シー・キエン)という男の内偵を依頼される。
最初は拒絶したリーであったが、数年前、彼の妹が死んだ原因がハンの手下に襲われたことにあることを知らされると、意を翻した。

 ハンの島では3年に1度、武術トーナメントが催され、世界各地から武術の達人が招かれてその技術を競い合っている。リーはその招待客に加わり、内偵を行うことにした。先行して潜入するメイ・リン(ベティ・チュン)は未だに明確な物証がなく手をつかねているが、リーは夜間の外出禁止をハンに命じられているなか、敢えて深部への潜入を試みる。

 しかし物証は発見できず、夜間に何者かが外出したことを知ったハンは、招待客の目の前で警備係に制裁を行った。招待客もハンの部下でさえも慄然とするなか、ハンは別の招待客ウィリアム(ジム・ケリー)を書斎へと招く。ハンは警備係が出歩く姿を目撃していたウィリアムが、深部へと潜入した張本人だと睨んでいたのだ。疑いを持たれたことに憤ったウィリアムは、島を出る、と宣言するが……

[感想]

 多くの映画俳優、映画ファンが敬意を払う、カンフー・アクションの基礎を築きあげた伝説の男ブルース・リーの、言わずと知れた代表作である。ジェット・リーの映画や、クエンティン・タランティーノウォシャウスキー兄弟といったフォロワーの作品を好みながら、1度もちゃんと観ていなかった――はずはないと思うのだが、恐らくは昔過ぎてまともに記憶が残っていないのだろう。出来れば劇場でのリヴァイヴァル上映といった機会に、と考えていたが、なかなかそういう企画にも遭遇しないので、レンタルにてようやく鑑賞した。

 率直に言えば、あまりに称揚されすぎていて、期待を膨らませすぎたように思う。文句のつけようがない傑作、とは感じられなかった。

 如何にもステレオタイプアジア文化の表現、カンフー以外の武術に関する描写がどこか珍妙である、というのは今でもさほど状況は変わっていないので寛大に眺めるのは難しくない。問題は、ストーリーも演出もぎこちなく、まとまりに欠いていることだ。

 そもそもきっかけからして今ひとつ解らない。何故リーに依頼が行われるのか、そして依頼主は具体的に何を求めているのか。一時期の『007』シリーズのような、派手で大雑把な謀略を扱うような娯楽大作でさえ、カタルシスをきちんと齎すために、こうした動機付けは明瞭にしていたものだが、本篇はそこがどうにも曖昧になっている。

 かと思えば、あとから取って付けたように主人公リーと悪漢たちとの因縁が突然描かれたりする。そうすること自体が悪いとは言わないが、どうして妹の死の真相をそれまで知らずにいたのか、という奇妙さもあるし、そうして描かれた因縁を、結局活かし切れていないのが特に疑問だ。主人公でさえこの雑さなので、他のトーナメント参加者に至っては、更に扱いがいい加減だ。ちりばめられた背景やドラマが、あとあとの展開と結びつかず、ほとんど無為に使い捨てられている。

 それ故に、本篇の魅力の大半はアクション・シーンにある、と考えざるを得ない。最近のような、ワイヤーやCGによる多彩な工夫で非現実的、超人的な動きを演出したアクションは皆無だが、だからこそ圧倒的なパワーを感じさせる擬斗のインパクトが凄まじいのだ。

 アクション映画を主な活躍の場とする俳優は近年も多く生まれているが、これほど美しいアクション俳優はあまり思い浮かばない。動きのキレ、攻撃の重量感もさることながら、ただ型を披露しているだけの場面でさえ、その筋肉の躍動感に惚れ惚れとしてしまうほどだ。わざとらしいほど上半身裸になっての格闘シーンが多いが、それはブルース・リーという俳優が自分の魅力を十分に弁えていたが故だろう。

 ブルース・リーの代名詞である怪鳥音に、“考えるな、感じろ”という有名な台詞、大乱闘を背景に繰り広げられるボスとの決戦、そしてクライマックス、鏡の部屋での死闘など、鮮烈な印象を残す場面が無数にちりばめられて、多くは未だに映画のみならず様々なフィクションの中で引用され、パロディが生み出されている。ストーリーの骨格の弱さ、構成の悪さを乗り越えるほどに、モチーフの備える荒々しくも強烈な魅力が迸る作品である――それだけに、もしブルース・リーがもっと長生きをして、優れた監督や脚本に出逢っていれば、という惜しさも大いに感じるのだが。

関連作品:

少林寺

プロジェクトA

ハイリスク

少林サッカー

カンフーハッスル

キル・ビル Vol.1

キル・ビル Vol.2

シノーラ

グリーン・ホーネット(字幕版)

コメント

  1. […] [感想]  本篇はもともとブルース・リーの監督第2作として準備が始まったという。 […]

  2. […]  そう来るかい、とぶったまげましたが、どうも必然的だったらしい。何故なら原題は『肥龍過江 Enter the Fat Dragon』、これはサモ・ハン・キンポーの出世作『燃えよデブゴン』と同じタイトルですから、そもそもがこの作品のリメイク的位置づけ、しかも舞台が東京になっていたようなので、ほかに選択肢はない、とも言える。 […]

  3. […] 『猿の惑星』/『燃えよドラゴン』/『タクシードライバー』/『エイリアン』/『シャイニング […]

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