原題:“It’s a Wonderful Life” / 監督&製作:フランク・キャプラ / 原作:フィリップ・ヴァン・ドレン・スターン / 脚本:フランセス・グッドリッチ、アルバート・ハケット、フランク・キャプラ / 撮影監督:ジョセフ・ウォーカー、ジョセフ・バイロック / 美術:ジャック・オーケイ / 編集:ウィリアム・ホーンベック / 音楽:ディミトリ・ティオムキン / 出演:ジェームズ・スチュワート、ドナ・リード、ライオネル・バリモア、ヘンリー・トラヴァース、トーマス・ミッチェル、ポーラ・ボンディ、フランク・フェイレン、ウォード・ボンド、グロリア・グレアム / 配給:日本RKOラジオ映画
1946年アメリカ作品 / 上映時間:2時間10分 / 日本語字幕:桜井裕子
1954年2月17日日本公開
2011年2月15日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|淀川長治解説映像付DVD Video:amazon]
第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/03/02)
[粗筋]
クリスマス・イヴの晩、翼を持たない2級天使・クラレンス(ヘンリー・トラヴァース)は、ある小さな街で湧き起こった祈りによって、ひとりの男を救うべく地上に降り立つ。
その男の名はジョージ・ベイリー(ジェームズ・スチュワート)。ベッドフォード・フォールズという街で、労働者が住宅を購入するための費用などを貸し付けるベイリー貸付組合を運営するピーター・ベイリー(サミュエル・S・ハインズ)の、長男として生まれた。
いずれ外の世界で活躍するつもりだったジョージは、住民達の手助けのために息子たちの進学費用を稼ぐこともままならない父を慮り、小さい頃からアルバイトを重ねて学費を貯めていた。そして高校卒業を迎え、いよいよ羽ばたくつもりだったその日に、父が急死してしまったことで、彼の運命は暗転する。
どうにか貸付組合を維持するために尽力し、当初3ヶ月だけ留まるはずが、その実力を見込まれたジョージは、父の後継者に祭りあげられてしまった。自分が進学するために蓄えた金で、弟のハリー(トッド・カーンズ)を代わりに大学に進ませ、いずれ貸付組合を彼に任せるつもりで数年間踏ん張るが、戻ってきたハリーは、新しい妻と、遠い土地での職を得ていた。
不幸中の幸いと言うべきは、かつてから淡い想いを寄せ合っていたメアリー(ドナ・リード)と結ばれ、所帯を持ったことだが、そのこともまた彼を、本来飛び出していくつもりであった郷里に縛りつけてしまう。だが、それでも懸命に組合のため、街のため、家族のために尽くしてきた彼の人生は、そのクリスマス・イヴに最悪の事態を迎えるのだった……
[感想]
ひどく脳天気なタイトルのようだが、しかし物語自体は全体に鬱屈が満ちている。もともと生まれ育った街に狭苦しさを感じ、外の世界へと羽ばたくことを願っていた青年が、やむを得ない成り行きによって街に縛りつけられていく。弟や親友は次々と新たな活躍の場を獲得しているというのに、自分は父の仕事を継がされ、僅かな貯蓄もままならない。
本篇のストーリーがある程度の軽快さと、相反するかのような切なさが滲んでいるのは、ひとえに主人公ジョージの人柄によるものだ。聡明で大望を胸に宿しながら、自らを頼る人々を見捨てることが出来ず、生まれ故郷に縛りつけられる。ときおり癇癪を起こしはするが、如何にもアメリカ人らしいユーモアと陽気さでそれを補おうとする姿には、篤実、という言葉が非常によく似合う。地道で丹念な序盤のドラマに牽引力があるのは、演出の腕もあるが、役柄とこれを演じた俳優ジェームズ・スチュワートの力によるところも大きいだろう。
だがこの作品のユニークで出色なところは、そうして積み上げたドラマが一気に昇華されるクライマックスにこそある。本筋と風合いの異なるプロローグ、途中まで文字通り“神の視点”で物語を綴ってきた“天使”という存在がその流れを予感させ、保証しているとはいえ、当時としては相当にユニークな展開だったはずだ。
それがさほど違和感を抱かせないのは、無論ちゃんと“天使”という要素を予め提示していることもそうだが、クライマックスの出来事がそれまでのドラマと完璧と言っていいほど見事に呼応しているからだ。それまでの努力を無にするような災難に直面し、人生に絶望したジョージを救うべく、クラレンスという天使はかなりの奇手を用いるのだが、そこで示される“変化”が絶妙なのである。極めて有名な作品ゆえ、天使が何をしたのか、どういう“変化”が示されたのか、知っている人も少なくないだろうが、もし知らないのなら、まっさらなままで鑑賞するのがいいだろう。今となっては決して特異な趣向とは言えないが、その無駄のない嵌りように唸らされるはずだ。
このくだりだけなら非現実的なファンタジーで終わるところを、本篇はそのあとにもうひとつ“奇跡”を用意している。しかし、これは必ずしも“奇跡”ではない。物語がここに辿り着くまでに、ジョージという実直な男が、しばしば失望し、挫けながらも築きあげてきたものが齎した、当然の結果なのだ。だから、感情移入させられた観客も納得し、受け入れることが出来る。きちんと土壌を作り、育んできたからこそのラストシーンだからこそ、本篇は清々しい感動をもたらしているのだ。
率直に言えば、あちこちに古さ故のぎこちなさが目につく。随所で編集の繋ぎ目が雑になっているし、天上から全世界を眺めているはずの天使が“地球時間”という言葉を用いて特定の土地の時間があらゆる土地で用いられているかのような不自然な物言いをしたりと、いくらファンタジーでも目配りが甘い、と感じられる。SF的な考証の正確さを志していたのではなく、あくまで終盤のユニークな展開を保証するために用いているのだから、多少の緩さは仕方ないとも思えるが、やはり現代の基準からすると少々残念だ。
とはいえこの程度はちょっとした瑕疵に過ぎない。感情移入をさせる実直な主人公を筆頭に役割の明確な登場人物たち、照準を絞った巧みな構成と、意外性と必然性の絶妙な調和が齎すラストシーンの快さ、清々しさが損なわれるほどの欠点ではない。
アメリカでは長年、クリスマスに鑑賞する映画の定番となっているらしい。なるほど、確かにこれはクリスマスにとてもよく似合う、幸せな気分を味わえる1本である――この作品を観たあとで、「人生、捨てたものじゃないかも」と感じられないのは、きっとただのひねくれ者だけだと思う。
関連作品:
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コメント
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