原題:“Scott Pilgrim VS. The World” / 原作:ブライアン・リー・オマリー / 監督:エドガー・ライト / 脚本:マイケル・バコール、エドガー・ライト / 製作:マーク・プラット、エリック・ギター、ナイラ・パーク、エドガー・ライト / 製作総指揮:ロナルド・ヴァスコンセロス、J・マイルズ・デイル、ジャレッド・ルボフ、アダム・シーゲル / 第二班監督:ブラッド・アラン / 撮影監督:ビル・ポープ,ASC / プロダクション・デザイナー:マーカス・ローランド / 編集:ジョナサン・エイモス、ポール・マクリス / 衣装:ローラ・ジーン・シャノン / 特殊効果プロデューサー:ルーシー・キリック / コンセプチュアルデザイナー:オスカー・ライト / 視覚効果コーディネーター:レアード・マクマーリー / 音楽:ナイジェル・ゴッドリッチ / 出演:マイケル・セラ、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、キーラン・カルキン、クリス・エヴァンス、アナ・ケンドリック、アリソン・ピル、ブランドン・ラウス、ジェイソン・シュワルツマン、ブリー・プラザ、マーク・ウェバー、メイ・ホイットマン、エレン・ウォン、斉藤慶太、斉藤祥太、サティヤ・バーバー / 配給協力:Astaire×PARCO
2010年アメリカ、イギリス、カナダ合作 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:栗原とみ子 / 字幕監修:町山智浩
2011年4月29日日本公開
公式サイト : http://www.scottpilgrimthemovie.jp/
[粗筋]
スコット・ピルグリム(マイケル・セラ)、カナダのトロント在住、現在無職。なかなか芽の出ないバンド、セックス・ボブオムのベーシストとして活動している。
1年前、彼女に手酷く振られて以来冴えない日々を過ごしていたが、この春久しぶりに彼女が出来た――周囲が顔をしかめたのは、相手が未成年だったからである。だが純朴で、バンド活動をしているスコットの“才能”にメロメロになってしまった彼女、ナイヴス(エレン・ウォン)を、スコットは手放す気などなかった――そのときまでは。
ナイヴスに付き合い、図書館を訪れたスコットは、カウンターに配達に訪れていたピンク色の髪の女性を見つけるなり、視線を釘付けにされてしまった。
彼女の名はラモーナ・フラワーズ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)。つい最近、ニューヨークから引っ越してきた彼女は、amazon.caの配達員として働いているという。そうと知るなりスコットは即刻クリック、ドアの前で彼女を待ち受けた。
スコットのぎこちなく要領を得ない誘いに、だがラモーナはあっさりと受け入れた。有頂天になるスコットだったが、そんな彼のもとに不審なEメールが届く。それは、“ラモーナの邪悪な元カレ軍団”を名乗る男からの果たし状だった。
……問答無用で削除したが、程なく開かれたバンド・バトルの舞台で、スコットは本当に“邪悪な元カレ軍団”の襲撃を受ける羽目になる――
[感想]
日本のサブカルチャーが世界的に支持されるようになって久しい。ファミコンに始まって多くのゲーム機がリリースされて世界中の人々に遊ばれ、漫画も多数翻訳され、各地で愛読されている。
その影響は映画の世界にも広がっている――とは言うものの、映画の世界において漫画やゲームはたいていの場合、単なる素材扱いであり、実写映画化されたとしても、原作のファンからは不満の多い出来になることがしばしばだ。中には『バイオハザード』シリーズのように独自の進化を遂げて人気シリーズに発展するものもあるし、『サイレントヒル』のようにゲーム的な面白さまできちんと押さえて見事に翻訳したものもあるが、それでも――当然のことではあるが――あくまで映画の方法論で表現されている。漫画のように擬音が飛び交ったり、現実のルールをまるっきり無視したストーリー展開を見せるわけではない。
本篇は、決して日本の漫画やゲームを原作としているわけではない。だが、これほど日本のサブカルチャーの影響が色濃く感じられる海外作品もちょっと珍しいだろう。
ファミコン、スーパーファミコンの時代からゲームと親しんできた世代からすると、のっけからニヤリとさせられる。映画では主要な製作会社のロゴが立て続けに表示されるのが冒頭のお約束だが、本篇冒頭のユニバーサル・スタジオのロゴが、往年のゲーム風に作り直されているのである。ドットの粗いCGに、ゲーム機の内部音源を利用したいわゆるピコピコサウンドであの音楽が奏でられた瞬間に、一部の観客は1発で惹きこまれ、もう目を逸らせなくなるはずだ。この映画には、これに類した細かなネタがふんだんに仕込まれている。謎のレベルを明記したテロップに、飛び交う擬音や集中線、等々。
ただ、こういう映像上の趣向に限って言えば、別に本篇が初めて用いたわけではない。コミカルな作品世界を構築しようと意図して、こういう手法を意図的に用いた例は既に幾つかある。本篇の特異なところは、こういう漫画的、ゲーム的な発想がストーリー自体にも根を下ろしていることだ。
スコットは作中、ラモーナの元カレたちに繰り返し襲われるが、その都度対戦ゲームの趣で、スコットとライヴァルとのあいだに“VS”の文字が現れる。どこかのっぺりとした印象の色遣いのなか非現実的な格闘が繰り広げられた挙句、スコットが相手を倒すと――これは観た瞬間の驚きと愉しさとを実感して頂きたいので伏せるが、往年のゲームファンにとっては納得のいく、しかしゲームを知らない人々にとっては意味不明の事態に発展する。
この物語を支配するロジックは、明らかに現実と異なっている。作中でははっきりと説明されないが、そのルールは80年代後半以降、多数発表されたゲームのそれを敷衍しているのだ。エドガー・ライト監督はこれまでの作品で証明した巧みな語り口によって、ゲームに関する知識の乏しい人にもルールが浸透するよう、そしてその仕掛けが為す妙が多くの観客に伝わるよう伏線を設けているが、ピンと来ない人にはいつまで経っても解らないままだろうし、そもそも映画でこういう趣向を用いること自体に否定的な感情を抱く人もあるだろう。その強烈なアクゆえに、本篇を支持できない、という人も少なくないに違いない。
だが、そのルールが飲み込めたなら、毎度ながらに巧みなライト監督のストーリーテリングの才能と、意外なほど真っ当な青春映画の主題を読み取ることが出来るはずだ。
サブカルチャー部分を取り除いて見ても、本篇で扱われている風俗や人間関係は特異だが、しかしその一方で妙に生々しい。無職のバンドマンに、ゲイなのに恋愛感情なしで彼と同居する友人、だいぶ昔に別れたのに未だ同じバンドに加わっている元恋人、主人公の価値をやたら低く評価する女友達……和気藹々としているだけのフラットな関係でなく、あちこちでこじれたり、歪んだりしながらも、普通に交流を続けていたり、ブランクを飛び越えて突如絡んできたり、と実に様々だ。
そんななかで、妙に喧嘩に強く自信ありげだが、明らかに恋愛については真っ当な知識のないスコットが、次第に成長していく姿こそ、実は本篇の本懐なのだ。どんな成長を遂げるのか、は詳述しないが、その方向性も、昨今のサブカルチャーの発展した先に爛熟した価値観を反映していることが興味深く、そして最終的な決着の成り行きも、提示したルールのなかで示されているのが見事だ。
親しんできた文化を映画という表現のなかで膨らまし、その文法を極限まで活かした、青春映画の優れた発展形のひとつが本篇である。青春映画、と呼ばれるものに関心のある人なら、理解できる出来ないは脇に置いてでもいちど鑑賞する価値はあるだろうし、たとえすべてが腑に落ちないとしても、その徹底ぶりには頭を下げたくなるはずだ。
……という鬱陶しい考察を抜きにしても、ふんだんに盛り込まれたサブカルチャーの要素を拾い集め、その来歴や組み込んだ意図について考えたり、妄想を膨らますだけでも本篇は充分に愉しい。とりあえずファミコンやプレイステーションなど、各種ゲームに親しんできた人ならば、かなり確実にハマるだろう。
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コメント
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