原題:“柔道龍虎房 Throw Down” / 監督:ジョニー・トー / 脚本:ヤウ・ナイホイ、イップ・ティンシン、オー・キンイー / 製作:ジョニー・トー、スティーヴン・ラム / 撮影監督:チェン・シュウキョン、トー・フンモ / 音楽:ピーター・カム / 出演:ルイス・クー、アーロン・クォック、チェリー・イン、レオン・カーフェイ、ロー・ホイパン、カルヴァン・チョイ、チョン・シウファイ、ジャック・カオ、ジョーダン・チャン / 製作 / 配給:Step by Step×Dex Entertainment / 映像ソフト発売元:Dex Entertainment
2004年香港作品 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:?
2006年5月13日日本公開
2006年9月22日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]
公式サイト : http://www.judo-ryukobo.com/ ※閉鎖済
DVD Videoにて初見(2011/05/21)
[粗筋]
生バンドの演奏を売りにする酒場の運営を任されているシト・ポウ(ルイス・クー)のもとに、トニー(アーロン・クォック)という男が飄然と現れ、勝負して欲しい、と請うてきた。
柔道家であり、強い相手を求めるトニーは、かつて名声を誇ったポウの腕前を試しに来たのだが、ポウの振る舞いに柔道家の面影はなかった。仕事の前に酒をしこたま呑んで泥酔したかと思うと、翌る朝はトニーと、店に働き口を求めてやってきた歌手志望のシウモン(チェリー・イン)とに手伝わせ、金貸しのマン(チョン・シウファイ)の鞄を掠め取る。トニーは呆れながらも、店のバンドマンを脱臼させたこともあり、店に出入りを続けた。
だが、そんなポウとトニー、そしてシウモンを、同時に複数の人々が訪ねてきた。シウモンのマネージャーに、ポウの“師匠”チェン・ヤッサム(ロー・ホイパン)とその息子チン(カルヴァン・チョイ)、更に例の金貸しマン。紛糾の挙句、乱闘が巻き起こり、店内をさんざん荒らし回ったあと、一同は店の外で入り乱れての戦い続ける。
この騒動を収めたのは、レイ・アコン(レオン・カーフェイ)という男だった。鮮やかな関節技で、ほとんどの面々を戦闘不能にして去ったレイに対し、トニーは腕を脱臼しながらも闘志を燃やす。
一方のポウも、相変わらず置き引きや賭け事で強引に稼ぐことを繰り返しながら、心の動揺が抑えられずにいた……
[感想]
予備知識なしで鑑賞すると、のっけから驚かされるはずだ。何せ、草むらで柔道の練習をする男の背後で、長髪髭面の男が、『姿三四郎』のテーマを日本語で朗々と歌っているのだから。香港映画、ということだけ知っていると、尚更に意表をつかれる光景である。
このシークエンスからも薄々察せられるとおり、本篇は黒澤明監督の『姿三四郎』にインスパイアされた作品である――が、そのことを知りながら鑑賞していても、次第に戸惑いを覚えるだろう。
彼らの行動の意味がいまひとつ解らないのだ。何故シト・ポウはあんな無茶な方法で金を稼ごうとするのか、トニーは何故勝負の相手をあれほど切望しているのか、シウモンの立ち位置はどこにあるのか。『姿三四郎』は強くなりたいという想い、強さの意味、といった主題が明白であり、仮に知識は持たなくとも、冒頭でのひと幕や強さを渇望するトニーの存在が正統派スポーツドラマの匂いを滲ませるだけに、それを無視するかのような話運びに、違和感を覚える。ただ、きちんと読み解いていけば、その理由は登場人物の行動から少しずつ明白になる。
本篇のユニークな点は、スポーツを題材にしながら、試合や勝負の場面を描くよりも、そこに対する想いを迂遠に描くことで成立させていることだ。ストーリーの中心では直接に関わりのない行動を描きながら、たとえば乱闘のシーンになると、どういうわけか柔道技だけが際限なく繰り出される。冷酷に見えたり、淡々と傍観しているだけに見えた人が、あとで意外な柔道への情熱を示し、中心人物の振る舞いに拘わってくる。そうして、周縁から少しずつ描き出される柔道への情熱が、終盤における中心人物のひたむきな行動にいっそうの熱をもたらしているのだ。
ただ、あまりに迂遠な描き方をしているために、このくだりまで達しても、どうして彼らがこんな行動をしているのか、理解できない可能性が高いのが本篇の欠点だろう。描写されている状況を読み解き、それと行動とをリンクさせていけば、自然と辿り着く結論があるのだが、そこを見過ごしていると支離滅裂に映ってしまう。狙いすましているのは間違いないが、少々凝りすぎているのがまずいのだろう。
もし、意味が理解できないまでも、何かに共鳴し、胸が熱くなるような感覚に見舞われたなら、是非とももういちど鑑賞することをお薦めしたい。そうすると、些細な描写がきちんと意味を備えていたことに気づき、その出来事に触れた人々の心情が伝わるはずだ。そして、初見のときよりも深い感動を覚えるはずである。
触発され、敬意を表していても、決して安易なリメイクにはしない。如何にもジョニー・トー監督らしい、一筋縄ではいかない異色の青春ドラマである。
関連作品:
『姿三四郎』
『スリ』
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