『魔女見習いをさがして』

TOHOシネマズ上野、スクリーン6入口脇に掲示された『魔女見習いをさがして』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン6入口脇に掲示された『魔女見習いをさがして』チラシ。

英題:“Looking for Magical Doremi” / 原作:東堂いづみ / 監督:佐藤順一、鎌谷悠 / 脚本:栗山緑(山田隆司) / 企画&プロデューサー:関弘美 / キャラクターデザイン&総作画監督:馬越嘉彦 / 作画監督:中村章子、佐藤雅将、馬場光子、石野聡 / 撮影監督:白鳥友和 / 美術監督:田尻健一 / 色彩設計:辻田邦夫 / MAHO堂デザイン:行信三、ゆきゆきえ / 編集:西山茂 / 録音:川崎公敬 / 音楽:奥慶一 / 声の出演:森川葵、松井玲奈、百田夏菜子(ももいろクローバーZ)、三浦翔平、石田彰、浜野謙太、千葉千恵巳、秋谷智子、松岡由貴、宍戸留美、宮原永海、石毛佐和、厚切りジェイソン、Kダブサンシャイン / 配給:東映
2020年日本作品 / 上映時間:1時間31分
2020年11月13日日本公開
公式サイト : https://www.lookingfor-magical-doremi.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2020/11/14)


[粗筋]
 長瀬ソラ(森川葵)は自分の進路に迷いを覚えていた。大学四年生になって教育実習を経験したが、発達障害の生徒が気にかかって、他の生徒にまで目が行き届かないことを指摘されてしまう。親に促されるまま教職を志したけれど、果たして自分に向いているのか、自信を失っていた。
 吉月ミレ(松井玲奈)は大手商社で、アフリカの発展途上国との取引で実績を重ねてきたが、売上の低迷を指摘され、プロジェクトから外されてしまう。フェアトレードにより、取引先との信頼関係の構築と長い目での利益を重視してきたミレにとって、上司の判断は受け入れがたい。努力を無にされた苛立ちに、ミレは爆発寸前だった。
 川谷レイカ(百田夏菜子)はとことん人間関係に恵まれていない。両親は離婚し、育ててくれた母は闘病の末に他界、どうにかフリーターとして自活しているが、付き合っている久保誠也(浜野謙太)は歌手になる夢を掲げてろくに働かず、たびたびレイカに金をせびりに来る。絵画修復師を志し、いつかイタリアに留学することを夢見ているのに、このダメ彼氏のせいで一向に貯金は貯まらない。
 世代も生活圏も異なる3人を引き合わせたのは、『おジャ魔女どれみ』だった。鎌倉にある古い洋館が作中のMAHO堂のモデルでは、と話題になり、小さい頃このアニメを楽しんでいた3人は、それぞれの行き詰まりを解消したい一心でやって来た。
 意気投合した3人は連絡先を交換し合った。みんな揃って、子供のころ手に入れたおもちゃの“魔法玉”を大事に持っているくらい『どれみ』に思い入れのある3人は、申し合わせて、劇場版の舞台となった飛騨・高山へ聖地巡礼の旅に赴く。
 何でも叶えられる魔法を夢見ていた女の子たちは、時を経て、自分たちの行き詰まった人生を乗り越えるための“魔法”を探していた――


[感想]
 本篇は、1999年から4年間にわたって日曜朝にテレビ放映され、当時の就学前児童の多くに絶大に支持されたアニメシリーズ『おジャ魔女どれみ』の、20周年を記念して製作された長篇アニメである。
 放映当時、とっくの昔に対象年齢を遠く通り越していたため、もとのシリーズに接することがなかった私が本篇をあえて鑑賞したのは、『どれみ』そのものの続篇ではなく、幼い頃に『どれみ』を観た女性達を主人公に、『どれみ』という作品の追体験を通してドラマを描く、というコンセプトに興味を抱いたからだ。
 フィクションのドラマを構築するために、そのなかで登場するアニメやテレビ番組などのフィクションを用意する、という手法はあるが、本体をお披露目する性質のものではないため、劇中で語られるほど魅力がなかったり、中身を感じられない場合も少なくない。ほとんどが不要になることを承知の上で緻密に劇中作を構想していなければ説得力は生みにくく、しばしば用いられるわりにはリスクも伴う趣向である。
 しかしその点、本篇が特異なのは、劇中作となる『どれみ』が揺るぎなく実在し、20年を経てもなお、本篇をはじめ新たな企画が発表されるなど、本当に人気を博している。幼い頃に鑑賞して、いまなお愛着を抱く層も現実にいるからこそ、本篇のようなアイディアが充分すぎるほどの説得力で成立する。
 またこの趣向は、『どれみ』を鑑賞していなかった層にも訴求しうる。『どれみ』の名前くらいは知っているけれど接する機会のなかった(まさに私と同じような)層だけでなく、ただ一風変わった構想に基づくアニメーションとして、予備知識なく鑑賞しても問題のない内容にまとめることが可能で、事実、本篇は『どれみ』についてほぼ知識ゼロで鑑賞しても楽しめるはずである。

 この作品の主人公たちは、劇中で自嘲するとおり、人生に行き詰まりを感じていた、魔法など持たないふつうの女性たちだ。いずれも『どれみ』という作品にハマった過去はあるが、年齢も異なれば、作品に接した経緯も微妙に異なっている。本放送再放送だけでなく、映像メディアや配信など、情報発信の多様性も巧みに取り込んで、主人公たちの設定に現代の女性像を緻密に押さえている。
 そんな彼女たちが繰り広げるドラマも、身の丈に合ったもので、大袈裟なところがない。親に促されるまま教職を志したものの、教育実習で出会った発達障害の子供とうまく接することが出来ず、自分の適性に疑問を抱いてしまうソラ。大手商社で発展途上国とのフェアトレードを推進していたものの、利益優先の冗長に仕事も地位も奪われてしまうミレ。家族を失っても気丈に自活し、絵画修復師になる夢を持っているが、ダメンズの彼氏が足枷となっているレイカ。ある程度、大人として暮らしてきた者ならいずれもどこかで聞いたような悩みで、親近感が持てる。
 そして、そんな彼女たちのドラマを、『どれみ』という作品の存在が動かしていく。憂さ晴らしに訪ねた話題の土地で巡り逢うと、『どれみ』を通じて友達になり、連絡を取りあうようになる。それぞれの事情で人付き合いにも問題を抱えている3人が、手探りで友情を育んでいくさまが微笑ましい。彼女たちと似たような理由で人間関係の構築に難を抱えるひとも少なくないはずで、極めて共感しやすくもある。
 見事なのは、そんな彼女たちの物語に接しているうちに、『どれみ』という作品のテーマや魅力が、実物に接していなくても見えてくることだ。魔法というものの力を信じながら、けれど魔法に頼ることのない解決を目指そうとする姿勢。必ずしも万事上手く運ぶわけではないが、何かを成し遂げようと行動したことは彼女たちを着実に前に進ませ、一連の出来事のなかで育まれた彼女たちの繋がりを強めていく。
 なにせ、散々語った通り、ベースとなる『どれみ』をいっさい観ていないため断定はしたくないが、『どれみ』という作品が本当の意味で子供たちに健全な生き方を教えようとしていた作品だった、というのが本篇から察しがつくし、少なくとも本篇にも携わる『どれみ』スタッフが、その成果に自負があることは窺える。そして、それでも決して思うように自分の“魔法”を見つけられないかつての子供たちに手を差し伸べ、もういちど“魔法”の世界へと導こうとしたのが本篇なのだろう。
 その気になれば、主人公たち3人のパートはすべて実写でも表現は可能だった。だがそこを、丁寧なロケハンを実施し、すべてアニメーションのなかに落とし込んだのも、かつての視聴者であるもと子供たちを、切れ目なく『どれみ』の世界へ繋いでいくためだった、と考えられる。終始堅実に、真摯に展開していった物語の最後に用意される、ご褒美のようなクライマックスは、アニメーションであればこそ成立するものだ。
 主人公たち同様、行き詰まりを覚えているひとにとって、幸せな福音となり得る秀作である。そして、こういうかたちで結実することの出来る『おジャ魔女どれみ』というシリーズが、どれほど幸せな作品であるか、も解る。本来のターゲットである年齢層の当時に鑑賞したひとが羨ましく思えるほどだ――きっと、本当に心地好い映画体験が味わえるはずだから。


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