『カンニング・モンキー/天中拳』

カンニング・モンキー/天中拳 デジタル・リマスター版 [DVD]

原題:“一招半式闖江湖” / 英題:“Half a Loaf of Kung-Fu!” / 監督:チェン・チー・ホワ / 脚本:湯明智 / 製作:許麗華 / 製作総指揮:ロー・ウェイ / 撮影監督:チェン・チンチェー / 武術指導:ジャッキー・チェン / 出演:ジャッキー・チェン、ジェームズ・ティエン、カム・コン、ロン・ジェンエル、ディーン・セキ / 配給:東映 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1978年香港作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:? / PG12

1983年8月6日日本公開

2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

大成龍祭2011上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/05/22)



[粗筋]

 ゴン・トゥー(ジャッキー・チェン)はカンフーに憧れる、何の取り柄もない青年である。技を盗みたい一心で、武術道場の雑務の仕事にありつこうとするが、口から出任せを見抜かれて追い返されてしまった。

 もうひとつの道場ではどうやら雇ってもらえたものの、女主人ミャオの秘密を覗き見てしまい、ついでに弟子を殺害した疑いまでかけられ、ほうほうの体で逃げ出す羽目に陥る。

 逃げこんだ山中で、ゴンは達人同士の死闘の現場を目撃する。どうやら鞭使いの達人が、女性達を苦しめていた悪党を追いつめたらしいが、双方相討ちとなってしまった。悪党には500両の懸賞金がかかっている、と知ったゴンは、ちゃっかりと悪党退治の功績を横取りしてしまう。

 大金を手にしたうえ、英雄扱いされてすっかり有頂天となったゴンだが、栄華は長続きしなかった。ミャオたちに追いつめられ、絶体絶命の窮地に陥った彼を救ったのは、物乞いのいでたちをしながらもカンフーを極めたマオであった。

 マオの華麗な腕前に感動したゴンは土下座して弟子入りを請う。いちどは拒んだマオだったが、ゴンの熱意に、条件付きで弟子入りを認める。それは、ある人物への使いを務めることだった……

[感想]

蛇鶴八拳』に続いて、彼を発掘したロー・ウェイ監督直接の指揮下から離れ、他のスタッフと共に撮った作品である。が、出資も配給もロー・ウェイ監督の製作会社が行っており、完成した作品を観た彼が激昂、いちどお蔵入りにしてしまった、という曰く付きの作品でもある。日の目を見たのは、ジャッキー・チェンがコメディ路線で成功したあとのことだったそうだ。

 今回、私が追いかけている大成龍祭2011という企画では、ジャッキー出演作を製作された順番に上映している。そのために、公開された順番で鑑賞するのとは違う、ジャッキーの懊悩や葛藤、試行錯誤などが垣間見えるのが興味深い。とりわけ本篇は、『蛇鶴八拳』でようやく辿り着いた、“アクションにコメディの要素を融合させる”という、のちに定着する彼のスタイルを、試験的に作品全体に広げようとしているのが窺え、その映画作りに対する意欲、熱心さには頭の下がる思いがする。

 しかし、率直にいえば、本篇は本当にまだ実験段階という印象で、コメディ映画として完成されているか、と問われれば首を傾げるほかない。

『蛇鶴八拳』のオープニングをそのままパロディにしたようなタイトルバックに、『ポパイ』やカンフー映画のお約束をもじったコミカルな仕草が多数盛り込まれた描き方には、間違いなく『蛇鶴八拳』よりも意識的にコメディ映画を作ろうとした姿勢が窺える。だが、間の取り方が悪ければ、笑いを取るための雰囲気作りも不充分で、全般に上滑りしている。変、とは思うが、面白いとはあまり感じられないのだ。

 それでも積み重ねていけば次第に作品世界に引っ張り込まれることで上滑り感は薄れ、多少は笑いを取れるようになるものだが、本篇はなまじ“狙っている”感が強いために、観ている側はどうしても距離をおいてしまい、作品世界に入り込みにくい。結局、コメディであることに強くこだわり過ぎたがために、本篇は“笑えない”作品になってしまった、というのが率直な印象だった。

 だが、全篇にわたり施された創意工夫は認められて然るべきだろう。とりわけ、これまでのジャッキー作品で披露されたものとは一線を画すアクションの趣向が秀逸だ。

 これまでは、大勢が入り乱れての戦いでも、一対一であることを基本とし、倒したあとで別の相手が現れる、というのが普通だったが、本篇のクライマックスは文字通りの乱戦で、仲間内でも頻繁に相手が入れ替わる。

 特にユニークなのは、メインであるジャッキーが、独力ではほとんど戦っていないことだ。ひとりの相手と戦っている仲間に加わって、実力者に対しふたりがかりで挑むかと思えば、最後の敵と戦う際には、散らばった奥義書を拾っては読み、その場で実践する、という確かに“カンニング”といえば言えなくもない方法で臨んでいる。

 クライマックス周辺ではこういう具合に、パロディよりも創意工夫で“愉しい”アクションを築こうとしているのが窺える。それまでは、個性が際立っていてもいささか誇張が過ぎて笑いに繋がらなかったキャラクターの表情や行動も、このクライマックスでは勢いに任せてかなり奏功しているのだ。この頃の香港産アクション映画はクライマックスの格闘を長々と引っ張りすぎて、どれほど動きに切れ味はあっても平板な印象をもたらしだれてしまう、という共通の欠点があるのだが、本篇も尺は長いものの、笑いを取る、という形で組み込まれた工夫がアクセントとなって、ほとんど退屈はさせない。

 何より、本篇は演じているジャッキーが終始愉しそうなのが、観ていて快い。シリアスに傾斜しがちで、俳優やスタッフの要望をあまり汲み取っていない印象の強いロー・ウェイ監督作ではどこかしら窮屈そうな雰囲気を醸すジャッキーだが、本篇の彼は最初から最後まで精気に満ちあふれている。

 出来映えはいまひとつ、と言わざるを得ないものの、ジャッキーがのちに自家薬籠中のものとするコメディ路線に本格的に着手した作品として、本篇の価値は決して小さくないと思う――まあ、あくまで系統立てて鑑賞しているから言えることで、単品としていきなりお薦めするには問題が多すぎる作品であるのは間違いないのだけれど。

 ちなみに、本篇の出来映えに激昂したロー・ウェイ監督は「俺が本物のコメディ映画を作ってやる!」といった具合に息巻き、制作したのが『拳精』だったという。ここの感想を継続してご覧のかたはお解りの通り、私はロー・ウェイ監督作品をあまり買っていないが、本篇を封印させてまで作った彼のコメディ映画には興味がある。

 生憎、大成龍祭2011において、都内の劇場で『拳精』がかかる日は、所用によって鑑賞できなかったのだが――この作品に関しては、レンタルで鑑賞してみようか、という気になっている。少々間は空くかも知れないが、私の感想が気になる、という奇特な方はしばしお待ちいただきたい。

関連作品:

少林寺木人拳

成龍拳

蛇鶴八拳

チャップリンの独裁者

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