『００７／危機一発（ロシアより愛をこめて）』

原題：“From Russia with Love”　／　原作：イアン・フレミング　／　監督：テレンス・ヤング　／　脚本：リチャード・メイボーム、ジョアンナ・ハーウッド　／　製作：ハリー・サルツマン、アルバート・Ｒ・ブロッコリ　／　撮影監督：テッド・ムーア　／　美術：シド・カイン　／　衣裳：ジョスリン・リッカーズ　／　編集：ピーター・ハート　／　音楽：ジョン・バリー　／　テーマ曲：ライオネル・バート、モンティ・ノーマン　／　主題歌：マット・モンロー　／　出演：ショーン・コネリー、ダニエラ・ビアンキ、ロバート・ショウ、ペドロ・アルメンダリス、ロッテ・レーニャ、マルティーヌ・ベズウィック、ヴラデク・シェイバル、ウォルター・ゴテル、バーナード・リー、デスモンド・リュウェリン、ロイス・マクスウェル、ユーニス・ゲイソン　／　配給：日本ユナイテッド・アーティスツ　／　映像ソフト発売元：20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン

1963年アメリカ作品　／　上映時間：1時間55分　／　日本語字幕：保田道子

1964年4月25日日本公開

2011年4月22日映像ソフト日本最新盤発売　[DVD Video：amazon｜Blu-ray Disc：amazon]

第２回午前十時の映画祭（2011/02/05〜2012/01/20開催）《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/06/03)

[粗筋]

　ドクター・ノオを巡る戦いで辛酸を舐めた秘密組織スペンサーは、イギリスの諜報員ジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)を抹殺すべく、罠を仕掛けることにした。

　参謀であるチェスの天才が立案したのは、ソビエトに存在する暗号解読機“レクター”を餌におびき寄せる策であった。そのために、ソビエト連邦の諜報部から転向したクレブ(ロッテ・レーニャ)を利用し、ソ連情報部のタチアナ・ロマノワ(ダニエラ・ビアンキ)を色仕掛けの餌として手配する。

　やがてイギリス情報部に、トルコ支局長のケリム・ベイ(ペドロ・アルメンダリス)のもとから連絡が届く。ボンドの写真を見て一目惚れしたというタチアナが、亡命を手助けしてくれたら、引き替えに“レクター”を盗む手引をする、と提案してきたという。あからさまな罠だったが、首尾よく解読機を奪うことが出来れば幸い、とイギリス情報部はこの提案を受け入れる。

　かくてボンドはトルコ・イスタンブールへと飛んだ。ソ連情報部との駆け引きがくれ莉広げられる一方、ボンドの背後に、スペクターが送りこんだ刺客グラント(ロバート・ショウ)の影が忍び寄る……

[感想]

　代替わりを繰り返し、2011年現在、６代目となるダニエル・クレイグ主演の第３作（通算23作目）の撮影も行われている人気シリーズの、なかでも特に評価の高い第２作である。

　個人的にはダニエル・クレイグ主演によるシリアス、重量級のアクションに愛着があるために、どうも本篇は人物像の厚みという部分からも、アクションの重みという部分からも物足りない。今の目からするとあまりにステレオタイプで目的意識の不明瞭な悪役に、深い思慮もなく簡単に踊らされている感の強い登場人物たち、アクションも派手さに欠ける。

　ただ、のちにこのシリーズが極めていく娯楽性の基本的な部分が、ここで確立されたことは間違いないように思う。各国が絡む謀略戦に、洒脱な振る舞いをする主人公。国家的陰謀を背景にしているからこその行動半径の広さが可能にした、各地のエキゾチックな映像の数々。映画だからこそ体験できる、現実離れしたムードをとことん味わわせてくれる。

　いまの目からすると決して派手ではないが、しかしアイディアに満ちたアクションも興味深い。ボート同士の追跡劇の鮮やかなクライマックスや、ヘリコプターと人間との駆け引きは、いま撮れば更に迫力を演出は出来るだろうが、充分なインパクトを備えている。

　ただ、私がこの作品で何よりも唸らされたのはタイトルバックだった。のちのシリーズでも凝りに凝ったタイトルバックの映像はこのシリーズの売りのひとつとなっているが、私が観た範囲では本篇が最も優れている。踊る女性の肌に映る、スタッフ＆キャストの名前が、肉体の曲線によって歪み、動きに合わせ揺れる。扇情的だが美しい映像で、この部分だけでも一見の価値がある、と断言したいほどだ。

　昨今のスパイ・アクション映画に見慣れているとどうしても生温く物足りなく映ってしまうが、現在に至るフォーマットを、決して仰々しくなく、洒脱に描ききり完成させた点は評価出来る。特に、未だに最高と賞賛されるショーン・コネリーによるジェームズ・ボンドは、近年のシリーズしか知らないのなら観ておいて損はない。後世のボンドはどう足掻いても彼の影響下にあるのが解るから。