原題:“Singin’ in the Rain” / 監督:ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン / 脚本:アドルフ・グリーン、ベティ・コムデン / 製作:アーサー・フリード / 撮影監督:ハロルド・ロッソン / 美術監督:ランドル・デュエル、セドリック・ギボンズ / 編集:エイドリアン・フェイゼン / 衣裳:ウォルター・プランケット / 作詞:アーサー・フリード / 作曲:ナシオ・ハーブ・ブラウン / 音楽:レニー・ヘイトン / 出演:ジーン・ケリー、デビー・レイノルズ、ドナルド・オコナー、シド・チャリシー、ジーン・ヘイゲン、ミラード・ミッチェル、ダグラス・フォーリー、リタ・モレノ / 配給:MGM / 映像ソフト発売元:Warner Home Video
1952年アメリカ作品 / 上映時間:1時間42分 / 日本語字幕:金丸美南子
1953年4月1日日本公開
2011年7月20日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
第1回午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品
第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series1 赤の50本》上映作品
午前十時の映画祭9(2017/04/01〜2018/03/23開催)上映作品
TOHOシネマズみゆき座にて初見(2011/08/16)
TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞(2018/07/24)
[粗筋]
時は1927年。大道芸人からハリウッド・スターに登りつめたドン・ロックウッド(ジーン・ケリー)と、長年にわたって大女優の座に君臨するリナ・ラモント(ジーン・ヘイゲン)の最新作が大盛況で公開された。
宣伝部の策略で、ドンとリナは恋仲ということにされていたが、リナはともかくドンにその気は毛頭なく、恋人然と振る舞うリナに辟易している。プレミア試写会のあと、なおもすり寄ってくるリナをどうにか振り切り、ドサ回り時代からの相棒であるコズモ・ブラウン(ドナルド・オコナー)とともにパーティ会場へと赴く途中で、ドンはファンにもみくちゃにされてしまう。
なんとか脱出し、飛び乗った車を運転していたのは、駆け出しの舞台女優キャシー・セルデン(デビー・レイノルズ)。無声映画の振りだけの芝居を快く思っていない彼女に批判され、ドンは機嫌を損ねるが、だが彼女の言葉にも一理あるように思え、落ちこむのと同時に、キャシーの存在が彼の記憶にまざまざと刻まれてしまった。
そんな矢先、ハリウッドに大きな転機が訪れる。ワーナーが発表した、史上初のトーキー『ジャズ・シンガー』が劇場公開され、大方の予想に反し、大ヒットを成し遂げたのである。サイレントこそ史上、トーキーなど際物だ、と取り合わなかった映画人たちも認識を変えざるを得ず、ドンとリナの主演最新作『闘う騎士』も急遽トーキー作品に変更された。
だがここで大きな問題が浮上する。もともとコズモと共に歌とダンスを披露していたドンはともかく、リナは容姿と声が合わず、また声を発しての芝居が巧いとはとうてい言い難い。マイクの扱いにも慣れず、スタッフは騙し騙し撮影を行うが、それでいい映画が撮れるはずもなく……
[感想]
たとえふだん映画を観なくても、この主題歌と、街灯に腕をかけて降りしきる雨を愉しげに浴びるジーン・ケリーの姿を観たことがある、という人は多いはずだ。それくらいあのシーンは浸透している。
が、特定の場面やモチーフがやたらと有名になってしまった作品の例に漏れず、本篇がどういう話なのか知らない、という人も同様に多いのではないかと思う。かくいう私自身、あまり予備知識を仕入れずに観に行ったので、本篇がハリウッドの内幕ものだったことに驚いた。
本篇に限らず、ミュージカル映画の分野で名作と呼ばれているものは、ハリウッドやショウビズ界の内幕ものになる傾向があるようだ。そのほうが、ミュージカル場面をさほど違和感なく本筋に組み込める、という理由もあるのだろうが、『ウエスト・サイド物語』や『サウンド・オブ・ミュージック』といった、ショウビズとは直接関わりのない世界を舞台にした作品の方が稀少なのかも知れない。
ミュージカル映画の特徴として、見せ場をダンスや歌に特化させるために、ストーリーを単純化させる傾向にあり、本篇もいわゆる内幕ものとして眺めるとだいぶ筋書きはあっさりしているが、しかし意外なほどにドラマとしても芳醇だ。ちょうどサイレントからトーキーに移行する時代で、業界の戸惑い、混乱が整理整頓されながら、巧妙に描かれている。
中心となるドン、コズモ、キャシーがそれぞれ、トーキーで必要な才能を身につけていたことも巧妙だが、声や喋り方に難のあるリナを一緒に配していたのが効いている。リナの大物然として、あまりに思慮に乏しい言動がコメディ要素にストレートに繋がっていることもそうだが、彼女の“欠点”をどのようにフォローするか、という過程がそのまま、当時の映画業界で繰り広げられた苦労を偲ばせる。大きく扱いに難儀したマイクの隠し方など、今では考えられないシチュエーションだが、その描き方が解りやすく非常に愉しい。
そうした内幕ものとしての物語のなかで考えると、実のところ歌や踊りはいくつか浮いているところが見受けられるが、それをほとんど意識させない完成度の高さ、力強さは圧巻だ。やはり逸品なのは、映画のタイトルとセットになって定着している感のある、ジーン・ケリーが雨の街角で表題曲を歌い踊る場面なのだが、ジーン・ケリー演じるドンに向かって相棒のコズモがエンタテイナーの心意気を全力で説く“Make’em Laugh”のくだり、失敗作になりつつある映画を活かすアイディアを思いついたドンたち3人が喜びを歌いあげる“Good Morning”のあたりなど、計算され尽くした動きがもたらす昂揚感が素晴らしい。
それでいて、ちゃんと伏線や人物描写に添った、痛快な結末が用意してあるのも見事だ。こじつけだったり御都合主義めいた雰囲気も感じさせず、なるほどこういう話運びで着地するなら確かに納得がいく、という場所をきちんと捉えている。加えてこの結末、メインである3人の表情が輝いているのは当然だが、別のある人物まで嬉しそうな表情をしているのが印象的だ。その気持ちがとてもよく解る。
ミュージカルというと、大袈裟だったりあまりに不自然であったり、無理矢理歌い踊らせている、というイメージを持っている人が、今では多いのかも知れない。確かに、無理矢理ミュージカル仕立てにした結果、物語がお粗末になっている作品も、最盛期には多数存在しただろう――まだまだ古い映画を勉強中の私でさえ、作品名は挙げないが既にそういう作品に遭遇している。だが本篇は、ミュージカルとして名作であるばかりか、映画業界の内幕を扱ったコメディとしてもドラマとしても筋の通った、単純にして極めて完成された映画なのだ。このあたりの、未だにその名の語り継がれる作品に接するたびに感じることだが、名場面を知っているというだけで、或いはミュージカルは苦手だから、ということで観ずに済ませてしまうのは非常に勿体ない。
関連作品:
『恋愛準決勝戦』
『シャレード』
『バンド・ワゴン』
『サンセット大通り』
『シカゴ』
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コメント
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