『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー(3D・字幕)』

『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー(3D・字幕)』

原題:“Captain America : The First Avenger” / 監督:ジョー・ジョンストン / 脚本:クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー / 製作:ケヴィン・フェイグ / 製作総指揮:ルイス・デスポジート、アラン・ファイン、スタン・リー、デヴィッド・メイゼル / 共同製作:スティーヴン・ブルサード、ヴィクトリア・アロンソ / 撮影監督:シェリー・ジョンソン,ASC / プロダクション・デザイナー:リック・ハインリクス / 編集:ジェフリー・フォード,A.C.E.、ロバート・ダルヴァ,A.C.E. / 衣装:アンナ・B・シェパード / 音楽:アラン・シルヴェストリ / 音楽監修:デイヴ・ジョーダン / 出演:クリス・エヴァンストミー・リー・ジョーンズヒューゴ・ウィーヴィングヘイリー・アトウェルセバスチャン・スタンドミニク・クーパートビー・ジョーンズスタンリー・トゥッチ、ニール・マクドノー、デレク・ルーク、ケネス・チョイ、リチャード・リーアーミテージ、JJ・フィールド、ブルーノ・リッチ、サミュエル・L・ジャクソン / マーヴェル・スタジオ製作 / 配給:Paramount Japan

2011年アメリカ作品 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:川又勝利

2011年10月14日日本公開

公式サイト : http://www.captain-america.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2011/10/29)



[粗筋]

 1940年代初頭、第二次世界大戦のさなかのアメリカ。

 スティーヴ・ロジャース(クリス・エヴァンス)は、ひとつの信念をもって軍の入隊試験に繰り返し挑んでいた。だが、生まれつき貧弱な体格と病歴ゆえに、毎回不合格の判を捺されてしまう。幼い頃からの友人バッキー・バーンズ(セバスチャン・スタン)は早々と入隊を決め、大人しく待っているようにロジャースを諭すが、彼は諦めなかった。

 執念が運命を導いたのか、ロジャースは遂に入隊を認められた。衝動的に挑んだ入隊試験で彼を審査したアースキン博士(スタンリー・トゥッチ)が、ロジャースの信念の強さに着目し、彼をある実験に参加させようと考えたのである。

 アースキン博士がかねてから開発していた、人間のあらゆる能力を増幅する血清を投与され、ロジャースはそれまでの貧弱な肉体から一転、強靱で人間離れした身体能力を身に付けた。その血清は本来、世界に平和を齎すため、ナチス・ドイツと、ヒトラーの側近であり、神秘主義的な力で戦争を有利に運んでいるシュミット(ヒューゴ・ウィーヴィング)と彼の率いる宗教組織ヒドラに対抗しうる兵士を多く作りだすため研究されていたものだったが、しかし実験成功の直後、潜りこんでいたヒドラのスパイによってアースキン博士は殺害され、研究は暗礁に乗り上げてしまう。

 取り残された格好のロジャースは、スパイを追った際の超人的な活躍が新聞で報じられたことを、研究の資金を調達していた議員によって利用され、“キャプテン・アメリカ”なるヒーローに祭りあげられた。各都市のステージに立ち、後方支援のための戦時国債購入を勧める、広告塔に使われたのである。

 決して不要ではない仕事だと理解していたロジャースは、ピエロの役回りを甘んじて受け入れていた。しかし、ある出来事をきっかけに、彼は本物の“英雄”として立ち上がることとなる……

[感想]

 ヒーローは数多あっても、ある意味これほど数奇で、そして約束づけられたヒーロー、というものも他には存在しないかも知れない。

 世界最初のヒーロー、という惹句は必ずしも大袈裟ではなく、原作は他のどのヒーローと比較しても古く、第二次世界大戦に国民を鼓舞するため、コミックのなかで登場したのが最初だったという。のちにマーヴェル・コミックで復活を遂げ、近年も新作が執筆されるほど息の長い人気を誇っている。

 だが、マーヴェルに限らず、既に多くのコミック・ヒーローが実写映画化されている現状では、いささか時期を逃した印象が否めない。作家個人が執筆するケースよりも、出版社が権利を持って、多くの漫画家たちが書き継いでいくアメコミのなかで活躍するヒーローたちは、前世代と差別化するために、どんどん多彩に変化し、重厚なドラマを構築していった。それが近年、ハリウッドで重宝されるようになった所以でもあるが、そうした流れの根っこに位置するこのシリーズを、単純に映像化して優れたものになるかは、特に原作を知らず、こういう知識だけで眺めてしまうと疑問に思える。

 無論、原作をそのまま引き写すのではなく、敬意をもって脚色する、という伝統も築きあげていったアメコミ・ヒーローの製作者たちが、何の工夫も凝らさず安易に撮るわけがない。まして、マーヴェル・コミックは『スパイダーマン』や『ハルク』のヒットを受けて独自にスタジオを設立し、本篇にも製作会社としてその名を掲げている。実に巧妙に、現代の観客の要求に見合うだけのクオリティを実現してきた。

 鍵となっているのは、副題にも見える“アベンジャー”という単語だ。マーヴェルがスタジオを設立した背景には、同社のスーパー・ヒーローたちが共演するオールスター作品『アベンジャーズ』の存在が特に大きかったらしい。マーヴェルはこの作品の映画化を実現するため、それまでは異なる製作会社が請け負っていた自社作品の映像化に直接携わって、2008年の『インクレディブル・ハルク』以降の作品には、『アベンジャーズ』に至る伏線を、主にエンドロール後の特典映像的な扱いで挿入していた。2012年にその大作の公開を控え、ヒーローたちの“原点”であり、彼らを束ねる位置づけにあるキャプテン・アメリカが登場する土台が完全に仕上がったわけである。

 だが、そうした必然性があったからとは言い条、本篇は他の作品を知らずにいきなり鑑賞したときによく解らない要素が多い。たとえば、悪役であるシュミット=レッド・スカルが固執していたキューブや、彼の宗教観の背後に見え隠れする世界は『マイティ・ソー』のアスガルドと絡んでいる。キャプテン・アメリカを誕生させる血清は『インクレディブル・ハルク』のそれに連携しているのは察しがつくし、何よりも兵器開発者として一連の出来事に深く関わるハワード・スタークは、『アイアンマン』のトニー・スタークの父親なのである。その辺の伏線であると同時にサービスである、という趣向の数々は、解らなくても物語に入り込むのに支障のない程度に留められているが、それでもやや歪さを感じさせずにはいられない。特に『マイティ・ソー』の世界観は、このヒーロー・サーガの全体像を歪めるくらいの大きさと危険性を秘めているのだが、本篇でもどうにもしっくり来ないのだ――個人の価値観に因るところも大きいので、決して重大な問題点とは言い難いのだが、他の作品がほとんど科学技術や、偶然に得られた特殊能力に基づいているだけに、はじめから人間ですらない、というキャラクター、世界観はちょっと噛み合わない気がしてならない。

 しかし、そうした歪さ、求められる要素の多さにも拘わらず、破綻なくまとめ、単独でもアクション映画としてドラマとして成立するように整理した手腕は認めていい。

『アイアンマン』では主人公の設定ゆえに背景に“戦争”が横たわっているが、本篇のように構図の全体像を支配するほどにまで扱っている点もヒーローものとしての特色だが、第二次世界大戦のなかで活躍したスーパーヒーロー、というのは非常にユニークだ。そのお陰で、歴史ドラマ的な側面を備えることにもなっているし、また戦争という特異な社会状況だからこその誕生の経緯も面白い。戦時国債の宣伝のために利用され、そこでキャプテン・アメリカという名称と、あのコスチュームの原型が出来た、というのは、『父親たちの星条旗』で描かれた硫黄島の兵士たちのその後を描いたエピソードと比較しても非常に説得力がある。

 作品単独として観た場合、伏線らしく思える趣向がかなりあっさりと処理されていたり、マーヴェル・コミックを連結する作品として観ても、構造が解り易すぎてラストに意外性がない、という欠点もあって、決して傑作とは呼びがたい。ただ、多くの条件、制約を背負ったなかで、それを極限までポジティヴに活かし、単品でもある程度は愉しめる、そしてシリーズを続けて鑑賞すればより興味の膨らむ内容に仕立てた、職人芸は素晴らしいものがある。

 他にも、後方支援に徹する人物を嬉々として演じるトミー・リー・ジョーンズや、特殊メイクをしても消せない存在感を発揮するヒューゴ・ウィーヴィングなど、傑出した俳優たちの演技も見応えがあり、単品でも見所には欠かないが、くどく述べたとおり、2012年には多数のヒーローが集結する『アベンジャーズ』が控えている。これまでマーヴェル・コミックの作品を愉しみ、来年の総決算も楽しみにしているという人なら、間違っても観逃してはならない1本である。

関連作品:

インクレディブル・ハルク

アイアンマン

アイアンマン2

マイティ・ソー

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コメント

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