『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〔前編〕 始まりの物語』

TOHOシネマズ渋谷、スクリーン6入口脇のポスター。

原作:Magica Quartet / 総監督:新房昭之 / 監督:宮本幸裕 / 脚本:虚淵玄ニトロプラス) / 劇場版構成:新房昭之、東富耶子 / 構成協力&編集:松原理恵 / キャラクター原案:蒼樹うめ / キャラクターデザイン:岸田隆宏 / キャラクターデザイン&総作画監督谷口淳一郎 / 総作画監督:山村洋貴 / 異空間設計:劇団イヌカレー / 副監督:寺尾洋之 / 演出:宮本幸裕、八瀬裕樹 / 音楽:梶浦由記 / 声の出演:悠木碧斎藤千和喜多村英梨水橋かおり野中藍加藤英美里新谷良子後藤邑子岩永哲哉岩男潤子吉田聖子 / 配給:Aniplex

2012年日本作品 / 上映時間:2時間10分

2012年10月6日日本公開

公式サイト : http://www.madoka-magica.com/

TOHOシネマズ渋谷にて初見(2012/10/10)



[粗筋]

 見滝原中学校に通う少女・鹿目まどか(悠木碧)のクラスに、ひとりの少女が転校してきた。彼女、暁美ほむら(斎藤千和)はその美貌で同級生たちを圧倒するが、当人は奇妙に超然としている。そして、何故かまどかの名前を知っていて、ふたりきりになったとき、不可解な警告をまどかに発したのだった。

 放課後、まどかはほむらと、異様な状況で再会する。親友の美樹さやか(喜多村英梨)とともに街に赴いたとき、どこからともなく聞こえてきた助けを求める声に導かれ、路地裏に入ったまどかは、傷ついた白い生き物を発見する。キュゥべえ(加藤英美里)と名乗るそれを、追って現れた者こそ、ほむらだった。

 それに関わるべきではない、と警告するほむらから、さやかとともに逃げ出したまどかは、気づけば異様な空間に迷い込んでいた。襲いかかる奇怪な代物からふたりとキュゥべえは、不思議な力を駆使する少女によって救われる。その少女、巴マミ(水橋かおり)、そしてほむらもまた、魔法少女であるという。

 辛うじて危機を脱したまどかたちに、謎の生き物・キュゥべえは提案する。何でもひとつ、願い事を叶える代わりに、自分と契約して“魔法少女”になって欲しい、というのだ――

[感想]

 基本的に、流行り物にあとから乗っかりたくない性分である。故に、はじめからチェックしていた場合は別として、評判となったテレビアニメの類は、放映中に観る機会を得られない、作ることができなかったら、以降は縁がなかったものとして無視を決め込んでしまう。あとから追いかけると、全体像を把握するのに一苦労だから、という理由もあるが、単なる天邪鬼と理解していただいても間違いではない。

 故に、地上波での放映時、ちゃんと継続して鑑賞することが出来なかった時点で、本篇とは縁がないものだと思っていた。なのにあえて本篇を観に行ったのは、テレビシリーズを受けた新作ではなく、テレビシリーズを再編集、ブラッシュアップのうえで劇場版とした作品だと知ったからである。以前に劇場版の話を聞いたときは“新作”のみ、と捉えていたためにあまり気に留めていなかったのだが、この手法ならむしろ、テレビシリーズに触れていないほうが新鮮な目で観られるのでは、と考え、公開間際になって鑑賞することに決めたわけだ。

 結論から言えば、これは却って幸運だったかも知れない。前後編の2部作、という体で再編集された本篇は、むしろテレビシリーズを知らずに接したほうが、素直に愉しめる仕上がりとなっていた。

 既に評判となっていた作品だけに、劇場にまでわざわざ足を運んで観るような人は、テレビシリーズ自体観ていなくても多少は予備知識を持っているはずで、その意味での驚きは少ないが、しかし肝要な部分はすべて網羅しているので、物語として鑑賞することが出来る。むしろ、話題となったショッキングな要素が、きちんと構成を考慮して提示されていることが解り、1週間に30分ずつ、と細切れになってしまうテレビシリーズで鑑賞するより、本篇の意図を汲み取りやすいように思う。前後編と2部構成になったとは言い条、前編が10月6日、後編が13日と、1週間で連続して公開されることも、作品の評価に絡めるつもりはないが好感が持てる。

 ただ、翻って、題名だけで安易に“子供向けの単純明快な作品”と捉えて鑑賞してしまったら、かなりの衝撃を受ける――魔法少女モノのお約束を逆手に取ったショッキングな趣向の数々、それが浮き彫りにする安易な使命感や、行動を起こすときに考えるべき責任についてなどのテーマに思い至るような観客であればともかく、本当に純朴すぎる子供や、大人でもどちらかといえば深く物事を考えないようなひとにとっては、受け付けられない代物であることは間違いないだろう。

 拒絶反応を起こさせるのは、決して安易に作られたものではなく、ある程度覚悟を固めて、テーマを掘り下げていることの証左でもある。断片的な情報で、どういうテーマがあるのかはだいたい承知していたが、いざ実際に物語として相対してみると、本篇はモチーフがきっちり練られていることが窺え、高い評価を受けるのも宜なるかな、と感じた。

 しかし気になるのは、台詞の格好良さや、設定を話して聞かせるだけに構築された場面が多いことだ。或いは“総集編”的な作りの弊害なのかも知れないが、もう少し自然に語らせたほうが、本篇の主題はより濃密になったように思われる。

 他方で、映画作品にしては、せっかくの大きなスクリーンを活かした構図に乏しいのが惜しまれる。パンフレットを参照すると、まどかの私服姿を追加したことを筆頭に、テレビ版からブラッシュアップが施されているようだが、どうもそれが動画の多さや作画の繊細さに割かれてしまったようで、大画面で鑑賞すること自体にはさほど留意していなかったように見えるのだ――もっとも、これは実写作品でもしばしば疎かにされる点であるし、好みの問題に過ぎないので、クオリティを否定する材料にはならない。

 何にせよ、テレビシリーズを鑑賞したひとにとっては、恐らく本篇は復習にしかならないと思われ、よほど作品を愛しているか、物語全体の伏線や劇場版としてブラッシュアップされた箇所の確認をする、という見方をしないと楽しめない可能性がある。だが、作品の方向性だけを知っていて、テレビシリーズに関心を抱きながら、何らかの理由で接しなかった、接することの出来なかったひとこそ、本篇を観るべきだろう。

 なお、劇場オリジナル作品はこの前後編のあとに公開されるとのことである。具体的な時期はまだ発表されていないが、もしテレビシリーズ未見だけど気になる、という方は、新作公開までに何らかの形でこの劇場版を鑑賞することをお薦めしたい――わざわざ映画館や劇場版で観ることを選択するようなひとなら恐らく、細切れになったと感じるテレビシリーズより、大きく2作品にまとめられた劇場版のほうがきっと敷居が低いので。

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