原作&監督:細田守 / 脚本:奥寺佐渡子、細田守 / キャラクターデザイン:貞本義行 / 作画監督:山下高明 / 美術:大野広司 / 色彩設計:三笠修 / CGディレクター:堀部亮 / 美術設定:上條安里 / 衣裳:伊賀大介 / 編集:西山茂 / 録音:小原吉男 / 音響効果:今野康之 / 音楽:高木正勝 / 声の出演:宮崎あおい、大沢たかお、黒木華、西井幸人、大野百花、加部亜門、平岡拓真、林原めぐみ、中村正、大木民夫、片岡富枝、小林隆、井上肇、染谷将太、桝太一、谷村美月、麻生久美子、菅原文太 / 企画&制作:スタジオ地図 / 配給:東宝
2012年日本作品 / 上映時間:1時間57分
2012年7月21日日本公開
公式サイト : http://www.ookamikodomo.jp/
TOHOシネマズ有楽座にて初見(2012/09/05)
[粗筋]
花(宮崎あおい)は大学生のとき、彼(大沢たかお)と出逢った。授業に集中していない学生が多いなか、一心不乱にノートを取っている姿が気になったからだったが、彼は在校生ではない。そんな彼に、花は教科書を見せ、図書室に入る手引をするようになる。
やがて花は彼に想いを寄せるようになるが、そんなとき、彼は彼女に本当の姿を見せた。彼は、日本に残る最後の狼男だったのだ。
それでも、花の想いは変わることなく、ふたりは結ばれ、間もなく花は子供を授かる。最初に産まれた女の子は雪、ついで翌年に産まれた男の子は雨。
しかし、悲劇は突然に訪れる。買い物に出かけたはずの彼がなかなか戻らず、心配になって探しに出た花が目にしたのは、狼の姿で川に浮いた彼の姿だった。悲嘆に暮れる花だったが、いつまでも泣いているわけにはいかなかった。彼のぶんもしっかりと、子供たちを育てなければいけない。
彼の貯金を切り崩しながら、花の懸命な子育ての日々が始まった。如何せん、人間の子供ではないため、問題が起きても誰にも相談出来ない。花は寝食を削って、雪と雨のために尽くしていた。
だが、アパートのひとり暮らしで子供ふたり、それも人狼の子供を育てながら、周囲の目を惹かずにいるのは難しい。子供の夜泣きがうるさいために行政の人間が訪ねてきて、大家からは「内緒で犬を飼っている」と勘繰られる。花は、なるべく人と関わらずに生活が出来るよう――そして、ふたりが人間として生きる道、おおかみとして生きる道、どちらも選べるように、田舎で暮らすことを決意する。
花たち一家が移り住んだのは、周囲から隔絶された、まるで廃墟のような一軒家だった。案内した役所の人間は、本当に何もないことを危惧するが、隣の家まででさえかなりの距離があり、人間よりも動物が幅を利かせているようなこの場所は、彼女たちにとって理想に近かったのだ……
[感想]
細田守監督が注目されたのは、ジュヴナイルの名作を巧みに現代に移植した『時をかける少女』だった。この作品が高く評価されたことで続く『サマーウォーズ』が早くも完全オリジナル作品として製作された。続く本篇もまた、同じスタッフが結集して作ったオリジナルであるが、監督の作風、基調とする主題が如実となった感のある作品である。
前作が大家族を軸に世界の危機と戦う話なら、本篇は核家族、というよりシングルマザーと世界との戦いだ、と至極乱暴に総括出来るが、しかしどちらも、日本の古い価値観への憧憬が濃厚に窺える。『サマーウォーズ』では一族の絆、というものに焦点が当てられるが、この作品ではそれが共同体の有益さにシフトしているに過ぎない。
だから、眉を顰めるひともいる、そうした関係性の負の部分には、今度も目が向けられていない。コミュニティから“異物”と認定された者の息苦しさ、システム的にそういうひとを生み出さなければガス抜きがしづらい、という欠陥については、まったく触れていない。
だが、2作続けてその点を無視している、というのは、スタッフがひたすらに無自覚であるのでなければ、敢えて避けている、と捉えるべきだろう。必要なのは美点を見せることであって、欠点をことさらに印象づけることではない、と考えているのかも知れない――そうした意図が本当にあるのか、実際のところは製作者に直接確かめてみなければ解らないが、いずれにせよ、ここで引っかかるようなら、細田監督の作品は今後も受け付けられない可能性が強いことを本篇は示唆しているように思う。
そうして、ある一面を犠牲にし、“狼男”というファンタジーを用いて本篇が描き出すのは、親であるということ、子供であるということ、というごく身近なテーマだ。
子供が狼男である、という大きな障害があるが、しかしヒロイン・花の境遇というのは、扱いづらい子供を抱えたシングルマザーのカリカチュアに過ぎない。子供のために僻地へと移住する、という発想も、子供の個性に配慮した親ならごく自然の選択と言える。だからこそ、彼女の行動、悩みには共感しやすく、優れた牽引力となっている。
そして、子供たちが成長するに従って、それぞれの道を自ら選択する、というのも、題材としては普遍的だ。そこに人間ではない領域が絡んでくるから、空想的な色彩を帯びるが、しかし描かれる感情に、観る者は共鳴させられてしまう。
細田監督はそこに加え、印象的な場面作りに長けている。一面を雪が覆った山の中で戯れる、狼となった子供たちと人間の母親の姿や、終盤で雨が挑む告白、そして別れの場面など、アニメーションだからこそ表現出来る情感、美意識に彩られている。ストーリーやその主題以上に、こうした場面を描く、ということが狙いだったのではないか、と訝りたくなるほど、バッチリと決まっている。
構成が巧く、見せ方が優れているために看過されてしまうが、ファンタジー的な設定とは裏腹な生活感に、やもすると対立するリアリティの無視が引っかかってしまうと、相容れないかも知れない――それは『時をかける少女』のパラドックスや、『サマーウォーズ』におけるルールの不明瞭さに通ずる、今のところ細田作品の明確な欠点だろう。だが、そういう疵があるからこそ、却って表現の巧みさ、印象的な場面を際立たせ、一気に存在感を示すことになったのかも知れない。本篇はそういう細田監督の美点も欠点も浮き彫りにしている、と考えると、先行する2作以上に監督の手癖がはっきりと確かめられる作品と言えよう。
私自身は多少の飛躍があっても、根本のテーマがしっかりしていれば受け入れるのに抵抗がないほうだが、それでも本篇はやや没入しづらかった、と感じる。しかしそれでも、本篇の語り口の巧さ、重要な場面の美しさには脱帽した。好き嫌いは別として、現代の日本アニメーションを代表する作り手であることを証明する良品だと思う。
関連作品:
『時をかける少女』
『サマーウォーズ』
『カラフル』
『ウルフマン』
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