『[アパートメント:143]』

[アパートメント:143](Blu-ray)

原題:“Emergo” / 監督:カルレス・トレンス / 脚本:ロドリゴ・コルテス / 製作:ロドリゴ・コルテス、エイドリアン・グエラ / 撮影監督:オスカル・ドゥラン / プロダクション・デザイナー:マリア・デ・ラ・カマラ、ガブリエル・パレ / 編集:ホセ・ティト、ロドリゴ・コルテス / キャスティング:ニコール・ダニエルズ、コートニー・ブライト / サウンド・デザイナー:ジェームズ・ムニョス / 音楽:ヴィクトル・レイェス / 出演:カイ・レノックス、ジーア・マンテーニャ、マイケル・オキーフ、フィオナ・グラスコット、リック・ゴンザレス、フランセスク・ガリード、ダミアン・ロマン / ノストロモ・ピクチャーズ製作 / 配給:東京テアトル / 映像ソフト発売元:松竹

2011年スペイン作品 / 上映時間:1時間20分 / 日本語字幕:?

2012年11月3日日本公開

2013年4月6日映像ソフト日本盤発売 [Blu-ray Discamazon]

公式サイト : http://gacchi.jp/movies/143/

Blu-ray Discにて初見(2013/04/08)



[粗筋]

 アラン・ホワイト(カイ・レノックス)の一家は、アランの妻の死後、繰り返される“超常現象”に悩まされていた。突然にチャイムが鳴り、電話が鳴るが人の気配はない。時として物が人の手も触れていないのに動き出す。もともとは一軒家で暮らしていたが、度重なる現象に苦しんで引っ越したというのに、アパートの一室に移転してのちも繰り返される悪夢にとうとう音を上げ、アランは専門家の助けを求める。

 やって来たのは、ヘルザー博士(マイケル・オキーフ)と助手のエレン(フィオナ・グラスコット)、そして技師のポール・オルテガ(リック・ゴンザレス)たち3人のスタッフである。ヘルザー博士は様々な計器を用いて各地の超常現象を調査、研究していた。ホワイト家に到着すると、博士たちはさっそく各部屋に監視カメラをはじめとする機材を設置していく。

 幼い長男のベニー(ダミアン・ロマン)は見知らぬ道具を持ち寄る大人達を無邪気に受け入れるが、多感な年頃の長女ケイトリン(ジーア・マンテーニャ)はそうは行かなかった。カメラの設置は嫌々ながら受け入れるが、父親が接触するのを著しく嫌悪している。どうやら、母の死の原因を父が作った、と考えているらしかった。

 こうして観察が始まると、スタッフの眼前で早くも奇妙な現象が続発する。それは、専門家の予測をも超える速度で、凶暴化の一途を辿っていった……

[感想]

 実際の撮影順がどのようになっていたのかは解らないが、製作年の表記を参考にすると、製作・脚本を担当したロドリゴ・コルテスは、本篇の翌年に『レッド・ライト』を撮っているが、あちらでも超常現象の起きた家で調査を行う科学者、という人物や描写を取り込んでいる。或いは本篇には、そのシミュレーションのような意図があったのかも知れない。

 昨今はすっかり浸透して飽きられている感のあるP.O.V.形式によるホラーであるが、本篇などその定番の要素ばかりを詰めこんでいるようで、あまり想像力を感じない、という意見もありそうだ。だが本篇は、現象こそかなりスピーディに発生するが、しかし状況設定やディテールは、きちんと練り込んでいることが窺え、この方法論が可能とするリアリティの表現をかなり活かしている、と感じる。

 顕著なのは怪奇現象に見舞われる家族の設定と、科学者たちの立ち位置だ。金持ちでもなければ、特にオカルト絡みの背景があるわけでもない一家の、怪奇現象に対する態度に無理がない。奇妙なことが起きているからと言って、その点にばかり大袈裟にかまけているわけではなく、他の悩みや問題があることがきっちり織りこまれている。他方、科学者の側は、基本的に予断を口にしない――助手やエンジニアはともかく、中心となって分析を担当するヘルザー博士は、過程ではあまり断定的なことを口にしない。安易に現象を否定することもなければ、先端技術でもって環境をクリーンにする策を試みる一方で、いわゆる霊能力者をあえて招く、という策も用いてみる。すべてが厳密に解釈できるわけではないから、多くの角度からアプローチを模索する――この姿勢は本当に誠実な科学者のものだ。頭ごなしに現象自体を否定する正義の味方もどきとも、あまりに独自の表現に頼りすぎる“専門家”とも一線を画す現実的なものだ。

 現象自体は序盤から飛ばしており、どんどん派手になっていくため、あまり大きなリアクションを取らないことでバランスを保っている面もある。並行して描かれる、ホワイト一家の問題も怪奇現象の展開と無縁ではないため、余計にこの匙加減の巧さが効いているようだ。

 要素のひとつひとつは有り体ながら、しかし本篇の描く決着は、映画では珍しい類のものになっている――とはいえ、多少オカルトに通じているひとであれば、これが現実にも唱えられている、超常現象の原因のひとつであることは知っている。そういうところまで含め、本篇はオカルト、ホラーに精通し、あまり追求されなかった種類のリアリティを確立しよう、という意欲が窺える。

 ただ、そういう誠実さや練り込みはある一方で、それが結果として牽引力に繋がっていないのも事実だ。それを承知で怪奇現象自体を派手にしている嫌いはあるが、そのせいで作品の丁寧さを観客に認識させづらくしている。加えて、結末のあとに添えられた趣向も、観たあとの印象を悪くしそうだ。あとあと考えれば、本篇中の描写と決して矛盾せず、恐怖に奥行きを齎しているのに気づくはずなのだが、こういうところまで汲み取ってまで恐怖に身を寄せようとする観客はきっとそんなに多くはないだろう。

[リミット]』も『レッド・ライト』もそうだったように、ロドリゴ・コルテスは題材の掘り下げを非常に精緻に行うタイプの製作者のようだ。前述した2作品はそれが観客にも受け止めやすくなっているが、本篇はいささか渋すぎて、微妙になってしまっている。その反省が『レッド・ライト』の見事なバランスに結実した、と考えれば充分に意義はあるし、表現のリアリティはやはり評価に値する、と思うのだが、しかし、面白い、と感じられるのはどちらかと言えば少数派かも知れない。

関連作品:

[リミット]

レッド・ライト

たたり

パラノーマル・アクティビティ

グレイヴ・エンカウンターズ

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