『LIFE!(字幕)』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン入口近くに掲示されたポスター、実はベン・スティラーのサイン入りらしい。

原題:“The Secret Life of Walter Mitty” / 原作:ジェームズ・サーバー / 監督:ベン・スティラー / 原案&脚本:スティーヴ・コンラッド / 製作:サミュエル・ゴールドウィンJr.、ジョン・ゴールドウィン、スチュアート・コーンフェルド、ベン・スティラー / 製作総指揮:ゴア・ヴァービンスキー、マイヤー・ゴッドリーブ、G・マック・ブラウン / 撮影監督:スチュアート・ドライバーグ / プロダクション・デザイナー:ジェフ・マン / 編集:グレッグ・ヘイデン / 衣装:サラ・エドワーズ / 音楽:セオドア・シャピロ / 音楽監修:ジョージ・ドレイコリアス / 出演:ベン・スティラークリステン・ウィグアダム・スコット、キャスリン・ハーン、シャーリー・マクレーンショーン・ペン、パット・オズワルト、アドリアン・マルティネス、ポール・フィッツジェラルド、グレイス・レックス、ジョーイ・スロトニック、エイミー・スティラー、マッカ・クレイスト、オラフル・ダッリ・オラフソン / サミュエル・ゴールドウィン・フィルム/レッド・アワー・フィルム製作 / 配給:20世紀フォックス

2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間54分 / 日本語字幕:栗原とみ子

2014年3月19日日本公開

公式サイト : http://www.foxmovies.jp/life/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/03/24)



[粗筋]

 伝統ある社会誌『LIFE』を擁するタイム&ライフ社で、ネガの管理担当として勤務するウォルター・ミティ(ベン・スティラー)は重度の妄想癖を持っている。ひとと会話しているときでさえ、胸を焦がすような大冒険、獅子奮迅の大活躍を繰り広げる自分の姿を夢想してしまう。現実では冴えない、家族のための出費に頭を悩ませ、仄かに想いを寄せる同僚のシェリル・メルホフ(クリステン・ウィグ)にも積極的に声をかけられないような、地味な男だった。

 十年一日のような日々は、だが突然に終わりを告げる。タイム&ライフ社が買収され、『LIFE』誌はオンラインに移行、一週間ほどで大幅な人員整理が行われるというのだ。

 しかも、こんなときにウォルター、経験したことのない事態に直面する。『LIFE』の表紙は写真家のショーン・オコンネル(ショーン・ペン)撮り下ろしの作品を用いており、人嫌いで知られる彼は常にウォルターに対してフィルムを送りつけるのが常だった。今回は『LIFE』休刊を惜しむメッセージとともに、ウォルターへのプレゼントと、「25番のフィルムが僕の自信作だ。最終号には是非ともこれを使って欲しい」というメッセージが添えられていたのに、どういうわけか、肝心のフィルムだけが抜けていたのである。

 ショーンは珍しく幹部に対して電報を送っており、買収の責任者テッド・ヘンドリクス(アダム・スコット)はウォルターに盛んに催促してくる。

 とにかく写真を探し出さなければならない。だが世界中を飛び回り、携帯電話も持たないショーンの所在は、写真部で彼との交渉を行っている人間にも解らない。ウォルターは前後のネガに写るものの情報を手がかりに行方をさがすが、結果として浮かびあがった地名は、グリーンランド

 写真探しにかこつけて、初めてまともに会話の出来たシェリルからは、「探さなきゃ」と言われた。単なる話の成り行きでしかなかったが、忽然とウォルターは奮い立った。飛行機に飛び乗り、グリーンランドへと赴く。

 それが、ウォルターの新しい“LIFE”の第一歩だった。

[感想]

トロピック・サンダー/史上最低の作戦』以来のベン・スティラー監督作である。一般に、日本ではハリウッド産のコメディはあまり受けない、ということが言われがちで、まさにコメディ寄りのベン・スティラーは、出演作こそあまり途切れがないのに、日本では大きく扱われなかったり、映像ソフトに直行してしまうことが多い。監督作が久しぶりになったのは、この間に撮ったものがない、というだけのようだが、どうも日本では評価されていない気がしてしまう。

 だが、自らメガフォンを取る作品こそ多くはないが、そのクオリティは高い。『ズーランダー』はあり得ないくらいに頭の悪いモデルが非常識な活躍を繰り広げる様を、行き過ぎにも思うハイテンションで積み重ね、『トロピック・サンダー』ではとんでもないトラブルに見舞われた映画撮影の様子を、かなりクレイジーな人物たちで彩り、出演者のひとりロバート・ダウニーJr.をオスカー候補にまでしてしまった。

 この2作と本篇には必ずしも似通ったところはない。『ズーランダー』はとことん常識離れしたコメディだし、『トロピック・サンダー』は映画業界の実態を匂わせつつもやはり突飛で破天荒な展開が魅力だった。それに比べると本篇はかなり、観客に身近な“現実”を見ている。ウォルターがしばしば脳裏に思い描く“妄想”をベースにした、常識離れの冒険がしばしば挿入されるが、本篇でそれらが面白く感じられるのは、常識が確固として存在しているからだ。思い描く妄想と比べ、金銭や家庭の事情ゆえに自らの生活圏に縛りつけられ、なにひとつ冒険が出来ない、というウォルターの姿が仄めかされているから、その突飛さが印象づけられる。先行する2作よりも本篇は、より現実的な世界観を持っている。

 だが、ウォルターが長年に亘って弄んでいた妄想が、彼の背中を押した瞬間、本篇はリアリティを損なわないままに、ファンタジーの世界に突入していく。現実的でありながら現実にあり得ないくらいの広がりを備えているから、本篇は不思議なほどに観る者の胸をときめかせ、昂揚させる。

 もともとがコメディを軸とする俳優であり監督であるベン・スティラーの作品なので、たとえ妄想の世界から飛びだした物語でも、どこか非現実的な匂いはある。ヘリコプターに飛び乗り船に向かうくだりの展開はさすがにコントめいているし、その後の旅でも少々大袈裟な展開は随所に見られる。だが、それでもウォルターの思い描く“冒険”とのメリハリは明確だ。故に、妄想から脱し、本当の“冒険”に踏み込んだときの不安や昂ぶりも浮き彫りになっている。

 一方で、作品を彩るヴィジュアルのセンス、ユーモアは現実でも妄想でも一貫して高い。風景にスタッフ・キャストの名を刻みこんだスタイルによるタイトルバックはありがちだが、その後も思わぬタイミングで物語の内容に直結するフレーズが街中に突如現れ、ウォルターの心情の変化をスタイリッシュに彩っている。そして何より、映画ならではの大きな画面を活かした構図による映像は、痺れるほどに美しい。

 本質的にシンプルではあるものの、ストーリーの構成も巧みだ。最終号の表紙に推薦されたフィルムがどこにあるのか、という謎を解き明かすためにウォルターは前後のネガを手懸かりにショーンを追いかけるが、しかしその結末はけっこう単純で(だからひとによっては早い段階で見抜くことも出来る)拍子抜けするかも知れない。しかし、きちんと伏線を張りつつ、考えようによっては過程からいちど意味を剥奪するようなこの真相が、ウォルターの“冒険”が与えられるべき本当の“価値”を明白にする。そのあとの結末はさすがにちょっとウォルターに対して甘すぎるような気もするのだが、これにしても物語全体の様相からすれば察しはつくし、あれだけの努力を重ねたのだから、この程度は報われる権利はあるだろう、と理解できる。

 現実の“冒険”において、もっとウォルターの力が発揮される活躍がひとつ欲しかった、であるとか、全体を俯瞰すると、けっきょくウォルターよりも、登場する場面は遥かに少ないショーンの方がカッコいい、といった嫌味はある。しかし、観ていてワクワクし、その顛末を快く受け入れることが出来て、観終わったあとの後味もいい。観ていてイヤな気分になる要素がほとんどなく、観終わって勇気づけられる作品というのは思うよりも稀有だ。観終わったあと、自分もどこかに飛びだしていきたい、と鼓舞されるような作品もまた然り。

関連作品:

ズーランダー』/『トロピック・サンダー/史上最低の作戦

ペントハウス』/『ツリー・オブ・ライフ』/『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』/『ピラニア3D』/『バーニー/みんなが愛した殺人者』/『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで

タクシードライバー』/『フォレスト・ガンプ/一期一会』/『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』/『エンジェル ウォーズ』/『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団

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