監督:本木克英 / 脚本:土橋章宏 / 企画:深澤宏 / 製作総指揮:大角正 / プロデューサー:矢島孝 / 助監督:石田和彦 / 撮影:江原祥二 / 美術:倉田智子 / 照明:林利夫 / 編集:川瀬功 / 装飾:中込秀志 / 録音:山本研二 / スクリプター:黒河内美佳 / 音楽:周防義和 / 主題歌:塩ノ谷早耶香『Like a Flower』 / 出演:佐々木蔵之介、深田恭子、伊原剛志、寺脇康文、上地雄輔、知念侑李、柄本時生、六角精児、市川猿之助、石橋蓮司、陣内孝則、西村雅彦、甲本雅裕、近藤公園、忍成修吾、和田聰宏、冨浦智嗣、舞羽美海、前田旺志郎 / 制作プロダクション:松竹撮影所 / 配給:松竹
2014年日本作品 / 上映時間:1時間59分
2014年6月21日日本公開
公式サイト : http://www.cho-sankin.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2014/06/21)
[粗筋]
享保二十(1735)年、将軍・徳川吉宗(市川猿之助)の治世。
磐城国にある湯長谷藩の藩主・内藤政醇(佐々木蔵之介)は参勤交代により、一年振りに地元へと戻ってきた。お人好しだがそれ故に民からも愛される政醇にとって、窮屈な江戸暮らしからようやく解放され、くつろぎのひとときが訪れた――はずだった。
帰国からわずか一日、江戸家老が早馬で湯長谷藩に舞い戻り、政醇に差し出したのは、将軍からの下命であった。曰く、歳入の報告に偽りの疑いあり、五日のうちにふたたび江戸入りし、詮議を受けること。
どうやら、採掘に着手しながらも断念した金山の件らしいが、とんでもない誤解だった。しかも、本来は一年おきに行う参勤交代を帰国直後に、それも通常は十日は要する道のりを五日で移動せよ、とはあまりにも無体な要求だった。江戸家老の話によれば、金山の存在を秘匿した、という疑いは老中・松平信祝(陣内孝則)からもたらされ、五日間での参勤交代という案も信祝が出したものらしい。
かねてより地位を悪用して私腹を肥やしていると評判の信祝である。金山を掠奪するべく、湯長谷藩お取り潰しを画策しているのだろう、と推測するが、将軍の命では逆らえない。冷静な秋山平吾(上地雄輔)は一時的な閉門もやむなし、と意見を述べるが、政醇が出した結論は、参勤交代の強行だった。田舎侍の矜持を、幕府の役人に示すのだ、と。
とはいえ、期間はわずか五日、しかも貧乏な藩の財政では、本来必要な費用の半分も捻出できない。知恵者として通る家老の相馬兼嗣(西村雅彦)は懸命に知恵を絞り、どうにか奇策をひねり出す。政醇に同道するのは家臣六名のみ、格好をつけるために、ふたつの宿場でのみ人を雇い、行列の体裁を整える。そこまでは、街道を避け山中を走って、時間短縮に努める。
ふらりと現れた抜け忍・雲隠段蔵(伊原剛志)を道案内に雇い入れ、翌る日、政醇たち一行は異例の参勤交代へと赴く。だが、それを手をつかねて眺めている信祝ではなかった。お庭番の忍者を放ち、妨害を試みる。
常軌を逸したこのお勤め、無事に果たすことが出来るのだろうか……?
[感想]
これこそ王道の娯楽時代劇だ、と唸らされる1本であった。
正直に言うと私は、“王道の娯楽時代劇”というものを映画館で観た覚えというのがあまり、というよりほとんどない。時代劇自体は製作されているが、藤沢周平原作の情緒豊かな作品であったり、きちんと考証を施した重厚な作品が主体で、殺陣、というよりもチャンバラを用いたり、時代物ならではのユーモア、愉しさがふんだんに盛り込まれた、観ていて単純にワクワクするような作品といったものはごくごく限られていた。それこそ、映画を頻繁に観るようになってごく初期に鑑賞した『助太刀屋助六』ぐらいのもので、他にはほとんど覚えがない。
本篇はそもそも題名、最初に提示された主旨自体が非常に興味を惹くものだ。歴史についてさほど知識がなくとも、江戸時代に実施されていた参勤交代というシステムが各藩に与えた負担の大きさぐらいは学校で学んでいるはずだろうし、自動車も電車もない時代に短期間で出府する、というのがどれほど過酷な要求かは察しがつく。そうでなくても貧乏な小藩が、如何にしてこの無理難題に応えるのか? この大前提だけでも充分すぎるほどに魅力的だ。
昨今の傾向なら、この設定のもとにとことん現実的に話を組み立てることも出来ただろうが、本篇はそうはしなかった。主人公である湯長谷藩藩主・内藤政醇を含め、メインとなる人物をみな愛すべき人柄に仕立て、そのやり取りをコミカルで心和むものにした。彼らの世界の優しさが、今回の事件の黒幕・松平信祝の卑劣さを際立たせ、無理難題に応えようとする政醇たちの覚悟の痛快さを引き立たせ、かつ物語への関心を強めている。
また序盤から潔く忍びを登場させているのも巧い。はじめから忍びが出て来ているのだから、あとあとなにか波乱があるのは想像がつき、突然に派手な立ち回りがあっても不自然な印象を与えない。むしろ、立ち回りが始まるまでの興奮が高まろうというものである。対する政醇ら湯長谷藩士たちの側でも、貧乏旅であるが故の不利に泣く(でも観てる側は笑う)場面があるかと思うと、平和の世においても鍛錬を弛まず、それぞれに手練れであることを早いうちに提示してあって、やがて見せる破竹の活躍も唐突に感じさせない。
リアリティよりも面白さを優先させる一方で、きちんと“短期間での参勤交代”を実現させるためのアイディアには、ちゃんと史実を踏まえた趣向を凝らしているのもいい。序盤で提示する道程も見事だが、その後に遭遇する困難への対処は、なるほどそう来るか、と膝を打たされる。その都度、考えようによっては武士としての誇りをかなぐり捨てるかのような振る舞いを強いられているのもおかしく、実に楽しい。
何より本篇は、芯の通った“勧善懲悪”になっているのが嬉しい。近年は必ずしも善や悪と決めつけられない題材や出来事を扱い、観客側に問題提起するのが普通のようになっているが、だからこそこういう素直なものも時には観たくなる。松平信祝というキャラクターが徹底した悪役として描かれ、内藤政醇らが善人であり、芯の通った人物に描かれているからこそ、彼らの活躍が面白く痛快に感じられる。現代人の価値観に照らし合わせて、違和感を覚えないような工夫も意識的に加えられていることも奏功している。終盤での老中の物云い、将軍とのやり取りや、政醇のとんでもない提案など、冷静に考えるとあの時代の価値観に合っているのかは疑わしいが、そこを敢えて割り切っているのも、娯楽に徹したが故の快さなのである。
往年の大作や、最近の文芸的作品と比較すると明らかに予算は抑えめ、撮影もお馴染みのセットを用いているところが多数見受けられ、それが率直に“安い”印象をもたらしていることは否めない。あまりにシンプルに勧善懲悪に徹した作りは、抵抗を覚える向きもあるだろう。だが、そういうものに飢えていたひとにとってはまさに「待ってました!」と叫びたくなるような仕上がりである。そしてたぶん、私同様に、往年の時代活劇に親しみがなくとも、その魅力の一端に触れることが出来る好篇と言えよう。願わくば本篇を契機に、原作付きでない、映画ならではの娯楽性を追求した時代劇がまた継続的に製作されることを。
関連作品:
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