『チャイナタウン』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン2前に展示された案内ポスター。 チャイナタウン [Blu-ray]

原題:“Chinatown” / 監督:ロマン・ポランスキー / 脚本:ロバート・タウン / 製作:ロバート・エヴァンス / 撮影監督:ジョン・A・アロンゾ / プロダクション・デザイナー:リチャード・シルバート / 編集:サム・オスティーン / キャスティング:ジェーン・ファインバーグ、マイク・フェントン / 音楽:ジェリー・ゴールドスミス / 出演:ジャック・ニコルソンフェイ・ダナウェイジョン・ヒューストンバート・ヤング、ペリー・ロペス、ジョン・ヒラーマン、ダレル・ツワリング、ダイアン・ラッド、ブルース・グローヴァー、ロイ・ジェンソン、リチャード・パカリアン、ジョー・マンデル、ジェームズ・ホン、ベリンダ・パーマー / 配給:パラマウント×CIC / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1974年アメリカ作品 / 上映時間:2時間11分 / 日本語字幕:高瀬鎮夫

1975年4月12日日本公開

2012年7月13日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

第2回新・午前十時の映画祭(2014/04/05〜2015/03/20開催)上映作品

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/10/24)



[粗筋]

 1930年代、海と砂漠のあいだで拡大を続けていたロサンゼルス。だが、開発のツケがたたり、ダムが決壊、新たなダムの建設の是非で騒然としていた。

 私立探偵ジェイク・ギテス(ジャック・ニコルソン)はモーレイ夫人を名乗る女(ダイアン・ラッド)から、夫の浮気調査を依頼される。ギテスにとってはさほど難しい捜査ではなかった。ホリス・モーレイ(ダレル・ツワリング)が若い女と密会しているところを撮影することに成功し、依頼人に報告する。

 だが、間もなくギテスは、思わぬ人物からの訪問を受けることになった。現れた美しい女の名は、エヴリン・モーレイ(フェイ・ダナウェイ)――依頼人とは明らかに違う人物だが、彼女が本当のモーレイ夫人だという。ギテスの撮影した写真が流出したことで名誉を傷つけられた、とエヴリンは主張し、告発も匂わせて去っていった。

 後日、事態は更に悪化した。ホリスが屍体となって発見されたのである。ギテスは個人的に捜査に着手、この奇妙な事件の背景を探り始めた……

[感想]

 観ている途中で歓喜の叫びを上げてしまいそうだった。驚くほど正統派のハードボイルド――私立探偵小説の流れを汲む作品だった。

 映画の枠でなら“フィルム・ノワール”という呼称が似つかわしいが、それでも私は本篇を“私立探偵小説”と呼びたい。ややクセのある私立探偵が視点人物となり、彼が依頼を経て接した事件が中心で語られる。捜査の過程で接触する人物もまた美女に悪党、大物政治家に純真な少女まで実に多彩だ。そうして探偵が事件に踏み込んでいく様は、レイモンド・チャンドラーロス・マクドナルドの小説を彷彿とさせる。

 しかもそれを、映画オリジナルの脚本でやっているのが快い。優秀な小説を、そのムードを巧く取り込めば、物語も優秀なハードボイルド映画になるかも知れないが、もともと小説として作られた物語を映像に差し替えればどこかしら不満が残りかねない。だが、始めから映画であることを考慮した本篇のプロットは、尺も手頃なら、映像ならではの趣向で私立探偵ものの面白さを表現している。闇の中での潜入劇もそうだし、美女の関係者に深入りしてしまうお馴染みのモチーフも映像的に描かれる。私立探偵小説の愛好者が、ああした作品を映画のかたちで観たい、と思ったときの理想に近い仕上がり、と言っていい。

 その、映画ならではの私立探偵ものの醍醐味は終盤で存分に味わえるはずだ。探偵自身も巻き込まれた人間関係から炙り出される真相。縺れあった挙句に辿り着く、悲愴だが情感豊かなラストシーン。フェイ・ダナウェイの美貌とともに、忘れ難い余韻を留める。

 本篇はその好評を受けて、だいぶ後に続篇が製作されているが、率直に言って、私はあまり観たいと思わない――語るために観るかも知れないが、本篇だけで充分に完成されていると感じる。1975年当時にあえて時代を1930年代まで遡って描いたことも奏功し、クラシカルな味わいであるが故に、却って古びることのない逞しさを窺わせる傑作である。

関連作品:

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コメント

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