原題:“Mission:Impossible – Rogue Nation” / 原作:ブルース・ゲラー / 監督&脚本:クリストファー・マックァリー / 原案:クリストファー・マックァリー、ドリュー・ピアース / 製作:トム・クルーズ、J・J・エイブラムス、ブライアン・バーク、デヴィッド・エリソン / 製作総指揮:ダナ・ゴールドバーグ、ジェイク・マイヤーズ / 撮影監督:ロバート・エルスウィット / プロダクション・デザイナー:ジェームズ・D・ビゼル / 編集:エディ・ハミルトン / 衣装:ジョアンナ・ジョンストン / キャスティング:ミンディ・マーティン、ルシンダ・サイソン / 音楽:ジョン・クラマー / 出演:トム・クルーズ、ジェレミー・レナー、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴィング・レイムス、ショーン・ハリス、サイモン・マクバーニー、チャン・チンチュー、トム・ホランダー、アレック・ボールドウィン / トム・クルーズ/バッド・ロボット製作 / 配給:Paramount Pictures Japan
2015年アメリカ作品 / 上映時間:2時間11分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2015年8月7日日本公開
公式サイト : http://www.missionimpossiblejp.jp/
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2015/08/07)
[粗筋]
大量の神経ガス輸送を水際で防いだIMFエージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、ウィーンで新たな任務の指令を受け取るべく極秘の拠点を訪れるが、そこに仕掛けられていた指令は罠だった。
為す術もなく拉致されたイーサンの前に現れたのは、既に死んだとされていたはずの他国の諜報員。拷問にかけられる寸前で、敵方の女の裏切りにより救われたイーサンは、重傷を負いながらも脱出に成功する。
同僚のウィリアム・ブラント(ジェレミー・レナー)に救いを求めたイーサンだったが、しかし母国では、IMFそのものが窮地を迎えていた。過酷な使命を極限で遂行していたIMFはこれまでに無数のトラブルを引き起こしており、政府も問題視していた。折悪しく、まさにその日、IMFは解体され、CIAに吸収されてしまったのである。イーサンは数々の“蛮行”が問題視され、囚われ次第、責任を追及される立場にある。
だがイーサンは囚われるわけにはいかなかった。ウィーンで彼を陥れた罠は、近年イーサンが追っていた“ならず者”の組織、シンジケートの存在を証明している。しかし政府やCIAはシンジケートの存在自体を信用せず、イーサンの権限を剥奪しようとしている。放置することは出来ない。逃亡時に重傷を負ったイーサンだが、ブラントにさえ行き先を告げずに姿を消した――
……それから6ヶ月。
CIAに吸収された元IMF職員のひとりベンジー・ダン(サイモン・ペッグ)のもとに、プレゼントに当選した、として、ウィーンで開催されるオペラのチケットが届く。閑職に追いやられ、イーサンの行方を追う上層部によって繰り返し嘘発見器のテストを受けさせられていたベンジーは、これ幸いとウィーンに飛ぶが、そこで待っていたのは他でもない、イーサンであった……。
[感想]
第1作、第2作は担当した監督の個性が強烈に出ていたために、評価が微妙になったきらいがある(ただしどちらもシリーズとしての固定観念を除けば面白い)この“ミッション:インポッシブル”シリーズだが、第3作で監督の作家性と共に、このシリーズの原作が持っていた、奇想天外なミッションのスリルや興奮を取り戻すことに成功して以来、そのスタイルを踏襲する方針を固めたようだ。
今回起用されたクリストファー・マックァリーは、ブライアン・シンガー監督の出世作『ユージュアル・サスペクツ』の脚本家としてキャリアをスタートしており、のちに自身で監督をするようになってからも自ら脚本を執筆、本篇においても同様のスタンスを取っている。デビューは衝撃的な趣向が光るミステリーだったが、監督デビュー作『誘拐犯』ではユニークなアクションを採り入れたクライム・ストーリーに転じ、ふたたびシンガー監督と組んだ『ワルキューレ』では歴史に題材を採ったサスペンスにも挑戦している。だが、そのフィルモグラフィーを通して見ると、何らかの仕掛けを組み込んだアクション・サスペンスを得意とする作り手であることは間違いないようだ――つまり、スパイ・アクション映画にはもともと向いた人材と考えられるのである。監督はトム・クルーズとの先行するコラボレーション『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の製作中に既に本篇の監督を打診されていた、という話だが、それも頷けるところである。
期待通り、本篇は冒頭から観る側の心を鷲掴みにして、最後まで放してくれない。予告篇やプロモーションで散々話題にしていた、トム自らがスタントに挑んだという、飛行機の扉にぶら下がる大迫力のシーンをいきなりプロローグに置くと、すぐさま主人公イーサン・ハントの身を危機が襲う。監禁状態からの脱出に、組織からの助力が見込めないなかでのミッションなど、矢継ぎ早にトラブルや障害が立ちはだかり、見せ場に欠かない。
本篇の敵役は国際社会が実在を認めていない“シンジケート”だが、物語の肝になっているのは、そこに関わっていると見られる謎の女の存在だ。素性は追々明かされていくが、敵とも味方とも判断しかねる彼女の振る舞いは、登場人物のみならず観客をも翻弄する。単純な善対悪、組織対組織の構造にすると、やもすると牽引力を損なうことがあり得るのだが、本篇は“シンジケート”という不気味な組織のなかに彼女という読みにくい要素を加えることで、謎を積み重ね、緊張を繋いでいる。この見せ方の巧さは、ブライアン・デ・パルマ監督によるシリーズ第1作に次ぐレベルにある――シリーズのファンにしっくり来る、という意味では第1作よりも好感度が高いはずである。
そしてそこに、壮絶なスタントが求められるアクションシーンや、「本当にそこまでする必要あるのか?!」と目を疑いたくなるような高難易度のミッションが随所に織り込まれる。率直に言えば、スタントの凄味という点では冒頭の飛行機のくだりに勝るシーンはないのだが、モロッコ市内でのカーチェィスにバイクでの高速の追いかけっこなどで充分にアクション映画の醍醐味は堪能させてくれるし、肝心な部分にはCGを用いていると思われるものの、厳重な管理下に置かれた情報を奪うシークエンスの趣向はヒリヒリするし、クライマックスにおける生死を紙一重で分けるような駆け引きは逸品だ。“007”とは異なる、“ミッション:インポッシブル”ならではのスパイ映画の面白さが本篇には横溢している。
もうひとつ付け加えておくと、これだけ緊密な話運びでも、ユーモアやお遊びは欠かしていないのも本篇の良さだ。あの場面でドアを開け間違えたり、カーチェイスの最後でシートベルトの話をしたり、笑いには直結せずとも、いい具合に弛緩をもたらすやり取りが絶妙に配されている。ジェームズ・ボンドを例に引くまでもなく、ここが巧いとそれだけで作品の力強さは増す。観客のほうも、緊張し続けずに済むので、盛り上がりをより快く楽しめるのだ。
少々あっさりした幕引きが物足りない、と感じられる向きもあるかも知れないが、しかし振り返ってみれば解るはずである。本篇の締めくくりは序盤での出来事を踏まえている。あれがあるからこそ、本篇はあの決着を選んだのだ。前作の、ある意味で解りやすく派手な決着とは異なるが、子供じみた憧れと知的な楽しみを兼ね備えたスパイ映画というもの本来の味わいをより真っ向から表現しているのは本篇のほう、といってもいいのではなかろうか。
結末の組み立てや、あまりに企みが錯綜しすぎて混乱を招きかねない敵味方の構造など、嗜好によっては合わないことも考えられるが、少なくともこのシリーズの方向性を見事に押さえた、優れた娯楽大作であることは断言してもいいだろう。最終的な評価はさておき、2時間ほぼ余すところなく楽しめるはずだ。
関連作品:
『M:i:III』/『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』
『アウトロー』/『ワルキューレ』/『オール・ユー・ニード・イズ・キル』
『アメリカン・ハッスル』/『宇宙人ポール』/『ピラニア リターンズ』/『NY心霊捜査官』/『ラッシュアワー3』/『ハンナ』/『私の中のあなた』
『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』/『Black & White/ブラック & ホワイト』/『裏切りのサーカス』/『ボーン・レガシー』/『エージェント・マロリー』/『007/スカイフォール』/『ワイルド・スピード SKY MISSION』
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