『パブリック・エネミーズ』

『パブリック・エネミーズ』

原題:“Public Enemies” / 原作:ブライアン・バーロウ / 監督:マイケル・マン / 脚本:ロナン・ベネット、アン・ビダーマン、マイケル・マン / 製作:マイケル・マン、ケヴィン・ミッシャー / 製作総指揮:G・マック・ブラウン / 共同製作:ブライアン・H・キャロル、ガスマノ・セサレッティ、ケヴィン・デ・ラ・ノイ / 撮影監督:ダンテ・スピノッティ,ASC,AIC / プロダクション・デザイナー:ネイサン・クロウリー / 編集:ポール・ルベル,ACE、ジェフリー・フォード,ACE / 衣装:コリーン・アトウッド / 音楽:エリオット・ゴールデンサール / 出演:ジョニー・デップクリスチャン・ベールマリオン・コティヤールビリー・クラダップスティーヴン・ドーフスティーヴン・ラングジェイソン・クラーク、ロリー・コクレイン、チャニング・テイタムジョン・オーティスデヴィッド・ウェンハムジョヴァンニ・リビシブランカ・カティッチ、リーリー・ソビエスキー / フォワード・パス/ミッシャー・フィルムズ製作 / 配給:東宝東和

2009年アメリカ作品 / 上映時間:2時間21分 / 日本語字幕:松浦美奈

2009年12月12日日本公開

公式サイト : http://www.public-enemy1.com/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/12/16)



[粗筋]

 1933年、大恐慌による不況に民衆が喘ぐなか、ひとりのヒーローが生まれた。

 彼の名はジョン・デリンジャー(ジョニー・デップ)。インディアナ州を中心に、銀行強盗を繰り返す一味のリーダーである。被害額はあのジェシー・ジェームズを上回り、銀行の金以外には決して手をつけず、時として担保証書を焼き払うという置き土産を残していく彼は、その立ち回りの粋さも相俟って、警察からは“社会の敵”と位置づけられながら、民衆からは熱狂的な支持を受けていた。

 女性からも想いを寄せられながら、決してひとつところに留まらなかったデリンジャーの意識が変わったのは、シカゴでのある一夜が契機であった。バーにて、他の女たちとは微妙に異なる空気を醸していた女性に目を惹かれたデリンジャーは、すぐさま彼女を誘い出す。

 その女、ビリー・フレシェット(マリオン・コティヤール)は、デリンジャーが連れ出した先で、彼が知人と離している隙に去ってしまったが、翌る朝デリンジャーは彼女の職場まで押しかけていく。「俺の女になるなら、2度と勝手に消えたりしないと誓え」――あまりに身勝手な求愛、だが異様なほどに積極的で引くことを知らない彼の説得に、もともと退屈を嫌う性分であるビリーは屈服し、彼と共に職場を去った。

 同じ頃、アメリカの犯罪捜査の現場に、大きな変革が訪れつつあった。傑出した指揮官J・エドガー・フーヴァー(ビリー・クラダップ)の登場により検挙率は向上しつつあり、彼は更に捜査の上で大きな障害となる州境による管轄の違いを、連邦捜査局の設立により乗り越えようと働きかけを繰り返していた。そのためには、非常に注目度の高い犯罪者であるジョン・デリンジャーの逮捕が有効であると判断したフーヴァーは、ひとりの捜査官をシカゴ支局長に大抜擢する。

 その捜査官、メルヴィン・パーヴィス(クリスチャン・ベール)は電話回線の傍受と地道な聞き込みにより、デリンジャーの足取りを追い始める。途中、まだ捜査に不慣れな部下の不手際により、大切な戦力をデリンジャーと縁のある強盗犯“ベイビーフェイス”ネルソン(スティーヴン・グレアム)に殺される、という悲劇を経験しながらも、やがてパーヴィスの捜査は偶然も手伝って実を結んだ。

 デリンジャーは潜伏のために向かったアリゾナ州のホテルが、直前に火事を起こし、内部から彼の部下たちが隠し持っていた銃器を発見されたことにより、捜査官たちの待ち伏せを受けて逮捕される。

 同行していたビリーはシカゴに帰され、捜査官の監視するなか不安と孤独に苛まれていたが、そんな彼女のもとに、電話がかかってくる。それは、逮捕から2ヶ月を待たずに脱獄に成功したデリンジャーからだった……

[感想]

 いま、ジョニー・デップほど完璧なスター性を備えた俳優はいない、と思う。レオナルド・ディカプリオはその実力を認められながらも、作品の中で充分な存在感を発揮できず、名前が勝っている印象が強いし、ブラッド・ピットは近年プロデュースや他の俳優の引き立て役に意識して徹している感があり、いずれもスター性は高いが作品の中で圧倒的存在感を発揮することは珍しくなっている。それに対してジョニー・デップは多くの名匠と呼ばれる監督の作品に招かれ、極めて癖のあるキャラクターを演じて強い存在感を発揮し、かつ作品世界を確実に支配して、彼の名前に惹かれて劇場に足を運ぶようなファンにかなり確実な満足を与えてくれる。出演作品を選ぶ眼が肥えていることも大きいのだろうが、デップの出演作は彼の役柄、或いは物語そのものに独特の癖があり、それぞれに高い質を備えているのだ。

 リアリティに溢れる物語と、生々しい迫力に満ちたガン・アクション描写で定評のあるマイケル・マン監督と組んだ本篇もまた高い完成度を誇り、彼の名に惹かれて劇場に足を運んだ観客の期待に充分応える仕上がりである。

 ――ただ、観ているあいだ、観終わった直後に、若干の不満を抱く人も少なくないように思う。確かに質は非常に高い。相変わらずジョニー・デップは素晴らしい演技で、往時のアンチ・ヒーローを見事に具現化しているし、虚飾を削ぎ落とし終始リアリティに重点を置いて作りあげられたドラマとアクションはいかにもマイケル・マン監督らしい厚みを感じさせる。

 何が物足りないのかというと、ジョニー・デップのファンの目から観ても、『コラテラル』や『マイアミ・バイス』といったマイケル・マン監督近年の作品群を知っている目から観ても、本篇の出来はほぼ予想の範囲内なのだ。ジョニー・デップの魅力は引き出されているし、マイケル・マン監督らしい銃撃戦の重みも堪能できるが、それ以上のインパクトがない。

 可能な限り当時を再現し、ジョン・デリンジャーが実際に脱獄した刑務所や銃殺された現場など、現存する舞台を利用して撮影された映像の醸す時代の空気は秀逸だし、決して飾り気はないがそれ故に存在感の濃密な人物描写は見事だ。淡々と追っているように見えて胸中の激しい葛藤を窺わせるメルヴィン・パーヴィス捜査官の表情は、クリスチャン・ベールの高い演技力と相俟って重厚だし、結果的にジョン・デリンジャーの寿命を縮めるきっかけとなったとも言える恋人ビリー・フレシェットは、出逢いから恋に落ちるまでがやや唐突で描き込みが足りないように感じられるものの、終盤で見せる芯の通った言動、特にクライマックスにおける我が身を投げ出した行為に情愛の深さを印象づけて、記憶に鮮やかだ。

 他の細かな人物にしても、決してゆるがせにしていない。たとえば冒頭の脱獄シーンでいの一番に命を落とす仲間は、その死がデリンジャーの運命を左右したことを窺わせる描写が随所に鏤められているし、暴走の挙句にデリンジャーの危機を招いた強盗犯、死の直前までデリンジャーの安全に気を配った仲間の様子など、性格設定の必然性、交流の深さを感じさせる描写がふんだんに認められる。細部に拘り、噛み応えのある仕上がりになっている。

 だが、奥行きはともかく、全体的なイメージがほぼ予想通りに収まってしまっているのは、なまじジョニー・デップという近年随一のカリスマ性を発揮する俳優を軸に組み立てているだけに惜しまれてならない。リアリティを重視し、実際にあった出来事を再構築しつつも、もっと鮮烈な部分がひとつふたつ欲しかったところだ。

 とはいえ、彼自身かねてから憧れていた、という人物に扮しただけに、ジョニー・デップは見事に作品の芯として魅力を存分に示しているし、過剰な表現を避けつつも迫力に満ちた銃撃戦の見応えは折り紙付きだ。マイケル・マン監督の他の作品を知らずに観れば、銃撃の生々しさに衝撃を受けることは間違いない。

 時代性を感じさせる焦げついた映像も含め、全篇に美学を感じさせる、良質の1本である――ただ、期待の仕方によって、やや肩透かしを食った気分を味わうかも知れないけれど。

関連作品:

コラテラル

マイアミ・バイス

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師

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