『の・ようなもの』

の・ようなもの [DVD]

監督&脚本:森田芳光 / 製作:鈴木光 / 企画:鈴木光、森田芳光 / 撮影:渡部眞 / 照明:木村太朗 / 美術:増島季美代、伊藤羽 / 編集:川島章正 / 録音:橋本泰夫 / 音楽:塩村宰 / 主題歌:尾藤イサオ / 助監督:山本厚 / 演出助手:佐藤隆夫、杉山泰一 / 出演:伊藤克信、尾藤イサオ秋吉久美子、麻生えりか、小林まさひろ、大野貴保、でんでん、加藤治子春風亭柳昇入船亭扇橋内海桂子内海好江、吉沢由紀、鷲尾真知子、清水石あけみ、三遊亭楽太郎芹沢博文永井豪小堺一機ラビット関根、黒木まや、大角桂子 / 配給:ヘラルド / 映像ソフト発売元:Asmik Ace

1981年日本作品 / 上映時間:1時間43分

1981年9月12日日本公開

2006年10月20日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

続篇『の・ようなもの の ようなもの』公式サイト : http://no-younamono.jp/

DVD Videoにて初見(2015/03/09)



[粗筋]

 出船亭志ん魚(伊藤克信)はまだ二つ目の、落語家“のようなもの”だ。女性経験がないという彼を兄弟子たちは哀れみ、師匠からの小遣いなど、乏しい収入のなかからカンパを集めて、トルコ風呂に行くことを薦めた。

 トルコ風呂で志ん魚を担当したエリザベス(秋吉久美子)は志ん魚を気に入り、もう2度と店には来られないかも、という彼に自分の家の連絡先を教えてくれた。以来、エリザベスの家を訪ねたり、彼女のおごりで高級ディナーを味わったり、と親密に付き合うようになる。

 真打ち未満なのでまだテレビにもラジオにも呼ばれない志ん魚だったが、兄弟子たちと共に高校の落語研究会の指導に赴くことになった。志ん魚は部員の由美(麻生えりか)と惹かれあい、デートすることになる。さすがに後ろめたく、エリザベスに打ち明けるが、彼女には自分のことを黙っていればいい、とエリザベスは拘らない。

 兄弟子たちと深夜に高座を打ったり、ローカルテレビ局でに企画の売り込みをしたり、若い落語家“のようなもの”も何かと忙しい日々を送っていた……。

[感想]

 このあと、傑作『家族ゲーム』などでその名を知られるようになる森田芳光監督の、長篇初監督作である。

 とはいえ、監督に対しても作品に対しても、これといった思い入れがない私には、公開から34年を経た本篇の第一印象は「とにかく古い」ということだった。

 演出が古い、というより、扱っている風俗自体が古く、それを大量に採り入れているが故なのだろう。いまや別の名称にすっかり入れ替わってしまったトルコ風呂に、活気のある団地、それにファッションの数々。古い映画を観れば、扱われる風俗が古くなるのも当然、と思われるかも知れないが、内容が謎解きに集中していたり、緻密に組み立てられたドラマだったりすると、気づけばその世界に惹きこまれてしまい、案外そういう古さを意識することはない。しかし本篇のように、全体のストーリーよりも、登場人物たちが身を置く世界やその空気のほうに重きを置いていると、否応なしにモチーフの古さのほうを意識させられてしまうようだ。

 だから、当時の風俗描写に違和感がない、或いは関心が持てるひとでないと、その古さだけでピンと来なくなる可能性のある作品であろう。これは作品の選択した描写ゆえに、致し方のないところだと思う。

 ただ、あえて積極的にリアルタイムの文化に寄り添った描写はそれ自体が時代のカタログのような役割を果たしているのは間違いない。当時、主人公たちと同年配だった人たちには、時間が経つほどに懐かしい映像やエピソードが連なっているはずだし、知識程度しか持ち合わせがなくとも、興味深い描写が多い。

 また、“落語”という脈絡を重視した芸能を扱いながら、展開をお約束に落とし込まない構造は意欲的だ――それ故に、構造とか表現に関心の乏しい観客にはしっくり来ないのは間違いないだろうが、肩の力を抜いたような話運びにも拘わらず不思議な刺激と緊迫感があるのは、その意欲的な構造故だろう。

 この脱構築めいた作りがもたらす作品世界は、それ故にこれが長篇映画デビューとなった森田芳光監督自身含むスタッフたちの情熱が漲り、活力に満ちている。随所で繰り広げられるユーモラスなやり取り、若いが故の見栄と欲が織りなす情けない顛末が独特の暖かさを生み出すと共に、観ている側が力を受け取るかのような心地がするのも、そうした情熱が籠められているからこそだろう。

 のちに森田監督自身、本篇を「映画作りを知らないから撮れた」と語っていたそうだが、恐らくその通りだ。まだ本格的に映画業界に足を踏み入れる前、撮りたい、という情熱に駆られていたからこそ形に出来たタイプの作品なのだろう。今となっては、内容それ自体を単独で評価すると微妙な言葉ばかりになってしまうが、映画表現、時代風俗の表現、というところから考察していくと興味深い1本と言えよう。

 ちなみにこの作品、私にとっては馴染み深い土地が撮影に使われており、そういう意味でも、内容とは別のところでも楽しさがあった。隅田川沿いとか浅草松屋界隈の佇まいが、外国人観光客に人気となって少し洗練された印象になった昨今と比較すると、やけにくすんだ印象があるのが懐かしいのだ。

関連作品:

模倣犯』/『椿三十郎』/『武士の家計簿

犬神家の一族(2006)』/『清須会議』/『ハウルの動く城』/『逆境ナイン

異人たちとの夏』/『「超」怖い話 THE MOVIE 闇の映画祭

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