あれは登山ルートですらなかった。

 既に明けて9日、帰路の新幹線車内でこれを書いております。どーしてろくに更新も出来ないほど疲れ果ててしまったのか、書いておかぬわけにはいかなかったので。

 前日、疲れ果てて、寝支度を整えたあとで、少しだけ横になろう、という程度の考えで布団に入ったら、あっという間に就寝。3〜4時間の睡眠を昼と夜に1回ずつ取って休養を図る、という変な生活をしている私には珍しく、6時間もまったく目醒めませんでした。

 0時前後に床に就いてそーなったわけですから、当然これはかなりの早起きになる。せっかく早起き出来たのなら、早めに準備をして1日目の宿を出て、次に宿泊するホテルに荷物だけ預け(預かってもらえることは攪乱済)、身軽になったうえで宿から近い松江しんじ湖温泉駅に向かい、今日の大きな目的地へ電車で移動する、という心積もりでした。

 バス路線は大雑把に調べてありましたが、それでもちゃんと確認したうえで乗らないと間違えてしまう。ですから、宿泊していたホテルの受付で、どこから乗ればいいのか確認して、スーツケースと共に発ったのです。

 ……まさか、あんなに明後日の方向に進むとは思いませんでした。

 同じバス停で、まったく異なる路線を走るバスが着く、というのは解っている。解ってますが、行き先表示が“小泉八雲記念館”とあるのに、どうしてまず明後日の方向にある住宅地に向かう、と想像出来ます? そのうち方向転換して宍道湖のほうへ向かってくれるのかとずーっと待ってましたが、結局宍道湖のほうへ向かうことはなく、どうにか見覚えのある土地まで戻ってきたところで降車、徒歩で次の宿まで駆けつけました……きのう通った道で幸いだった……。

 とは言い条、これで結局1時間以上ロスしてしまった。宿に荷物を託し、駆けつけたものの、早めの便はちょうど出てしまい、しばし待ちぼうけ。

 どうにかこうにか一畑電鉄に乗り、約30分後に一畑口に到着。初日、出雲大社から乗ってきたときも不思議に思っていたことでしたが、実はこの電車は一畑口でスイッチバックを行う変わった運用をしていて、停車すると乗務員が当初の進行方向と反対側の運転席に移動し、それから出発する。一部のシートは進行方向へと反転する作業もあったりと、見ていても面白いのです。私はここで降り、来たのとは異なる方向へと進んでいくのを見届けたうえで駅舎を……まあ、すぐには出なかった。一畑口駅はそもそも一畑薬師の近くまで続いていた路線だったはずが、戦時中の軍による徴発があって、線路を失いいまのかたちになったそうです。そのため、一畑口駅の先にも少しだけ線路は延びていて、その先に延々と田園風景が続いているのが少し奇妙でもありました。

 そしてここで私は致命的なミスを犯した。ここで、今朝方想定していたとおりの行動に出てしまった。一畑口を降り、大きな目的地である一畑薬師まではバスで行くしかないのですが、私はひとまず歩いて移動を始めてしまった。

 早起きした時点で何故こんなことを考えたのか。それは、一畑薬師までの道中、脇に逸れたところに幾つか神社などがあり、特にそのうちのひとつ、佐香神社がお酒にゆかりのある神様だった。本日のメインイベントは、日本酒とともに怪談を嗜む『怪し会八雲』です。佐香神社は八雲の著述にも言及があったはずなので、訪れてみて損はない。というわけで、ひとまずてくてくと歩いて佐香神社へと向かった。

 現地では松尾神社という名でも呼ばれているこの社は、近々催される祭事のための準備でだいぶバタバタしてました。せめてお祈りだけでも、と思い、急な階段を登っていってお詣りをしていると、幸いに神社の関係の方がいらっしゃって、御朱印のお願いをしたところ、快く受けていただけました。階段下にある社務所兼住居と思しきところへ案内され、丁寧な御朱印を頂戴して神社を離れると、突然急な階段を上り下りしたせいか、脚が既に悲鳴を上げている。そろそろ、今日の数少ないバスが最寄りの停留所に来るはずだから、と思い、戻ってみたところ。

 既に、到着時間は過ぎていました。次の便が来るまで、2時間近く。

 これには参った。何故なら、次の便を待って一畑薬師まで行ったところで、そのあとの便までまた2時間ほど現地で待機せざるを得なくなる。この一畑薬師と一畑口とを結ぶ路線は土日、わずか3本しか運行していません。これを除けば、タクシーを呼ぶしかないのです。

 ……早起き出来たときの目論見通りに早く一畑口に到着していれば、ここまでのっぴきならない事態になることはなかった。その苛立ちが、私を暴挙に駆り立てたようです。

 歩きましたともさ。一畑口から一畑薬師本堂まで、約6kmを。

 一畑薬師があるのは山の上。6kmすべて山道です――いやさ、他にガイドがないため、私は結局、車が利用している道を登らざるを得ませんでした。つまり、山道というよりは、6kmの曲がりくねった坂道を延々登ってきたわけです……佐香神社の階段で、既に悲鳴を上げていた両脚に鞭打って。

 予報では今日あたりから雲行きが悪くなり涼しくなるはずが、雲は出ているもののやけに蒸し暑い。えっちらおっちらと登りきったときには、半袖の服は汗でびちょびちょでした……。

 そこまでして訪れた一畑薬師とはなんなのか。私がそもそもここに惹かれたのは、目の病気に効能がある、と言われているお寺だったから。再来週に左目の手術を控えている身としては、これは詣でないわけにはいかない。かつ、昨晩の第4回松江怪談談義にて採り上げていた水木しげるが幼少時、原体験となった“のんのんばあ”とのエピソードにもこの一畑さまは登場し、それにあやかって現地には多数の銅像が並んでいるらしい。

 どう考えても私にとっては意義がある、どーあっても詣でなければならない――という強迫観念が、今朝方のトラブルによって暴走した、といったところでした。着いたところで疲れ果て、ちょうど縁日であるために行われていた法話に耳を傾ける余裕どころか、何をして何をやめておくか、という判断も曖昧になって、手術に備えて買うつもりでいたお守りは忘れて、やめておこう、と思っていたお茶湯の茶葉は買う、という不思議な判断をしてしまった。1番の目当てだった、お茶湯を詰めた徳利は確保したんですが、あとあとモヤモヤした気分になりました……まあ、ここまで苦心してきたんですから、邪険にはなさらないだろう、と信じたいところですが。

 門前町のようなところで食事を済ませたあと、さすがに帰途まで歩く余裕はない、というかそんなことをやってたらせっかくのメインイベントに眠りこけてしまうのが確実だと思われるので、本日2本目のバスの折り返しに乗って一畑口まで戻り、電車にてしんじ湖温泉駅へ帰還。本日の宿に入ると、あまり人気のない大浴場を使わせてもらって、汗をしっかり流し、長めに湯につかって疲れと眠気を落とすのでした……。

 このあと更にちょこっとトラブルがありましたが、そこはもう省きます。話が長くなりすぎた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました