『キングスマン(字幕)』

TOHOシネマズ新宿、エレベーター脇のデジタルサイネージに表示されたキーアート。

原題:“Kingsman : The Secret Service” / 原作:マーク・ミラー&デイヴ・ギボンズ / 監督:マシュー・ヴォーン / 脚本:ジェーン・ゴールドマン&マシュー・ヴォーン / 製作:マシュー・ヴォーン、デヴィッド・レイド、アダム・ボーリング / 製作総指揮:マーク・ミラー、デイヴ・ギボンズ、スティーブン・マークス、クラウディア・ヴォーン、ピエール・ラグランジェ / 共同製作:ジェーン・ゴールドマン / 撮影監督:ジョージ・リッチモンド / プロダクション・デザイナー:ポール・カービー / 編集:エディ・ハミルトン,ACE、ジョン・ハリス / 衣装:アリアン・フィリップス / メイクアップ&ヘアデザイン:クリスティン・ブランデル / キャスティング:レジナルド・ポースコートエドガートン / 音楽:ヘンリー・ジャックマン&マシュー・マージェソン / 出演:コリン・ファースマイケル・ケインタロン・エガートンサミュエル・L・ジャクソンマーク・ストロングソフィア・ブテラソフィー・クックソンマーク・ハミル / クラウディ製作 / 配給:KADOKAWA / 映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment

2014年イギリス作品 / 上映時間:2時間9分 / 日本語字幕:松崎広幸 / R15+

2015年9月11日日本公開

2016年7月6日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://kingsman-movie.jp/

TOHOシネマズ新宿にて初見(2015/10/10)



[粗筋]

 幼い日に突然、父の死を知らされて以来。エグジー(タロン・エガートン)の環境は悪化の一途を辿っている。母はたびたび新しい恋人を作るがろくな男に当たらず、現在の男は母やエグジーを虐げる乱暴者だ。結果、ゴロツキたちとつるむしか出来なかったエグジーは、義理の父に嫌がらせをした際に、とうとう警察に捕まってしまう。

 刑務所行きを示唆されたエグジーが、咄嗟に思い出したのは、父の死を告げに来た男が託していったペンダントだった。困ったときは裏に書かれた番号に電話し、合言葉を告げろ、という。半信半疑で電話をかけたエグジーだが、その途端、本当に釈放されたのだった。

 警察署の外には、紳士然とした装いの男が待っていた。その男の名はハリー・ハート(コリン・ファース)――エグジーを助けた男であり、かつてエグジーの実の父に命を救われた、という男だった。うだつの上がらない生活を送るエグジーに、彼の父が優秀なスパイであったことを伝えると、ハリーはエグジーを自らの組織にスカウトした。

 自らを悩ませる悪党たちをあっさりと伸したハリーの戦闘能力に魅せられたエグジーは、どの国家にも属さないスパイ組織“キングスマン”への門を叩く。

 そこには各界の若きエリートたちが、新たなスパイ候補生として集っていた。欠員で生じた空席はただひとつ――だが、才能豊かな候補生たちとのせめぎ合いのなかで、エグジーは持って生まれたスパイとしての素質を覚醒させていく。

[感想]

 恐らく分水嶺は『ボーン・アイデンティティー』だったと思われる。冷戦の終了を境に衰退していったスパイ映画は、リアリティ重視、ヘヴィなアクションの導入により息を吹き返した代わりに、全盛期に備えていた遊び心をだいぶ損なってしまった。個人的には、実感できるリアリティを備えたストーリーに、周到な準備が生み出す超絶アクションとの融合、という趣向が好きなので不満はないのだが、それでも往年のボンド映画が持っていたような娯楽性を惜しむ声があるのも理解は出来る。肝心の『007』シリーズでさえ、ダニエル・クレイグの起用以降、シリアスなストーリーを軸としているのは、だから私にとっては嬉しいのだが、不満の声があるのも理解は出来るのだ。

 本篇の監督マシュー・ヴォーンはまさに、そうした不満を抱いていたらしい。本篇は、その鬱憤を全力で叩きつけたかのような、往年のスパイ・アクションの味わいを感じさせる快作となっている。

 ポイントは、スパイ映画ならではの特殊なギミックだろう。遠隔操縦可能な乗用車にシールド代わりになる傘、時間差で効果を発揮する毒薬……などなど、現実に製造するには技術的に問題の多そうなものばかりだが、凄まじく高いレベルでの駆け引きを必要とするスパイの世界ではありそうな気のする、そしてひとの子供心をくすぐるようなアイテムが大量に登場する。エグジーならずともワクワクせずにいられないし、身の程もわきまえず求めてしまう心境も理解できる。

 本篇の中心人物たるエグジーは当初、スパイの世界に関わることなど微塵も想像などしていない若者、乱暴な表現をすれば“チンピラ”に過ぎない。それ故、物語はスカウトからトレーニング、そして本格的な“陰謀”との戦いに推移していくが、そのプロセスでもかつての娯楽要素に満ちみちたスパイ映画の味わいを再現している。かなり無茶苦茶なトレーニングやテストの模様が描かれるが、そこにアイディアを盛り込み、小気味良い逆転をちりばめているので、飽きないのだ。

 しかしこの作品の凄みは中盤以降の、怒濤としか呼びようのない展開の数々だろう。これを書いている時点で公開から3年近く経ち、既に多くの人がご存じかとは思うが、それでもまだ知らない方のことを思うと、詳述は出来ない。このツイストの迫力は、まずは何も知らずに楽しむのが最善だからだ。

 中盤以降の展開は驚きとともに、観る者を興奮させる仕掛けだらけだが、ひとつのポイントとして、本篇は公開前の予告篇の段階から布石がある、極めて計算高い作りをしていることを挙げたい。これから鑑賞する方はまず予告篇を観ていただきたい。恐らく本篇を鑑賞したときの驚き、感激はいや増すはずだ。

 マシュー・ヴォーン監督といえば、クロエ・グレース・モレッツを一躍スターにした傑作『キック・アス』クライマックスの胸のすくようなアクションから、爽快としか言いようのない結末までの流れが印象的だが、本篇はそれを凌駕している、と言い切れる凄さだ。より舞台が広がり、戦う人数も増えた一方で、クライマックスを締めくくるアイディアが傑作なのである。劇場公開のあと、何度か鑑賞する機会があったが、そのたびにこのクライマックスは、たとえ“ながら見”であっても、手を止めて見入ってしまっている。インパクトの凄さ、という意味では映画史に残るレベルだ、と本気で思っている。

 冒頭からラストまで、緩急を与えつつも高いテンションを維持し続けるどころか、どんどん上げ続けていく。そして恐らく、ほとんどの観客が、観終わって劇場を後にするとき、最高の爽快感が味わえる。容赦のない残酷描写と、いささかブラックな要素も含まれているがゆえにレーティングは高めなのだが、それを割り引いても理想に近い、娯楽映画の大傑作である。作品が本来目指していたエンタテインメントとしてのスパイ映画に恋い焦がれていたひとはもちろん、爽快感のあるアクション映画を求めるひとも、必見の1本である、と断じたい。

関連作品:

キック・アス』/『X-MEN:ファースト・ジェネレーション

ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』/『X−MEN:フューチャー&パスト』/『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち

英国王のスピーチ』/『シングルマン』/『グランド・イリュージョン』/『インターステラー』/『SING シング』/『アベンジャーズ』/『トリプルX:再起動』/『リボルバー』/『記憶探偵と鍵のかかった少女

007/ゴールドフィンガー』/『007/スカイフォール』/『WHO AM I ? フー・アム・アイ?』/『ボーン・アイデンティティー』/『ゲット スマート』/『マチェーテ』/『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬

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