原題:“Somewhere in Time” / 原作&脚本:リチャード・マシスン / 監督:ジュノー・シュウォーク / 製作:スティーヴン・ドゥイッチ / 撮影監督:イシドア・マンコフスキー / プロダクション・デザイナー:セイモア・クレート / 編集:ジェフ・ゴーソン / 衣裳デザイン:ジャン=ピエール・ドルレアク / 音楽:ジョン・バリー / 出演:クリストファー・リーヴ、ジェーン・シーモア、テレサ・ライト、スーザン・フレンチ、クリストファー・プラマー、ビル・エルウィン、ジョージ・ヴォスコヴェック、ジョン・アルヴィン、エドラ・ゲイル、オードリー・ベネット、ウィリアム・H・メイシー、ローレンス・コーヴェン / 配給:ユニヴァーサル×CIC / 映像ソフト発売元:GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT
1980年アメリカ作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:戸田奈津子
1981年1月31日日本公開
2010年2月3日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
第1回午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品
第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series1 赤の50本》上映作品
TOHOシネマズみゆき座にて初見(2011/03/31)
[粗筋]
リチャード・コリアー(クリストファー・リーヴ)にとって、物語が始まったのは1972年、まだ大学生だった彼が手懸けた戯曲の初演の日である。成功裏に終わった上演のあとのパーティに、場違いな老婦人(スーザン・フレンチ)がいた。戸惑う列席者をよそに、リチャードの元に近づいた老婦人は、彼の手にひとつの懐中時計を握らせ、「私の元に帰ってきて」と告げ、立ち去っていった。
それから8年ののち。脚本家として大成したリチャードは、執筆の苦しみから逃れるために車を走らせ、ふと思い立ってグランド・ホテルに身を寄せる。
食事までの時間潰しのつもりでホテルの中を散策したリチャードは、史料室に飾られていた古びた写真を見るなり、心を奪われてしまった。
写真に映っていたのは1912年、ホテルに併設された劇場で上演された芝居で主演したエリサ・マッケナ(ジェーン・シーモア)という女優であり、彼女について取り憑かれたように調査を始めたリチャードは、晩年の彼女の写真を見て更に驚愕する。それは過日、リチャードに懐中時計を託した老婦人だったのだ。
リチャードは、図書館で発見した、エリサについての記事を手懸けた女性のもとを訪ねる。そこに保管されたエリサの蔵書に、“時間旅行”について触れた書籍があるのを発見したリチャードは、ある行動に出た――在りし日のエリサに出逢うために。
[感想]
SF的な趣向と恋愛ドラマは相性がいい。
直線的に男女の駆け引きや感情の変遷を追うだけなら似通った内容になりがちだが、SF的なひねりを施すことで、現実では考えられない類の情感を描くことが出来るからだろう。最近でも『エターナル・サンシャイン』や、『バタフライ・エフェクト』のような傑作が生まれている。
本篇は『激突!』など映画史に残る作品の脚本も手懸けているリチャード・マシスンが、自らの小説を脚色した作品である。世間的に、評価の高い小説を映画化すると、イメージが大幅に違ったものになったり、筋に無神経な改変が施されて、読者にとって不本意な出来になり評判も悪くなることがわりとありがちだが、本篇は原作者が担当しているせいか、粗筋を聞くだけでもかなり違いがあるのに、悪い評価を耳にしない。
この作品は、全体に“何故”という部分に触れていない傾向にある。根本の発想がSFにあるために、人によってはその説明不足が受け入れがたいかも知れない。
だが本篇の主題は、この奇妙なシチュエーションを説明することではなく、それが醸成する“想い”にこそある。決して他の状況ではあり得ない感情の高鳴り、困惑、そして苦しみを描くことにあるのであって、SF的な素材はそのための道具に過ぎない。主役はあくまで、遙か昔の女性に想いを寄せ、巡り逢うことを願う男の、傍目には滑稽で、しかし切実な葛藤なのだ。
しかし、本篇の秀逸なところは、そうして男の切なる心情を描くことで、実際にはほとんど描かれない、相手の女性の想いをも巧みに仄めかしていることだ。
観終わってみると、最もそのことを印象づけているのは、冒頭のあのひと幕であることに気づく。本篇の出来事を経てみると、あの時点で彼女が何を想っていたのか、物語のなかで綴られていない部分で何を考えていたのか、が気になってくる。そして、よくよく手繰っていくと、それを窺わせる描写が作中の、とりわけ主人公が過去へと跳躍する以前にちりばめられていたことに思い至るはずだ。ホテルの史料室に飾られた写真もそうだし、遺された蔵書もそう。周囲の人々が語る、ホテルでの上演後の振る舞いも、すべてを知ったあとだと実に象徴的に感じられる。
何故こういうことが起きたのか、どういうメカニズムでこういう事態に至ったのか、という説明はされていない代わりに、心情を伝える描写は非常に丁寧に織りこんでいる。しかもそれを、現代に生きる主人公リチャードの目線で直接的に描く一方で、過去の女エリサの心情を間接的に表現することで、感動に奥行き、膨らみを与えている。
結末は決してハッピーとは言い難いが、しかし本篇の齎す深い感慨は、シンプルなハッピーエンドでは真似できまい。特異な趣向が唯一無二の余韻を生み出す、味わい甲斐のある佳篇である。
関連作品:
『激突!』
『ヘルハウス』
『エコーズ』
コメント