TOHOシネマズ錦糸町 楽天地、スクリーン10入口前に掲示された『科捜研の女-劇場版-』チラシ。
監督:兼崎涼介 / 脚本:櫻井武晴 / 撮影:朝倉義人 / 照明:山中秋男 / 美術:松﨑宙人 / 編集:米田武朗 / 衣装:宿女正太、服部典子 / 録音:近藤義兼 / 音響効果:荒木祥貴 / 音楽:川井憲次 / 出演:沢口靖子、内藤剛志、佐々木蔵之介、若村麻由美、風間トオル、金田明夫、斉藤暁、渡部秀、山本ひかる、渡辺いっけい、小野武彦、戸田菜穂、田中健、野村宏伸、山崎一、長田成哉、奥田恵梨華、崎本大海、佐津川愛美、駒井蓮、水島麻里奈、福山潤、片岡礼子、増田広司、伊東四朗 / 製作プロダクション:東映京都撮影所 / 配給:東映
2021年日本作品 / 上映時間:1時間49分
2021年9月3日日本公開
公式サイト : https://kasouken-movie.com/
TOHOシネマズ錦糸町 楽天地にて初見(2021/9/17)
[粗筋]
法医研究員・榊マリコ(沢口靖子)ら京都府警の科学捜査研究所、通称《科捜研》の面々がそれぞれの家でくつろぎ、もうそろそろ眠りに就こうとしていたとき、召集がかかった。
洛北医科大学の構内で、ウイルス学研究室の教授・石川礼子(片岡礼子)が屋上から転落死したという。奇しくも目撃者は、科捜研と縁の深い法医学研究室の教授にして解剖医の風丘早月(若村麻由美)だった。
風丘いわく、石川礼子は転落する直前、「誰か助けて」と叫んでいた。しかし、科捜研の検証では、現場に第三者がいた痕跡はなく、むしろ石川礼子は助走をつけて勢いよく飛び出したことが判明する。
同じ頃、科捜研同様に石川礼子の死に不審を覚えた捜査一課の警部・土門薫(内藤剛志)は、彼女の行動を探っていたとき、新たな転落事故の現場に遭遇する。こんどの死者は京都医科歯科大学生体防御研究室の准教授・斎藤朗(増田広司)。彼は石川礼子と、最近ウイルス学研究室に異動になった助手・秦美穂子(佐津川愛美)と共に、東京にある帝政大学の微生物学研究室を訪ねていた。奇妙な成り行きから、斎藤が飛び降りた際、同じ大学に法医学教室の准教授として勤務する佐沢真(野村宏伸)と、斎藤のもとで働く研究員・石室達也(宮川一朗太)が目撃していた。斎藤は助けを求めてうずくまったあと、突然立ち上がって飛び降りた、というのである。
明確な殺人の証拠は出ていないが、状況が酷似し、様々な検査から判明したデータにも幾つもの共通点がある。榊と土門は刑事部長・藤倉甚一(金田明夫)に捜査を進言した。藤倉もこの異様な事態に、捜査本部を立ち上げて対応する。
鍵を握ると見られるのはもうひとつの共通項である、死者が投身する少し前に揃って訪ねた人物――微生物学の教授・加賀野亘(佐々木蔵之介)。目下、人間の腸内に存在する菌を用いた《ダイエット菌》の研究開発に没頭していた。石川礼子と斎藤朗も視察したというこの菌に着目した土門は、サンプルの任意提出を求める。拒絶する加賀野に、土門は家宅捜索を実施する可能性を仄めかしてサンプルを確保するが、加賀野はマスメディアを用いて警察の横暴を訴える策に出た――
[感想]
いつ頃からか、テレビ朝日といえば刑事ドラマ、というくらいに、捜査官がメインとなる長期シリーズのドラマを多数抱えるようになっていった。端緒がどこにあったのか、私は詳しく語ることは出来ないが、その中でも特に人気を保っているのは『相棒』と本篇だ、というのは言い切ってもいいだろう。現実には現場に出てくることはないのだが、クールながらも好奇心旺盛で行動力に富んだ法医研究員・榊マリコが積極的に捜査に赴き、科学的捜査の知見を駆使して隠された真相を暴く、というストーリーは、通常1話完結の手軽さのなかで驚きや感動を味わうことが出来、それでいて基本、どこから観ても、途中を見落としても楽しめる。科捜研のほかのメンバーや、いつしか仕事上の欠かせぬパートナーとなった土門刑事らのキャラクターも親しみやすく魅力的で、観ていていやな気分にならず、しかしミステリーの醍醐味を味わうことが出来る。展開に多少無理があっても、そうした確固たる魅力があるから、長年にわたって視聴者を惹きつけてきたのだろう。
既に『相棒』が何本も劇場版を発表していることを思うと意外だが、本篇はそんな『科捜研の女』初の劇場版である。
テレビシリーズの劇場版となると、不自然に遠征してみたり、やたらと大風呂敷を広げて収拾困難になることが珍しくない。しかし本篇はいい意味でも、悪い意味でもスタンスにブレがない。舞台は概ね、主人公である榊マリコの所属する科捜研が拠点とする京都、一部で東京の大学が出てくるが、観光地を出すわけでもないので、大がかりな印象は与えない。
初の劇場版ということで本篇には、テレビシリーズでは既に外れたレギュラーや、登場こそ少ないがメンバーにとって存在の大きなキャラクターが幾人も再登場している。キャストの知名度を考えれば、これだけの面子を召集するのもなかなか大変だったと思われるが、それを可能にするのも、作品が愛されているが故だろう。
気心の知れたメンバーを集結し、そして決して無闇に舞台を広げなかったことで、本篇はシリーズらしいやり取り、ファンの心をくすぐるユーモアがふんだんに鏤められている。榊マリコと土門刑事の屋上でのやり取り、振り回される所長、というお馴染みのものから、このキャラクターの関係性があってこその繊細な会話、反応が愛好者の気持ちをくすぐらずにおかない。個人的にいちばんツボだったのは、藤倉刑事部長が独断で捜査本部を設けた際に発する台詞だ――これを「面白い」と感じられるのは、テレ朝系列の刑事ドラマシリーズを、本篇に限ることなく楽しんでいる層だけだろうが、そういうことを承知した、いわば“内輪受け”や過ぎない趣向も、こういう作品にはあっていい。
このシリーズはテレビ放送のほうでも、1時間の尺で意外性を演出することがしばしばあるが、本篇においても、巧みな技が盛り込まれている。やや犯行に至る動機や手段に軽率さが窺え、榊マリコたちがあそこまで苦労しなくても良かったのでは? という疑問や、クライマックスでの見せ場が映画としての見せ場にこだわるあまり、展開として不自然になっているのが惜しいが、驚きと知的興奮は充分に味わえる。このシリーズの基本的な水準は充分クリアしているので、ここで不満を抱くようなひとはそもそもこの映画を観に来ることはあるまい。
ストーリー面でも基本的にオリジナル・シリーズの作り方を踏襲している本篇だが、歴代の関係者が多数登場する総決算らしく、事件の背景にも本篇の軸の1つである、科学というものを追い求める上での葛藤や覚悟について強く問うている点が、劇場版らしい深みを備えている。事件の中心にいる人びとは研究者であり、榊マリコたち科捜研の面々はそれを深く理解して活用する、という立場の相違があればこその見方の違いが、クライマックスに忘れがたいドラマを醸成している。本篇の中心人物たちは彼らなりに大義をもって行動に及んでいるが、犯罪捜査という見地からその結果に臨む榊マリコたちが放つ警鐘は、たとえシリーズに親しんでいないひとにも響くだろう。
やはり基本的には、テレビシリーズに親しんだひと向けの作品であるが、仮に本編から入ったとしても気軽に楽しめる。そして、これを楽しめる人ならば、違和感や物足りなさを感じることなくテレビシリーズにもハマるはずだ。現時点で既にテレビ版の第21シリーズが2021年秋よりスタートすることが告知されているが、その入口としても有効になるはずの、理想的な劇場版だと思う。キャストの豪華さのわりに2時間ドラマのような安さもあるが、そのライトさも含め、こういう映画もあっていい。
関連作品:
『千と千尋の神隠し』/『戦場のメリークリスマス』/『ひとよ』/『まぼろしの邪馬台国』/『カイジ ファイナルゲーム』/『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』/『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』/『一度も撃ってません』/『必死剣鳥刺し』/『の・ようなもの のようなもの』/『風に立つライオン』/『ゼロの焦点(2009)』/『コンフィデンスマンJP ロマンス編』/『ぐるりのこと。』
『J・エドガー』/『コリーニ事件』/『エジソンズ・ゲーム』
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